59話・リオネル、ロゼッタの真意は?
「おお、丁度良い所に、いくつか分かりましたぞ」
なぜかあまり乗り気じゃなくなってしまったリオネッタからロゼッタの日記帳の写しを受け取り戻ってきた僕に、暗号解読を頼んでいた学者が興奮気味に告げて来た。
どうやら進展があったらしい。
僕の名前であるリオネルを露わす文字を見付けてから少しずつだけど解読が進んでいるらしいのだ。
しかし、何故だろう?
つい先日まで率先してロゼッタの暗号を僕に見せ続けていたリオネッタが、なぜかもうやめませんか? とか言い始めたんだ。
何かまた秘密を握ったのか? それともロゼッタにバレそう?
いや、でも、ロゼッタと話した感じだと全く気づいてなさそうだった。
ロゼッタはリオネッタを警戒する気配すらなく、楽しげに僕と話を続けていたのだ。
なんでも本日は市民街に一人で行って冒険者登録をして来たんだとか。
なんでそんな事をしたのかと聞けば、僕の婚約者なのだから王族候補として市井の仕事や困ってるところを知るために冒険者になったんだそうだ。
考えることが大人だなぁ、と思わず感心してしまった。
僕も身分隠して冒険者になってみようかな? でも何をするのかよくわからないし。
市民街は危険だから王族は個人で向かってはならないとお母様から口を酸っぱくして言われているのだ。さすがに二の足を踏んでしまう。
ただ、ロゼッタはその登録の時間が押したせいで家族にバレてしまったらしい。
ちゃんとした答えを返すつもりでこれから何をしようとしているかを告げ、そこから父を論破、しようといろいろ考えていたのに、即答で許可がでてしまったので消化不良になって何とも言えない気分だ。と小首を傾げながら告げて来た。
なんか、ロゼッタとの差がかなり開いた気がする。
父親を論破するってことはそれだけの知識を身に付けてるってことだ。
いろんなことに積極的に動いて知識を吸収しているみたいだし、負けてられないな。
「それで、何がわかったんだ?」
「はい、ようやく概要が理解出来て来たんです。貰っていたメモ帳などはリオネッタのメモした内容と照らし合わせることで強引に当てはめてはいますが意味が通じる文字になりました」
「そ、そうか。合ってる、のか?」
「それはその内分かります。途中で意味が分からなくなれば翻訳の仕方が間違っておるのです。そうすればまた最初から始めればよいのです」
「嘘だろ……」
考古学者は頭おかしいんじゃないんだろうか?
適当にこれはこの文字だろうと仮定して文章を読んで行き、詰まったら全部白紙に戻して一からこの文字はこういう意味、と形づけて行くんだと。そんな事をしてるからいつまでたっても暗号解読が出来ないんじゃないんだろうか? と思うのは僕だけだろうか?
「ところで、そちらの用紙は? 新しい暗号ですかな?」
「あ、ああ。ロゼッタが日々付けている日記帳の最初の数ページを模写した用紙だ」
「見せてくだされ」
老人に手渡すと、王子相手だというのに毟り取るように奪い、眼を血走らせて文字を読み始める。
「……ば、馬鹿な!? こ、これは、訳が間違っているのか? いや、しかし、だが……っ!?」
「どうした?」
「あ。いえ、どうやら先程までの語訳は間違っておったようです。また初めから……」
「いいから話せ。間違ってるかどうかは私が判断する」
何か不穏な気配を感じた僕は学者に促す。
彼はしぶしぶ、額に脂汗を浮かべながら文字を指差しゆっくりと告げた。
「ここに、リオネル様を露わす文字がありますじゃ」
うん。確かに、これは今までの翻訳で分かっている。
「そして、その下の二文字ですがな。どうやらこの暗号文はニホンゴという暗号文のようですじゃ」
「ニホンゴ?」
「ええ。昔に居た古代人の言語でしてな。ニホンゴはヒラガナ、カタカナ、カンジ、スウジ、エイゴ、ローマジ、ギャルゴなどを組み合わせた言語である。とされておるのです」
「複数言語を混ぜ合わせた古代語か。それで、その二文字がどうした?」
「この二文字は既に解読ができております。この左にある文字は太陽を現し、その横にある文字は現象を露わすそうです。日に文字が付くことで意味が変わって来る漢字という暗号ですな。この文字は【暗】と現されておりまして、暗いという意味を持ちます。夜中などのほか、後暗いことにも使われる文字のようです」
「そうなのか。つまり、もう一文字によって意味が変わって来る訳だな」
「ええ。こちらは【殺】と現されておりまして。殺害、人殺し、何らかの息の根を止めることを意味します」
あ、あれ? それ、ちょっと待ってくれ。それは、まさか……
「心してくだされ。ここの文字を翻訳しますならば……リオネルの暗殺を……する」
「暗、殺……」
え? 誰が? ロゼッタが、僕を? 暗……殺?
「をとするの間に二文字入っておりますが、この文字はまだ訳せませんですな」
「そ、その文字は重要じゃないか? ロゼッタが私の暗殺計画など、ありえないっ! 私たちは互いに好き合ってる筈だ!」
「それは儂からはなんとも言えませんな……もし、勇気が御有りでしたら、直接尋ねてみてはいかがです? 暗殺するつもりが無いのであれば、間違った文章だと教えてくださるでしょう」
「い、いや、しかし、そうなるとこの暗号を調べていたことがロゼッタに……だが、真意を問いただして間違いだと言って貰いたい、でも、でももしも本当にロゼッタが私の暗殺を計画しているのだとすれば……ああ、私はどうしたら!?」
嘘だよ。ねぇロゼッタ? 嘘だよね?




