493話・ロンダム、一体何が起こっている? 問いたださねばな
SIDE:ロンダム
デーバルデ帝国は今、蜂の巣を突いたような状態だった。
正直、儂の代でこのようなことが起こるとは想定すらしていなかった。
正直荷が重いとすら思う。なれど……
石造りの冷たい城に申し訳程度に存在する窓から外を見る。
代々皇帝に与えられる執務室は、あまりにも狭く薄暗く、そして狭い。
これは初代皇帝が成り上がる前、自分の周囲があまりにも侘しかったことを忘れぬ為に、ここから成り上がる為に、これからもまだ際限なく国を広げるために、部屋をこういう風に作ったのだ。
まるで、皇帝を捕らえる為の牢屋のようではないだろうか? そう思ったことは一度や二度ではない。まさに、この国を強く、大きくさせるための、初代皇帝に尽くすための皇帝という地位につられた贄の様である。
ゆえに、皇帝となった者は強迫観念に駆られるのだ。この国を強くせねば、領地を増やさねば、帝国を、繁栄させねば、と。
たとえ、我が能力からは絶対的に無謀と思えても、荷が重いと思えども、国を繁栄させねばと急いてしまうのだ。
「報告します」
影兵の一人が告げる。
儂はただ窓から外を見上げ、背後の彼の声を聞くだけだ。
ああ、荷が重い、聞きたくない、何故儂は帝王なのだろう?
「南新砦が爆散しました」
「城が騒がしいのはそのせいか……」
「やはりライオネル王国の破壊工作ではないのでしょうか?」
「首脳部がありえんと結論づけただろう? お前は影兵だろうが、意見は必要か?」
「……出過ぎたまねをしました。あと一つ報告が」
「聞こう」
「南を除く三方の砦に変化はございません」
「で、あるか……」
十中八九ライオネル王国の破壊工作だろう。
それは分かる。分かるがあり得ないことも分かるのだ。
あの国はあまりにモロい。
周辺国があそこを侵略することこそが弱小国の証明だと暗黙の了解にするほどに、兵士は怠惰、砦は豆腐、危機管理など投げ捨てた国なのだ。
そんな国がわざわざ我が国の砦を破壊する? しかも自分たちの砦とは別方向から?
聞けばライオネル王国周辺国の砦が次々に爆散しているらしい。
これではライオネル王国がやりましたと言っているようなものではないか。
いや、むしろそれが狙いか?
ライオネル王国がやったように見せて襲わせようとしている?
未だに国際会議の集合に徒歩で移動しているような弱小王国をわざわざ襲わせようとする者がいる?
ほんと、遠くの国に行くのに六カ月も掛けて往復とか正気の沙汰ではない。
我が国のようにグリフォンを飼育すればよかろうに。空を飛べば一月も掛からんぞ?
あ、そうか、今あの国に王は不在。ゆえに今の内に国を滅ぼすことで何かしら益を得る者がいるのだろう。
馬鹿な国が侵略すれば面白くもあるが、誰かの掌で踊る趣味は無い。
今回我が国は静観だな。
そもそも、ライオネル王国軍が何かしたと言うのなら、我が国の兵士に無償で炊き出しをするような理由が不明だ。
あ奴等ホントに敵国と認識しているのか? 我が国の兵も仲間だと勘違いしておるまいな?
「陛下、失礼します。宰相閣下がすぐにでも面会したいと……」
「ふん、通せ」
執務室のドア前には、近衛兵が二人待機している。
その内の一人が告げて来たので許可すると、ドアを乱暴に開いて宰相が現れた。
前の宰相の息子で最近代替わりしたせいか、随分と血気盛んである。
「陛下! これはやはりライオネル王国からの挑戦です! すぐに軍を差し向け一息に潰してしまいましょう!」
「はぁ……」
頭はいい筈なのだがな。若いせいか突っ走るきらいがある。
こうと決めたらソレを頑なに信じてしまうのだ。これは悪い癖だが、前の宰相も似たような性格だったからな。
どうせ宰相など我が国では御飾りだ。皇帝の横で突っ立っておればいいだけの存在なのだから気負う必要すらないのだがな。
「グリフォンの準備は?」
「は……? あ、はい、整えておりますが、しかし国際会議でしたか、アレに向うために近衛兵と陛下の分しか用意出来ておりません。急いで部隊長分だけでも用意しますのであと二日程頂ければ……」
「なぜ部隊長に必要なのだ?」
「え? 陛下自らライオネル王国併吞に向かわれるのでは?」
「阿呆が、儂が行くのは国際会議だ。ライオネル王国に関しては静観しておけ」
「な、何故です!?」
「ライオネルにとって都合が良過ぎる破壊工作だ。何者か知らんが余程ライオネル王国を潰したいらしいな。お前はそんな分からんヤツの掌で踊りたいか?」
「え……!? ま、まさか、今回の破壊工作、ライオネル王国の仕業ではないのですか!?」
「さて、な。ソレをまず調べんことにはどうしようもあるまい。折角本人から聞ける機会があるのだ。国際会議で本音を聞いてくるとしよう。それまで手出しはするな。他の国が焦ったとしてもな」
「かしこまりました。我が国の防備だけ、固めておきます」
うむ、固定観念を取り外せば柔軟には対応してくれるようで何よりだ。




