60話・ロゼッタ、え? 見合いじゃない? 友達選び?
「ロゼッタ、食事が終わったら書斎に来てくれないか?」
ある日、唐突にお父様に言われた。
朝食を摂ったところでの言だったので逃げることすらできなかった。
いや、逃げる必要はないんだよ。
私まだなにもやらかしてないよ。とってもお淑やかなお嬢さんなんだよ?
なんだろう?
何の用事かな? っと思いながらお父様の書斎へ向う。
リオネッタも一緒に来ようとしていたのだが、書斎前に居たメイド長さんが貴女はここまでです。っとリオネッタの首根っこ引っ掴んで去っていった。
お嬢様ぁぁぁぁっ!? と泣きそうな顔で連れ去られたリオネッタ。
なんか大変嫌そうな顔してたし、おそらくメイド長さんの抜き打ち掃除テストとかされちゃうんだよ。
しっかり屋敷全部を掃除しても窓辺をつぅっと指先でなぞって。ここがまだ汚れているわ。最初からやりなおし。とか言われちゃうんだよ。メイド厳しいなっ。
書斎へと入る。
机が正面に置かれており、こちらと机を挟んで対峙するように椅子に座ったお父様が出迎えて来た。
あ。立ち上がる気はないのね? 机のとこまで来い、と?
違うな。書斎の机は私の背丈と同じくらい高いから横に回って来いってことだな。
回り込んでお父様の隣にやってくると、ここに座りなさい、と自分の太もも差してきたのでよじ登る。
椅子に座るお父様の上に座った私に、机に広げられた羊皮紙を見せて来た。
「ご用はなんですかお父様?」
「うむ、これを見てほしくてな。好きなのを選んでくれ」
選ぶ?
と、羊皮紙の一つを見てみれば、人物の名前と年齢、背丈、家柄、交友関係などなど、何やら選考書類のようなモノが書かれていた。
「お父様? 婚約者でしたらリオネル様がいらっしゃいますわ? 今更……あれ? 女の子?」
他の用紙も見る。
女の子だ。書かれてる名前、全部女の子だ!?
え? 何、百合が咲いちゃうの? 女の子の婚約者も見付けろってことなの!? ハードル高過ぎなんだよ!?
「うむ。ロゼッタの友人を選ぼうと思うのだが、私が選考してしまうよりは自分で選んだほうがいいかもと思ってな」
え? 友達ってお見合い写真みたいに選ぶ時代なの!?
「一応、私自身でも選んではみたのだ。こちらは私が所属している派閥の同年代。この中ならこの娘とこの娘は比較的大人しいので取り巻きにしやすいぞ?」
取り巻き!?
え? どういうこと? 友達、だよね?
おかしいな? 私の考えてる友達とお父様の想定しているオトモダチの意味合いが違う気がしちゃうぞ?
僕と君は友達だから、やばくなったらサヨナラしちゃえる友達は友達じゃないんだよお父様?
「こちらの書類は中立的立場のものたちだな。引き込めるようなら引き込みたいが、向こうも警戒するだろう。お勧めはこの二人だな。かなり姦しいらしいが仲良くできそうなら是非してくれ」
お父様。政治が、友達作りに政治が介入していますっ!?
貴族怖い。友人も考えて付き合わないといけないの? そんな友人って息詰まるよね?
あれ? お父様、そっちの書類のは?
「ん? ああ、これは考慮しなくていい。今敵対している貴族の娘どもだから、下手に近づいて利用されるくらいなら関わらん方がいいぞ?」
怖いよ貴族!? なに敵対って、どういう付き合いしてるの!?
出会った瞬間切り合いしちゃうの? それはヤーさんだけで充分なんだよ。
仲が悪いってだけだよね? 敵って言い方が悪いだけだよね?
「一応、見てもいい?」
「構わんぞ? 学園に行った時に近づいてはならない人物として覚えておくのもいいしな」
だから怖いんだよ貴族。
学園でも子供同士で敵対しろってことなの? 家柄だけで敵認定とか重すぎなんだよ。
これはもう既存の踏襲を粉砕するしかないんだよ。
誰か知り合いいないかなーっと。
あ、ヤンデレ令嬢の名前発見。なるほど、これは近づいちゃいけない奴だ。
ブラックリストに既に入っちゃってるんだよ。
「こっちが味方?」
「ああ。味方というか、比較的仲の良い思想の侯爵家と下級貴族だ。仲良くなるのはいいが、男爵や子爵家は気を付けるんだぞ。あまり優しくすると付け上がるし弱点になりかねん」
弱点って何さ?
疑問が顔に出ていたんだろう。
お父様が苦笑する。
「はは、分からないか? さすがにそこまでは気が回らんよな? 下級貴族ということは。敵対貴族にとって逆らってくれれば断罪しやすい存在なのだ。ゆえにその貴族を一家ごと潰すぞ、と圧力をかけて自分の意のままにこちらを操ろうとする貴族もいるのでな」
ああ、だから下級貴族と仲良くし過ぎると人質みたいにされるのか……って怖いよ貴族っ!?
本当に友人になれる存在があまりにも限られ過ぎなんだよ!
仕方ない、ここは……あ。中立の方に書記係の子がいる。この子とは仲良くしておきたいんだよ。ヒロインに寝取られる時が可哀想だもの。