520話、ロゼッタ、機密だらけの会談
「ほぉ、これは……」
「どうしたルギアス?」
毒見役も引き受けているようで、ルギアスさんがプリンを食べる。
「初めて食べる食感です。こう、口の中でふわっと蕩け、ふっと消えてしまう。後に残るのは甘かったという名残惜しさ」
「な、なんだその美味しそうな表現は!? 一個出せ」
プリンを一つ差し出すルギアスから乱暴に奪い取り、竹スプーンで掬い取るメテオラ帝。
スプーンの上でぷるるんっと震えるプリンを見ておおおっ!? と驚きの声を漏らす。
うん、せっかくなのでプッチン様を送ってみたんだよ。
本来のプリンは蒸しプリンなんだけど、これはほぼほぼプリン味のゼリーと言ったところだ。
普通のプリンは蒸すのだけど、このプリンはむしろ冷やすことで作るプリンである。
ぷるんぷるんと震えるので見た目のインパクトも良く、そして口の中で蕩ける甘い味。
年頃の少女であるあらば、これほど的確な贈り物は無いだろう。
「むふーっ! んー♪」
目を閉じて、頬に手を当て至福を堪能する。
贈り物は満点ってところかな。
とりあえず、依然綱渡りな事に変わりない。
正直OL時代の接待やらミーティング、提案会議等々さまざまな経験がなければ早々に怒らせていたかもしれない。
この少女の機嫌は一瞬で変化する、ゆえに下手な事を言うだけでも致命的だ。けど、相手を喜ばせるには致命的一歩手前程度の会話をしなければ有象無象と切り捨てられるだろう。
難しいかじ取りだ。この感覚、サラディンは全くついて来れていないようだ。
宰相さんならもっと上手くコミュニケーション取れていたんだろうか?
待っとくべきだったかと悔むが、もう遅い。ここまで会話の選択が難しい相手だと分かっていれば丸投げしていたのに。畜生貧乏クジ引いちゃった。
「ところでメテオラ帝王様、お恥ずかしながら私達はこういった場での話し合いの経験がありません。宰相閣下に尋ねる前に来てしまいましたので無礼な事をしでかしてなければよいのですが、どういった話をすればよいのかと不安に思っております」
「いや、ロゼッタよ。さすがに他国の王にそういった事を告げるのはどうかと思うぞ?」
「ですが知ったかぶりで会話を始めたところで無作法なモノ言いになってしまえばそれこそ致命的でございましょう? 後で宰相閣下に教わるとしても、可能であればメテオラ帝様主導で話し合いをして頂けたらと思いますわ」
にっこりと笑って相手にバトンを渡す。
伝わるかどうか分からないが、下手な事をこちらにやらせたとしても後で宰相に確認取るぞ。と言っているので、嘘を教えられることは無いと思う。
「ふむ。ルギアス、こういう時どんな話をしておった?」
「基本相手国との関税等の話ですな。近い国であれば休戦協定や共同演習などの話をしたり、相手国の失態をなじったりこちらへの探りを防いだり。しかしながらライオネル王国とは離れておりますし、相手は言ってはなんですが最弱国家。下手な攻防もする必要がなく相手の失態などそれこそなじる必要性すらないほどに地の底です」
評価最悪ねライオネル王国。
「そなたら、良くそんな国の使者やれたな……」
「なんとか内側より改革しようと努力しておりますわ」
「ふむ。なればそうだな。面白い話はないか? なんかこう、普通ではない話だ!」
普通ではない話? あったかしら?
「ロゼッタ嬢、山の話でもしてやったらどうだ?」
「えー、私のやらかしよサラディン。さすがに恥ずかしいわ」
「なんじゃなんじゃ。山で遭難でもしたのかぁ? そこまで恥ずかしがるとちょっと聞きたくなるなぁ」
「んー。まぁいいですけど。別にそこまで特別なことではありませんよ? ただ家庭教師に魔法を習おうとした時に、せっかくなら今できる最大級の魔法が見たいと言われたので山に向かって撃っただけですのよ」
「んん? 想定していた話のだいぶ斜め上を行ってしまったんだが?」
「全力で撃ち込めというから属性魔法を全力で込めて放ったら一山吹き飛んで消え去ったと言うだけですのよ」
「ん……んん?」
「しかもその山にたまたま魔物の守護者たちが集まってたらしくとそれも纏めて消し飛ばしたので急速なレベルアップで全身に激痛が走って気絶してしまったと言う、ああ、恥ずかしいですわっ」
「……ルギアス、アレは誇大妄想の類だろうか?」
「事実だとは思えませんが……いや、むしろ思いたくありませんが……」
「事実だとしたらこの女アホみたいに高レベルだぞ? ルギアス今いくつだっけ?」
「そろそろ200になろうかというところですな」
まだ200に行ってないなら兵士達でも勝てちゃうんだよ? まぁ技術次第で負けるけど。
それでも自力で200まで上げるとか結構強いよね。さすが強国。




