516話・ロゼッタ、何もしてないのに怒られたんだよ?
「分かってはいた、分かってはいたが、他の国に迷惑を掛けるなといっただろう!」
宰相さんがおこだった。城の真上に転移したのが駄目だったらしい。
なんかキーリが魔族だから確認のために鑑定したいっていうから了承したら、なんか青い顔で兵士さんが去っていった。
むぅぅ、早く降りたいなぁ、魔力消費が結構酷いんだよ。
周囲から魔素奪うのも結構限界が、もうちょっと範囲広げないと荒れ地になりそうだなぁ。
「きょ、許可は下りました、この中庭に着地してください、それと、我が国へ邪神を連れて来た理由を説明頂きたい。早急に説明できる高位の方は陛下の元へ来ていただきたく……」
「では私が参りましょう。あとロゼッタ嬢とキーリ嬢。ついてきなさい。それから……絶対に、ぜぇったいに私が振るまで息以外何もするな。挨拶だけだ。よいかロゼッタ嬢!」
「了解です宰相閣下」
フリかな? とは思ったけどさすがに悪ふざけしていい雰囲気じゃないので止めておく。
キーリも、厳かな場所だから変なことしちゃだめよ?
「ウチ、なんかやらかすなら主はんやと思う」
なんでさ!? って、近衛兵と陛下まで頷いてるし!?
「では我々は先に陛下を部屋に送っておきます。そこの者、ライオネル王国の部屋に案内出来る者を呼んでくれないか?」
「は、はい、ただ今」
青い顔の兵士さん。皆に顎で使われて可哀想に。
「では、行こうか」
別の兵士さんに案内されて、私達三人は護衛も連れずに向う。まぁ、私とキーリが護衛になるのかなこの場合?
あっと、武装は無い方がいいわね。アイテムボックスに入れちゃおう。最悪の場合は浮気撲滅断罪拳が火を噴くんだじぇいっ。
「ロゼッタ嬢……」
「え? 何か?」
「言った傍から君は……いや、いい。どうせ分かってないのだろう」
変な宰相さん。キーリに視線を送るがふぅーとお手上げ。良く昔にあった外国人がやる奴だ。凄く上から目線っぽくて私アレ嫌いなんだよね。前に会社に来てた海外のお偉いさんが仕事現場見てふぅーぅと落胆したような声出して肩を揺らしてたのがホント、何度あの顔面殴りつけてやろうと思った事か。
雑巾絞り茶をお出ししたのはいい思い出だ。変わったお茶だね、僕は好きだよHAHAHAとか言ってたので意趣返し出来なくてさらにストレス溜まったし。普通に飲んでんじゃねーよちくせう。
「どうぞ、陛下がお待ちです」
謁見の間の前にいたハルバードを持った二人の兵士さんが扉を開けてくれる。
私達は宰相閣下を筆頭にして、謁見の間へとやってきた。
「ご機嫌麗しゅうスグニマケイル国王陛下」
玉座に座る王様っぽい人の目前で、少し距離を空けて小さな三つほどの階段。その下の赤絨毯の道を歩き、階段手前で立ち止まった宰相閣下が両手を目の前で合わせてそこに頭をくっつけるような礼をする。
これ、中国式の挨拶に似てるね。昔の映画とかでよく見るあの掌と拳を付き合わせて礼するやつ。
宰相閣下のやり方だと謝謝とか言いそうだけど。
あ、そっか、自国の陛下相手じゃないから傅く必要が無いんだ。あっぶな、私だけだったら普通に傅いてたよ。この辺り、王族の方とかに聞いといた方が良さそうだ。
「ライオネル王国の使者だな?」
「ライオネル王国宰相クリストファーと申します。本日は街門を無視した到着でありながら御配慮頂き恐悦至極にございます」
「う、うむ。よきにはからえ」
そう告げながら、国王はすぐ横にいたスグニマケイルの宰相さんに耳打ちする。
「お、おい、宰相が来たぞ。ど、どうなっている?」
「わ、分かりません。あそこの宰相は出不精だと聞いていたのですが、ほ、本物でしょうか?」
困惑気味に顔を見合わせた二人は、直ぐに視線を宰相閣下に向ける。
「そなたがライオネル王国の宰相だと? 今まで来なかったのに珍しいな? やはり邪神を連れて来た事に関係があるのか?」
「いえ、単に移動手段の短縮が出来た事と、私の仕事が片付き、他の者に任せても問題無い状態になったから来たまでです。私としましても毎年国際会議に出られぬことを悔しく思っておりました。今年は陛下と共にしっかりと現状を見聞きしたく思っております。この度はよろしくお願いいたします」
「う、うむ。そうか。で、では、本題に入ろう。その、だな、そなたらが連れて来たそこな魔族。鑑定の結果邪神だという話ではないか。それは承知で連れて来たのか?」
「既にテイム済みで他国に迷惑を掛ける可能性がありませんからな。さすがに我が国としても他国と事を構えたいとは思っておりませぬゆえ、今回は本当に陛下の護衛と、彼女たちが我が国以外も見てみたいと申しましたゆえ同行を許可したまでのこと。決してご迷惑を掛ける意図は微塵もありませぬ。我が国の威信にかけて誓いましょう」
「では、会議中にその者が襲いかかってくる可能性はない、と?」
「はい。我が国に危害が及ぶ事が無い限りにおいて、彼女が他者に襲いかかることはありません」
あー、そっか、深く考えてなかったけどキーリってば邪神じゃん。そりゃそんなもの連れてきたら沢山の首脳陣が集まる場所で一網打尽の攻撃してくるんじゃないかって不安になるよね。
というか鑑定でバレてるじゃん、なんで隠してないのキーリさんや。隠蔽魔法教えたよね?
「ところで、隣にいる御令嬢はどちら様かな?」
むぅ、なんだか嫌な視線がこちらに……
「彼女は……」
「ご機嫌麗しゅう、スグニマケイル国王陛下。私はライオネル王国軍総司令官にして、第三王子リオネル様の婚約者でありますロゼッタと申します。他国の陛下への挨拶の仕方は習っておりませんので多少粗相がございますやもしれませんが、笑って許していただければ幸いと思っております」
カーテシーを行い軽めの挨拶。
今回武装はせずにキーリ共々ドレス姿で謁見用正装である。
もしかしたらこういうこともあるかも、とこちらで来て正解だった。
「ほぅ、第三王子の婚約者か。はて、第三王子はこの度来ていないと聞いているが?」
「この度こちらに来ましたのは軍総司令官として近衛部隊の指揮を行う為にございます」
おっと宰相閣下に睨まれた。余計なことは言うなって事らしい。
転移のために付いてきましたとは言わない方が良さそうだ。
でも宰相閣下、私がリオネル様の婚約者だってことは伝えておかないと、婚約の話が来ちゃうんだよ? いやん。もう婚約者がいるんですぅ~。
「主はんに婚約したいとか、モノ好きやな……」
うっさいキーリ。小声だからって言っていい事と悪い事があるんだよ!? あとでお仕置きだ。
「近衛部隊の指揮……失礼だが、女性が軍を指揮しておられるのか宰相殿?」
「我が国としては箔付けも必要と思いまして。第三王子の婚約者が軍総司令を行った経歴を持つとなれば周囲への箔付けに最適でしょう?」
言い訳、苦しいんだよ?
そんなの箔付けにすらならないと思うなぁ。
あ、ほら、王様の宰相さんが耳打ちし始めたじゃん。
「どう思う宰相?」
「おそらく嘘でしょう。あの娘が総司令官かどうかも含め秘密にしておきたい何かがあると思った方がよいでしょう。そもそも、あの娘が邪神をテイムしたのでしょう?」
「そ、そうか、で、ではどうすれば……」
「もはや証明は出来ません、相手の言葉を信じて会議への参加を許可するか、怪しいと睨んでライオネル王国を追い返すか、陛下がお決めください」
「うぅむ……」
なんか凄い迷ってるんですけどー!?
「よかろう。宰相であるというそなたを信じよう。会議への出席は許可しておく。くれぐれも問題は起こすでないぞ」
キーリの参加は許可されたらしい。よかったよかった。




