50話・リオネル、僕の婚約者がヤバい
久々にロゼッタの部屋を訪れた。
最近王族教育の一環で勉強が始まったことで忙しくなりロゼッタとなかなか会えなかった。
いや、違うな。むしろそれはいつものことなので問題は無かったんだけど、ロゼッタに言われて向かった平民街の処理などで大臣連中と話し合いがあったことで時間が無くなっていたのが一番の理由だ。
僕は年が年なので会議にはあまり参加する必要はなかったが、折角ロゼッタが僕に教えてくれたことなのだ。大人に任せきりというわけにはいかない。僕だって王族としての責任くらいあるんだ。
だから、今回の会議にはできるだけ出席することにした。
大人たちの話し合いは無駄に長い。
なのにそこまで大したことは話さない。
大したことの無い話を大仰にする、あるいは別の話題を放り込む。自分以外の誰かに汚れ仕事を押しつけ合う。
正直、こんな会議意味があるのだろうかと思うのだけど、僕は今回エリオット兄様の付き添いとして出席しているだけなので発言権は無い。
今回の話し合いにはお父様も参加している。
上座にある豪奢な椅子に腰かけた威厳ある父は、会議の最初から最後まで黙して語らず。
会議の結論が出て宰相さんがこれでいいですか? と尋ねた時によい、やって見せろ。と短く告げただけだった。
まぁ、そんな感じでとりあえずやる時期は決まったのであとは宰相と部下が行うことだけなので僕が携わることはなくなった。
御蔭で一気に暇になった訳だが、御蔭でこうしてまたロゼッタに会いに来れたのである。
なん……だけど……
「祖は水帝に属す下位なる精霊、我願うは球華、我が敵を穿つ一撃を望むッ、ウォーターボール!」
なんかロゼッタが魔法使ってるんだけど?
しかも家庭教師? 聞いてないよ!?
何時の間に雇ったの? しかも顔が凄く恰好良いし凄く親しげだし。
なんで平民なのに貴族相手にそんな口調なの? ロゼッタが許した? どういうこと?
ね、ねぇ、ロゼッタ。なんだか距離近くない?
気のせい? いや、でも、ねぇ、なんでそんなキラキラした眼で彼を見てるの?
ただの魔術の教師だよね? ね? ね? 他の感情とかないよね?
憧れ? そ、そうだよね? 憧れだよね? 決して年上の恰好良い男性に対する恋心じゃないよね?
二人だけの秘密の秘め事とか、ないよね?
え? 何その二人揃った笑みは?
秘密はあるの? ねぇ? あるの!? 何とか言ってよ!
マズい、なんか良く分からないけどマズいぞ。
ロゼッタ、戻って来て。そんな何処の誰とも知れない平民に憧れはともかく恋しちゃだめだよ。
ほ、ほら、ここに婚約者居るよ?
僕が寂しがってるよ?
「さっきから百面相してどうしたのリオネル?」
「な、何でもないよ? それよりロゼッタ。さっきからウォーターボールばっかり作ってるみたいだけど?」
「ええ。今日はこれともう一つだけよ。ね、ボーエン先生」
「ええ。毎日二つ、と決めてますので。もう少ししたらウインドボールに参りましょうか」
「ようやく新しい詠唱ですわね。私、ワクワクしますわ!」
ワクワクって、またそんな眼でボーエンさんを見るっ。
あーもう、なんか落ち付かない。
「折角ですし、王子様もご一緒致しませんか?」
「へ? いや、しかし……」
「王子様のことですし、俺なんかより質の良い教師がいるとは思いますが、折角婚約者のロゼッタ様に会いに来たのです。時間が時間だけにロゼッタ様が魔法の訓練をしていて話も出来ないでしょう。なら一緒に魔法の練習をすれば楽しい時間となるのではありませんか?」
確かに、ウォーターボールなど五歳くらいの時に少し練習した程度だが、せっかくだ、詠唱の確認がてらロゼッタと一緒に授業を受けるのも楽しかもしれない。
そろそろウインドボールの詠唱が始まるようだし、初めてのロゼッタに自分が教えながら楽しく授業をできれば……
「分かった。僕もやらせて貰うよ。いいかなロゼッタ?」
「ええ。一緒にやりましょリオネル様」
それからしばらく、ウォーターボールをひたすら作りだしては消していく。
「では詠唱から説明しましょう祖は風帝に属す下位なる精霊、我願うは球華、我が敵を穿つ一撃を望むッ、ウィンドボール!」
風属性の弾は出現したかどうか分からないのが難点だ。
見えない弾を撃つので敵対者側には分かりづらい特性がある。
暗殺者に風属性使いが多いのは魔法が見えないという理由が最大だと思うんだ。
だから王族は真っ先に風属性に対する対処法を習わされる。
なので風属性は……あれ? ロゼッタ? なんでウインドボールが緑色になってるの?
え? 色付けた!? ちょ、それ、ウインドボールじゃなくて新しい魔法になってない?
見えづらいからって理由で新魔法作るって、ロゼッタ……ロゼッタがこういう時使ってたのは、確か、ヤバい、だったっけ!? うん、ロゼッタがヤバい!




