563話、クノッテン、なんだ……こいつは?
SIDE:クノッテン=ピースホワイト
今、何が起こったのだろう。
俺達兵士はただただ呆然と、空を見上げ、そこから落下して来たレイコックを見ていた。
少女が拳を突き上げ、そこに腹から落下したレイコックを。
ゲボォッと致命的な声を吐きだし『く』の字に折れ曲がったいや、上から下なので『へ』の字に折れ曲がったというべきか、アレはもう内臓が破裂したはずだ。躊躇い無くレイコックを殺しやがった!? なんなんだ? なんなんだこの女?
「さて、全員揃ったわね。それじゃあ自己紹介を始めましょうか」
いや、待て、ちょっと待て!? この状況で話し始めるつもりか!? 頭おかしいのではないか!? おいフェイル、頷いてないで止めろよ!? どうしちまったんだお前は!?
「皆さん初めまして、今年度より皆様の上司となり、戦闘訓練、兵士としての基礎知識等を教育することになりました、ロゼッタ・ベルングシュタットと申します。役職は総司令官。各部隊長の上に位置する地位となります」
お、恐ろしい上司ができた、だとぉ!?
ま、不味いのではないか? これは不味いのではないか?
今までは俺が一番上だったから部下達の不満は抑えこめていたし、暴走する弟がヘイト管理をしていたから俺が槍玉にあげられる事は無く好きな時に好きな奴を殴り飛ばせたが、もう、出来なくなるのでは!?
しかもネイサンの阿呆がロゼッタ嬢見て素晴らしい腕力だとか呟いとるし、絶対にあの令嬢ヤバい精神性だろう!
いかん、我がバラ色ライフが今日を持って終了してしまいかねん。
ど、どうすれば……
「あー、嬢ちゃん、一応分かっちゃいるんだが、ウチの兵士共はそこまで兵士としての仕事に熱心って訳じゃねぇ、他の兵士達も似たり寄ったりだ。下手に訓練内容変えられたら辞めちまうぞ?」
「あら、別にその程度の根性しかないのならこの国の兵で居る必要はないわ。だからそこは気にしなくてもいいわよバンディッシュ。フェイル、皆にアレを」
言われ、フェイルと部下の三人が羊皮紙の束から一枚づつ俺達に配ってくる。
羊皮紙に書かれていたのは……なんだこの練習メニューは!? 今までの比じゃないぞ、殺す気か!?
「ガレフ達が見違えたことで覚悟はしていたが、さすがに初日から多過ぎませんかロゼッタ嬢?」
「ヴェスパニール、怖気づくのは分かるけど、ソレはもう一度、明日伝えて貰えるかしら? 本日は私の訓練を受けた兵士の実力を貴方達に見て貰って、貴方達の完成形をしっかりと自分で確認して貰おうと思っているわ」
「ふむ、つまり、俺達に先に訓練を受けていたフェイル隊の演技でも見せてくれるのか嬢ちゃん?」
「あなたは……確かネイサン隊長ね。グラサン似合いそ……おっと失礼。残念だけど演技じゃないわ。あなたたちで実際に戦って貰おうと思うの」
「俺達と戦う? さすがに全員と総当たりだとフェイル達の体力がもたんだろう?」
「……何を言ってるのかしら? 貴方達全員とフェイル隊の一人が戦うのよ?」
……何を言ってるんだこのキチガイは?
たった一人で四部隊と闘いなど出来る訳がないだろう!?
「まぁハンデというわけでもないけれど、誰にするかは貴方達で選んで良いわよ、フェイル隊、自己紹介をお願い」
「はっ! 私はフェイルだ。武器は今掲げている旗を使う。四人の中では隊長という事もあり実力は一番高い」
は? ……旗は武器じゃないぞフェイル? 頭は大丈夫か?
「パンダフだ。武器は片手剣。接近戦が得意だが魔法も使える」
「トラヴィスだ。武器は槍。斥候役と暗殺が得意だ」
「バリーっす。武器は弓。遠距離戦が得意っすよ。ちなみに半年前のゴルディアス隊長たちとは俺が闘ったっす」
いや、どういうこと?
俺は思わず周囲を見る。
皆、良く分かっていなかったようで目を白黒させ、互いに分かってる人物がいるかと探しているようだった。
「あのよぉ、ようするに、こいつ等全員、じゃなく、この中から俺達なら勝てる、って思った一人を指名して全員対1で闘うって、ことか?」
バンディッシュが恐る恐る告げる。
ロゼッタ嬢はそれに、この世の悪意全てを詰め込んだ笑みを浮かべた。
「理解が早くて助かるんだよ」
「さぁ選んでくれ。全員準備は整っている。自分たちなら勝てそう、そう思う兵を選んでくれ」
いや待てフェイル、いや、え? 本気かこいつ等!?
「お、おい、ヴェスパニール、バンディッシュ、ネイサン、ど、どうする?」
「あー、なんだ、あの嬢ちゃんなら普通にやりかねんよ」
「バンディッシュは知り合いか?」
「シュヴァイデン隊と交替の時に一緒に来ててな、その、あの嬢ちゃんが来てすぐにデーバルデ砦が爆散した。あと自動で夜な夜な歩く雪達磨がデーバルデ方面で警備し始めた」
「……意味が、分からんが?」
「ああ、俺もわからん。ただ、あの嬢ちゃんが出来るっつったんだ、フェイル達は俺達が束になっても敵わない実力があるんだろうよ」
本当に!? いや、冗談だろう? というか冗談だと言ってくれ。軍を相手に一人で勝つとか、俺達の部隊が一人の兵士に負ける弱卒になってしまうではないか!?




