588話、ボロンゴ、情報が入らない
SIDE:ボロンゴ・チャイ・コウチャノサイテン
「聞いてないぞッ!!」
私は思わず立ち上がって叫んだ。
玉座の間で聞かされたのは、とある商人から話を聞いた兵士が緊急報告だと報告して来た内容だ。
それは南側に位置するメーテルゲルテンがライオネル王国に宣戦布告して攻め込んだという話だった。
本来であればライオネル王国にいる我が国のスパイから話が来るはずなのだが、今のところ全く情報が入って来ない。定期連絡にも問題無し、何もない。平和である。安定している。
どのスパイからの返答もメーテルゲルテンによる宣戦布告など全く言っていなかった。
それにこちらから向かわせたスパイ達が本当に任務を出来てるか確認するための者たちも、帰ってこない。
むしろ、こちらは消息を絶ってしまい、連絡すら取れない。
つまり、ライオネル王国からの連絡が唐突に消えてしまったのだ。
それも今年から突然である。
一体何が起こったのか全く分からない。
確か、最後にまともな連絡があったのは、新人のスパイとして送り込んだ女が敵国の貴族邸に出入りする男を射止めたという情報。
これは僥倖、これからさらにライオネル王国の近況が伝わってくると思った矢先に、どのスパイからの報告も「問題無し」である。
その理由を確かめる術もない。
「宰相、どうなっている!?」
「葦共が裏切るとも思えません。見付かって根絶やしにされたか、あるいは外部と連絡が取れない状態にあるのでは? ライオネル王国が阻止している可能性もあるかと」
「くっ、あの髭面、のらりくらりとやっておったがやはり内部で変化を起こしているなっ! すぐに情報を集めろ、ライオネル王国内は放置、外部からの情報で賄え!」
「すぐに」
兵士は話が済んだので追い返し、宰相も慌てて執務室へと引っ込んだ。
私は玉座に座り直し、爪を噛む。
「ええい、どうなっている? まさか貴族邸の男とやらに絆されたか? いや、それだと他のメンバーとも連絡が取れん意味がわからん。いや、連絡はとれているのか、本人の声で問題無しと言ってくるらしいからな。つまり、内部の情報を伝えることを口止めされている? 誰に? いや、そんなバカな事をする必要性があるか? いや、だが、現に我が国にはライオネルの情報が入ってきていない。これは確かにゆゆしき事態だ」
「へ、陛下! 大変です!」
先程追い返した兵士が慌ててドアを叩いて叫ぶ。
「なんだ! 無礼者が……いや、まぁいい、話せ」
余程切羽詰まっていたのだろう、兵士も自分が何をしたのか気付いてその場で膝を付いて土気色へと変化する。
「あ、は、はい、その……メーテルゲルテン王国、王を含めた軍団約1000名、ライオネル王国軍南砦防衛軍により、か、壊滅しました」
「ほぁ?」
「メーテルゲルテン王国に潜む葦からの連絡で今届きまして、その、こ、これは冗談か連絡ミスだと思うのですが……ライオネル王国が戦場に出した兵は、た、たった、22名、だったそうですっ!!」
「そんなバカな?」
いや、待て、落ち付け、落ち付くのだ。
もともとライオネル王国軍の実力が高いかもしれないというのは疑惑に上がっていたはずだ。
つまり、現状その説が立証されただけ、ライオネル王国軍は前年より格段に進化しているということだ。
だが、だがっ。た、たった20余名で1000名近くを、壊滅?
「め、メーテルゲルテン王は?」
「つい先ほど王城に帰って来たそうです。空から」
「……は?」
「そ、それと、なぜか女装を始めているとか」
訳が、わからん。
くそ、ライオネル王国に潜む葦どもはどうした? お前らスパイだろうがっ。なんで音沙汰ないのだっ!
「ら、ライオネル王国側の葦から反応は?」
「先程直ぐに魔法で送りましたが、問題無し、としか」
何が、何が起こっておる?
葦たちはどうなっているのだ?
我が国に情報を送れない理由でもあるのか?
くぅぅ、いかん、いかんぞ。このままでは我が国もライオネル王国に煮え湯を飲まされかねん。
しかし、下手に動く訳にはいかん。
情報無く動けば相手の思うつぼ、それこそ国ごと滅びかねん。
なんとか内部の葦たちと連絡を取らねば。
「粛清官たちから連絡は?」
「先月送った者もライオネル王国に侵入したという連絡を最後に……」
向こうの葦か何かに消されたのか? あるいは別の何かに?
そう言えば、あの国は今、闇組織アルケーニスの本拠地になっていたな。
奴らが動いたか? まさか、それなら我が元に警告を込めた暗殺者が送られるはず。
一体、何時からあの国は変わったのだ?
既にあの国から情報を引き抜くことが出来なくなっているのでは?
まるで、魔窟だ。あの国には、魔王でも住んでいるというのか!?
……ああ、邪神は住んでいたな。
そうか、邪神王国ライオネル……下手に敵対するのは、危険だな。




