583話、ロゼッタ、さぁ。闘いを始めよう
ピュリティア姫は一時的にベルングシュタット家で預かる事に決定した。
ほんとはね、王城で寝泊まり出来れば良かったんだよ?
でも戦争を行う敵国の姫な訳だし、陰謀渦巻くかもしれない王城内で万一毒殺されたり誘拐でもされれば国家間大問題だ。
なので一番安全らしい私の傍におきたいのだと宰相閣下が直々に命令してこられたのである。
上司から命令されたら拒否権は無いので大人しく従うけれど、一瞬掠めたプライダル商会の寮に住んで貰う、という案は、次の瞬間浮かんだペルグリッドの顔やヒロインちゃんの顔で断念、万一ピュリティア姫がアレらに絡まれて常識ではない常識を覚えてしまったら……
とはいえ、彼女を守るにはそれなりに使える人材が必要になるし……
キーリはいろいろ必要だし、誰か良い人居ないかしら?
と、考えて思い至ったのは、プライダル商会の女性メンバーに護衛させればいいのでは、という案であった。
と、言う訳で、個人的な趣味のためにも、シゼルをクラムサージュから借り受けました。
うふふん、これで、家に帰ればシゼルがお出迎えなんだよ。
猫娘が家にいる生活。喉をゴロゴロならしたり、ベッドの上でうにゃんうにゃんと悶えたり。
うへへへへ、最高じゃないですか?
ああ、撫でたい。今すぐにでもシゼルを撫で廻したい。
猫ちゃん可愛いーっ。
っと、危ない危ない。
いろいろ忙しく立ちまわったせいかちょっとストレス溜まってたのかも。
残念だけど時間的余裕が無いのでシゼル撫で廻しは諦め、私は南砦に向かったのである。
訓練場はフェイルとキーリにお任せだ。
どうせ今の時期だと私の出番ないからね。
私? これから南砦指揮に向かうんだよ。というかもう向かっちゃったんだよ。
飛行魔法を解いて南砦の屋上に着地。
パルガスが報告聞いて慌てて駆けて来たものの、私の姿を見て呆れた顔をしている。
ちょっと、総司令官が来たからってその顔はどうなのよ?
「お嬢、いや、分かっちゃいたんだが、来るの早過ぎませんかね? しかもワクワクしてません?」
「んっふっふ。なんと今回陛下と宰相閣下から、遠慮はいらん、好きにやれ、と言われてるんだよ」
「……嘘だろ?」
「え? ほんとなんだよ? どったのなんかこの世の終わりみたいな顔して?」
「なんでそんな指令出しちまったんだ閣下……お嬢に自重すんな、なんて、死ぬぞ? メーテルゲルテンを滅ぼす気か!?」
「失敬な、向こうの王様は生かして捕らえるんだよ。んで、現状報告は?」
「目に見えて分かる通り、目視確認できる場所まで敵影が迫ってますぜ。こっちゃあ22名全員準備完了です」
そっか、パルガス隊はもともと15名で新人さんが7名入ったから22名か。
しかし、こんな数で一国の軍相手にしようとか、正気の沙汰じゃないわよね。
まぁ出来ちゃうんだけど。
「お嬢、折角ですし、俺らだけで、やらせてもらえませんか?」
「うん?」
「お嬢の手を煩わすまでもないでしょう、遠慮はいらないってぇなら俺らの実力を示す良い機会、お嬢は万一打ち漏らしがあった場合のフォロー役として砦を守っておいて貰えませんか?」
ふむ、本当なら一緒に戦闘しようかと思ってたんだけど、任せろってことなら任せてみようか。
死人を出しちゃダメよ?
「じゃあ条件として、全員生還すること。一人でも重傷負ったら私も出るわよ?」
「了解、一人も重傷者出さずに敵性存在の鎮圧。並びに捕縛、王は最優先、ってことでいいっすかね?」
「あら、王様来てるってわかるの?」
「あそこまで先陣切られてると嫌でも目立つでしょう」
目視確認出来る位置に、ひときわ豪奢な服装のおっちゃんが白馬に乗って先陣切ってる。
成る程、あれは王族だわ。
なんなら影武者か何かかと思いたかったけど、どう見てもメーテルゲルテン王その人だ。国際会議で見た覚えがあるんだよ。
「いいですかお嬢、くれぐれも、くれぐれもお嬢自ら打って出るなんてことはないように、俺らの雄姿をしっかりとここで、こ・こ・で見学していてください」
そんな強調しなくても、ちゃんと見てるんだよ? 全くもう、自分たちの成長した実力私に見せたいのはわかるけども……
まぁ今回は大人しく傍観に徹するか。
折角皆がやる気出してるんだし。
装備を整え、私を残した兵士達が砦から出た広場へと向かって行く。
広場で整列し、点呼、一糸乱れぬ数字を告げる声が21まで続き、隊長であるパルガスが口を開く。
「良いか同志諸君、我々にとって初の対人戦だ。今回お嬢がご見学あそばされる、絶対に無様を見せんなよ? 目標は全員の生還、敵性分子の鎮圧、捕獲だ。つまり殺さず捕らえろ。相手のリーダー格である王は特に絶対生存だ。敗北条件は誰か一人の重傷。負った瞬間お嬢が全てを灰燼に帰すぞ。各員本気で当たれ! 以上!! 各員配置に着け!」
う、うん? なんか私貶されてない? 気のせい?




