615話、ロゼッタ、兵士達の現状能力
アルケーニス見学が終わったので私は本日もいつも通りに訓練所にやってきた。
「あ、そや主はん、そろそろ準備はええ? 皆主はんと闘える位には強くなっとるはずや」
「あら、武将モードやっても大丈夫なのね」
「せや。それともうすぐ格闘大会らしいんやけど、今年も主はん出るん?」
「今年ももなにも今まで出場したことないんだよ?」
「でも去年優勝候補ぼっこぼこにしたやん」
言われて思い出す。去年の優勝もぎ取るはずだったシオン君、この国最強と聞かされたS級冒険者に闘いを挑んだのだ。
うん。私そこで勝っちゃってたわ。
「なんでも今年はシオンが破れたってことで各地の実力者がならば俺が、みたいな感じで集まって来とるらしで?」
えー、また闘えと?
あ、いや、待てよ。
「武将モード、出来たプライドへし折る、アレ決行。最弱君に……」
「あー。主はんが酷い顔しとる。絶対やらかす奴やこれー」
「はっはっは。何をおっしゃる邪神ちゃん。私がやらかしたことなんて数える程じゃないですかやだー」
「あ、一応自覚はあんねんな。でも把握しとる数が違う気がすんのは気のせいやろか?」
さぁーって、まずはできたてほやほやのやっすいプライド折り折りしちゃいましょうか。
「皆ー。実力は上がったかしら?」
集合した訓練兵達の元へと向い、軽く尋ねる。
すると、任せてください、とかキーリ嬢相手でもそれなり出来てますぜ。
とのこと。
キーリに視線を向けて見れば困ったように溜息吐いていた。
これは多分。キーリが手を抜いていたか、誇張表現だろう。
フェイル達も苦笑いしてるし。私への挑戦権を得ただけってかんじかな?
「そう、じゃあそろそろ、次の段階に入りましょうか。全員完全武装でトラック中央左側へ集合」
完全武装と聞いて若干戸惑いながら、皆が左側へと集合。
逆側に私が一人待機して、アイテムボックスから木刀を一つ取り出す。
「ん? あれ? 総司令官?」
「ちょ、ちょっと待て、この構図って……ヤベェ!?」
「フェイル!」
「はっ! これより訓練を始める。勝利条件はお嬢へのダメージ一つ。武器が体に触れればそれでいい。敗北条件は全滅だ。以上、始め!」
有無を言わさぬ開始宣言。
皆若干戸惑った様子なので、少しだけ待ってあげる。
うーん、だめか、咄嗟に武器を構えたのは隊長クラスだけらしい。
大局観もまだ習得してないな。もぅ、フェイル習得させといてって言ったじゃん。
「それでは、武将モード、開始」
言葉と終えると同時に地を蹴る。
無防備なままの兵士を一人、さらにそちらに気を取られた兵士を二人。
どうしたどうした? どんどん味方が減って行くわよ?
「は、速い!?」
「お、おい、誰が倒れた!?」
「何があった!?」
「ぜ、全員散開っ、密集してると的になるぞ!!」
反応が遅い、判断が遅い、対応が遅い。
及第点すらあげられないわよ。
これで五人。
「馬鹿な!? こんな短時間に!?」
「これが、総司令官の実力だと!?」
「ザイン、コパ、足を止めろっ」
それじゃあ敵の足を止めたいのか、二人の足を止めたいのか分からないんだよヴェスパニール。
はい、さらに二人。足を止めたら狙い目だよね?
「馬鹿野郎、自分の足止めてどうす、あっ」
ヴェスパニールはまだ多くの兵士に指示する時に止まっちゃうね。これは悪い癖。
一閃してヴェスパニールの意識を刈り取る。
「おい、嘘だろ!? ヴェスパニールがやられた!?」
「ヴぇ、ヴェスパニール隊、俺の指示で動け。立ち止まるな! 敵の動きを追え、今までと変わりはねぇぞ!!」
おっと、ネイサンがようやく動き出したか。
ちょっと遅れてレイコック、そしてバンディッシュが指示をしながら動きだす。
下手に止まって指示だけ与えていると私に狙い撃ちされると理解したようだ。
「クソ、背が低いせいで他の兵に隠れるっ」
「この状況で狙い撃てとか無理だって!」
「なんであんなに速く動けんだよ!? しかも射線に必ず兵士が入るし! まさか狙ってやってるのか!?」
そりゃ当然。大局観を覚えて戦場全てを見回して動けば何処をどう動けば誰が敵の邪魔になるかくらいは分かるんだよ?
ほら、ここで射線途切れっ。
「甘い、曲射でどうだ!」
魔法で無理矢理軌道を変えたか。
でも、遅い!
ほい、兵士ガード。
「へ? あいたぁ!?」
矢先は潰したの使ってるけどけっこうダメージあるなぁ。魔法で速度上げてるのかも。
「す、すまんっ!?」
「はい、これで10人目」
うーむ、動きが悪いなぁ。なんとか反応してるメンバーはいるけど、他の兵士が邪魔になって私に辿りつけないようだ。
もう少し人数減らしたら動きやすくなるかな?
でも、評価はすでにでてるんだよ『もっとがんばりましょう!』ってね。




