489話・ロゼッタ、この中に一人、民を守る気なかった奴がいる
「これで、最後っ!」
ゴルディアスの叫びと共に、最後のコボルトが息絶える。
キーリに合図を送った私は森の奥からゆっくりと歩み出た。
隠蔽魔法で隠れて見てました、ロゼッタです。
「よし、他に敵はいねぇか! 全員索敵怠んなっ! って、お嬢!?」
「うむうむ、ちゃんと事後の残心も出来てるわねゴルディアス」
「まさか、見てられたので!?」
「そりゃあさすがに放置するわけにはいかないんだよ。とりあえず、エキストラお疲れ三人とも」
「え?」
私の言葉に返事を返したシラササ、リキア、クライマルを見て、驚く兵士達。
一部兵士は既に知っちゃってるから驚きはないけど、ポーラックたちは驚いているようだ。
駄目だなぁ、せめておかしいと気付くぐらいはしてほしかったんだよ。
まぁ、ちゃんと民間人を守ろうという気概が見れたのは良しとしよう。
私の不安はほぼ杞憂に終わったみたいだし。
途中はぐれたシラササを誰も助けに行かなかったらちょっと本気で粛清考えるとこだったけど、まさかカールが率先して行くとは思わなかったよ。
酒さえ入らなきゃ彼もちゃんと兵士として頑張ってるってことね。私もまだまだだなぁ。
少しは相手を信じてあげないと、だね。
「お、お嬢、もしかしてその三人って……」
「言ったはずよ? ここには一般人は居ないって」
「ずっけ、それずっけぇ!?」
「ふん、あのくらいすぐ見分けが付くだろう。平民の皮を被っていたが動きがおかしかっただろうが」
平民の皮とか言うなセルドバレー。
全く、エレインといいセルドバレーといい貴族の俺様主義者共はなんでこう言い方にジャイアニズムを求めてるんだろうか?
「はぁ、まぁいいや。皆さんお疲れ。とりあえず、今回は皆が平民を守って闘うという兵士として必要な人の心が備わってるかを見させてもらいました」
「いや人の心て……」
「お嬢から聞けるんだなぁ、人の心」
ちょっとそこ、全力のデコピンしちゃうわよ。
ギロリと睨んであげるとすぐに押し黙った。
「さて、及第点、と言いたいところだが、たった一人、残念だけど民を守ろうとしてなかった人がいました」
「あー、それは……」
と、ゴルディアスたち数人がセルドバレーに視線を向けた。
「ふん」
セルドバレー、ソレ、一応部隊長で貴方の上司だからね。
「では、問題無かった人から名前を呼ぶわ。呼ばれた人は……丁度キーリが合流したから彼女の横に並んで」
キーリがクライマルたちの横に立ったのを確認し、私は一人ずつ名を呼んで行く。
「カール」
「はい!」
「お酒飲んで暴れたって聞いた時はこれ以上の強化は無理かなって思ったけど、やるじゃない」
「そ、そうっすか? あ、酒はその、禁酒します。これからは絶対に迷惑掛けないようにしますから」
「いいのよ、別に酒を飲むのは。訓練後の楽しみでしょ? さすがに取り上げる気はないわ」
「え、ですが……」
「酒は飲んでも呑まれるな。意識朦朧とするまで飲むのは駄目よ。だから自分にとっての適量をまず見極めなさい。そしてそれ以上は絶対に飲まない。それが守れるのなら酒に関しては口出ししないわ」
「あ、ありがとうございますっ!」
隣に居たハーディとギルドレイが良かったなと肩を叩きあう。ちょっと、カール、泣きださないでよ!?
「それから、ハーディ、ギルドレイ。貴方達もよく闘い、不平も言わず率先して民を守ろうとしていました。貴方達も酒の飲み過ぎには注意しなさい」
「「はいっ」」
返事はよろしい。でも二度目はないからね。ホントに気を付けてよ?
「それからヘイデン」
「は、はい!」
「民を守りながらの闘いはどうだったかしら? いつもと違った?」
「え、ええ。正直、物凄く疲れました。自分の背中に守らなきゃいけない人がいるってこんなに気を使うんですね」
「ええ。だからこそ、何かを守り切る為の気力は大事なの。今日の感覚、忘れないでおいてね」
「はい、必ず!」
「カラード」
「は、ひゃぃっ」
「平民役の動きを見て怪しむ観察眼は良し、それまでの民を守ろうとする姿勢もよし、けど、その引っ込み思案な所はまだ改善の余地ありね。ヘイデンが剣を振るいそうだからって自分が引っ込んだことで一度クライマルにコボルトの槍が届きそうになったわね」
「あぅ、よ、よく見られて……すいません」
「まぁ、守り切れたし及第点よ。でも、もう少し、自分がやらなきゃって思いを強く持てると二重丸よ」
「ど、努力します」
ほんとに、つい自分を押し殺そうとする所はもうちょっと直してほしいわね。
それが無ければ立派な兵士だって胸張れるんだけど。
思考回路も速いし、よく観察してる。
自己主張さえよくなれば軍師役も可能よね、この子。ガレフの押しの強さ、なんとか継承できないかしら?
「それから……セルドバレー」
「「「「はぁ!?」」」」
え? なに? どったのゴルディアスたち? セルドバレーは合格よ?




