53話・ロゼッタ、薬草採取は種類が分からないとできないんだよ
平民街をさらに進んで街門へとやってくる。
街を囲う城壁なんだよ。
ここがライオネル王国の最先端、ここから先は魔物蠢くフィールドなんだよ。
でも、ちょっと問題がある。
自分の魔法とか試してみたいから冒険者やってみようって思ったんだけど、魔物を殺したりするのはちょっと不安なのだ。
私に生物の生殺与奪を握る資格と覚悟があるのかどうか。
でも、リオネルを救うためには暗殺者が来たら対応しなきゃだし、そうなると魔物数体くらい秒殺できるようになっといた方がいいんだよ。
だから私は冒険に出る。
徹底的に敵をぶっ倒すのだ。
それに魔物倒したらどうなるのかも知っておきたいし。
普通ならただ死体が残るんだけど、ここがゲームの世界ならアイテムだけ残して死ぬとか、死んだのに生き返って仲間になりたそうな眼で見つめて来たりしかねないんだよ。ふわもこな魔物いたらテイミングも辞さない構えだよ!
っていうか門番のおっちゃん、女の子一人で行くのはあんま感心しねぇぞ。とか言わないで。死んだりしないよ。今回は安全な子供たちと一緒の草取りだもの。
と、言う訳で、同じく薬草採取に向かう浮浪者っぽい男の子捕まえて案内してもらう。
案内代に銅貨を一枚渡してあげたら喜んで案内してくれたんだよ。
いや、なんなら金貨を、とも思ったんだけど、ほら、こういう平民さんって金貨なんか渡されたら周囲からのやっかみありそうじゃない。
だからお小遣い程度のお金で良いんだよ。それでもかなり大金貰ったような顔してるけど。
うん、普段お金もってない少年からしたら銅貨でもお腹いっぱい食事買えるから大感謝だったらしいんだよ。
やばい、他の少年少女たちが眼の色変えて私を見ている。
これは何かやって貰いたい事とか呟いたら暴動が起きるぞ!
俺が金貰うんだー、私だーとか争っちゃうんだよ。
おかしいな。そんなことするつもりなかったんだよ? ただのチップのつもりだったんだよ?
森にやって来ると皆思い思いに草を摘みだす。
なるほど。この辺りは見晴らしもいいし、森といっても本格的に森に入る手前の草原地帯だから視界不良で魔物の接近を許すことも無い。
皆自分より大きな籠を背負って薬草取りまくるつもりらしい。
どんだけ取っても次の日には生える強い草らしいので皆遠慮なく毟り取っているそうだ。
私も適当に毟ろうか?
よっし、この辺りの草をぶちっと。
「姉ちゃん、それ麻痺草だぞ?」
……あれ?
じゃあこっちは?
「それは毒消し、一応需要はあるよ? そっちは沈黙草」
むむむ。これは分かりにくいんだよ。
鑑定スキルはないのかね?
そうだ! 眼に魔力を集中させて。想像するんだよ。
見たモノを鑑定する、鑑定眼の魔法を!
「どったの姉ちゃん?」
少年が動かなくなった私を心配して小首を傾げる。
創造するんだ。せめて判別が付く魔法を。私の知識総動員ッ!
ぬぬぬぬぬ、むむむむむ。ッ! 見えた!!
「ぎゃぁーっ!? 姉ちゃんなんで鼻血出してんの!?」
へ?
言われて鼻筋を拭ってみる。掌に付いた真っ赤な液体を見て絶句。
「な、なんじゃこりゃぁ!?」
って、それは死亡時の台詞だった。
え? どゆこと?
あ、もしかして集中し過ぎて鼻の毛細血管切れちゃったかな。
失敗失敗、ちょっと集中やり過ぎちゃったね。
えーっと、なんだっけ?
「祖は癒帝に属す下位なる精霊、我願うは球華、我を癒す一撃を望むッ、ヒールボール!」
あー、癒される。
これがこの世界での治癒魔法らしい。
ヒールだけどボールなんだよ。
ちなみにヒール系だけ我が敵を穿つの一文が我を癒すに変わるようだ。
まぁ、敵じゃなく自分に撃つからねー当然なのかな。ちなみに味方に撃つ場合も文脈変わっちゃうんだよね。
でも敵に向けて回復放とうとすると詠唱失敗で魔法が出現しない。でもMPだけはちゃっかり消費するんだよ。
「すっげぇ。姉ちゃんもしかして魔法使えんの!?」
「ふふ。簡単なモノだけだけどねー」
鑑定眼の魔法もやり方覚えたし、もう鼻血出すこともないんだよ。
というか、今更だけど皆の方が年上じゃない?
私姉というより妹系だよね。
ほら、背丈も少年の方が高いし。
まさか、姉ちゃんじゃなく姐ちゃん!?
ち、違うよ、私は極道系じゃないんだよ!? 眼つきは極道系だけどただの悪役令嬢なだけだよ?
そ、それにしても、鑑定眼ってあんまり使えないね。自分が認識した葉っぱしか鑑定できないもん。
いや、でも薬草と快癒草と麻痺草と毒消し草と沈黙草の区別は付くようになったんだよ? ちゃんと名前でるもん。でもおかしいなぁ。この周辺パラライマッシュがないんだよ?