498話・アドラメルク、さぁ、復讐の始ま……奇襲だとぉ!?
SIDE:アドラメルク
どうでもいい話をしよう。
地獄の尚書長をご存じだろうか?
そう、アドラメレクだ。この世界では魔王の一人として存在している。
容姿は騾馬の姿だとも、孔雀の姿だとも言われる。
だが、訂正しておこう。
騾馬の姿がアドラメレクだ。そして孔雀の姿はヤツではない、そう、私だ、アドラメルクだ! 一字違いなうえに同一人物でもない。
なのに同一人物と混同されることが良くある。
あちらは魔王、こちらはただの山の守護者だ。
元々、私は守護者ではなかった。
もうすぐ守護者になる直前くらいだったのだ。
その事件が起こった当時は。
そう、守護者大量消失事件。
私が師と仰ぐ者もその場に居た。
とある守護者が自分の顔の広さを見せつけるために、毎年近場の守護者や知り合いの遠くの守護者を自分の山に集めていたのだ。
その会合の最中、守護者の山を何かが襲った。
強烈な光と闇が明滅し。私の居た山からもそれは見えた。
一瞬で、巨大な山が消失したのだ。
その中に居た守護者や魔物をまとめて消し去った。
何が起こったのか、分からなかった。
そのまま実力を付けて、守護者になった。
そしたら、近くの山の鹿に教えられたのだ。あの人族の街には手を出すなと。
理由は教えてくれなかったので別の守護者にそれとなく尋ねてみた。
そして、知った。
知ってしまった。
山を消し飛ばした存在が、人族の国に居る。
だから守護者たちは自分の山も消されないようにあの国に近づかないようにしているのだ。
知ってしまったら、もう止まれなかった。
師を殺した奴があそこに居る。
だが人間の顔など我々魔物に分かる訳もない。
守護者としての実力、所有する魔物の実力、顔見知り、あるいは当時守護者を失ったやり場のない怒りを持つ者たちの実力、その全てをこの一年、ずっと鍛え上げて来た。
もはや人間に負ける訳もない。負ける要素が見当たらない。
鹿の守護者たちが止めろと言ってくるが、ヒヨッた者たちの言葉など聞くに値しない。
私は、森の山頂に集まった魔物達を見る。
皆、よくぞ集まってくれた。
雌伏の時は過ぎた。これより我々は人族領を急襲する。
我らが憎悪を存分に与え、恐怖の底に国ごと沈ませてくれようぞ!
全軍、気合を入れよ! これより我らの復讐を遂げる!!
魔物達の声が響き渡る。
さぁ、眼下に見える人族の国を滅ぼす、今より我らが……うをぅっ!?
一瞬、殺気を感じて飛び退いた。
遅れ、先程まで私が居た場所を槍が通過していく。
そう、槍だ。ゴブリンたちやコボルトがたまに持っている人族から奪った武器である。
―― なにやつ!? ――
「勘がいいな。一撃で終わると思ったのだがな」
声が聞え、人族の雄が森の中から現れる。
―― バカな!? なぜ人族が!? ――
「悪いな、正直気は進まんが、お前達が国を滅ぼすつもりだってなら、やらなきゃやられるんだろ? 互いに引く訳には行かない戦いだ。せいぜい抗ってくれよ、魔物さんよぉ!!」
男の後ろからさらに巨大な男が現れる。
クソ、何処から漏れた!? 奇襲するつもりが人族に奇襲されるなどとはっ。
「そら囲め囲め、逃すんじゃねーぞ」
「ゴルディアス、突出し過ぎだぞ! 四人で指揮しろっつわれただろ!」
「おっといけねぇ、そら、セルドバレー、てめぇーも下がれ」
「なぜ俺様が下がらねばならん? 突出されたくないのなら俺様の前を歩けば良いだけだろう?」
「ほんと良い性格してんなお前は」
「ふん、お嬢も認める俺の実力に嫉妬かゴルディアス隊長? 気をつけろよ? 今回の働き次第では隊長交替もありうるのだからな」
「この野郎、隊長職狙ってやがる!? 無理だろ、といいてぇが、なんか普通にやりそうなのが恐ぇんだよなぁ」
「そら、無駄話はもう止めとけ、向こうも戦闘態勢だ」
「お嬢が生み出した哀しき復讐者か。恨みはねぇが国を滅ぼされちゃ敵わねぇ。全力で潰させて貰うぜ」
―― なるほど、我らの動きを察知したか人の子よ! ならば、戦争だッ!! 全軍、蹂躙せよッ! ――
奇襲して来たのは驚いたが、人数的にはそこまで居ないようだ。
100前後の人員であれば十分対処可能だ。
何しろこちらは数千単位の魔物を集めてあるのだからな。
「全員隊列を崩すな! いつも通りやればいい! 気負うなよ!」
「雑魚より大物に気をつけろよ! 喰らえばさすがに笑えねェ結果だぞ」
クソ、なんだこいつ等!?
人族なんて逃げ惑うだけの烏合の衆じゃなかったのか!?
徒党を組んで襲ってくるなんて聞いてない。
人族、随分と厄介な相手だ。
だが、わたしは負ける訳には行かない。
このような下劣な人族風情に負けるような雑魚ばかりではないのだ、私が必死の懇願等で味方に引き入れた守護者だって集まっている。
さぁ、死ぬがいい人間共! 我らが恨み、貴様らで晴らさせてくれようぞ!!




