488話・ラファーリア、守る者がいる闘い・8
SIDE:ラファーリア
三人がやらせだというのは最初から気付いていた。
何しろ顔見知りが二人も居るのだから気付かない方がおかしい。
リキアさんは初めて見るが、おそらくプライダル商店の内部で活動してる人なんだろう。
私はキーリに連れられてたまにプライダル商店に行くのでシラササちゃんとクライマル君には何度か会っているのだ。
ゴルディアス隊長もたまに来てるらしいから知ってるかと思ったけど、全然気付いてなかったのはなんでかな?
多分そこまで周囲を気にしてないんだろうけど、兵士長なら人の顔は常に覚えるようにした方がいいと思うわ。
じゃないと他国のスパイや危険人物とすれ違ってても見過ごしてしまうもの。
クライマル君と一緒に行動しているのは、私とハーディさん、ギルドレイさんの二人。
先行していたツツリオさん、オステールさん、ヒオロさんは丁度リキアさんに追い付いたようで、彼女を背にして周囲のコボルトから必死に守っている。
ヘイデンとカラードは? シラササちゃんの方に行ったようね。
ポーラックさんは……なんであんな場所に? いや、違う、あれは囮役をしてるんだ。
大きな声で叫びながらコボルト達を呼び寄せ一人孤軍奮闘している。
御蔭でクライマル君やリキアさんに向かうコボルトの数がだいぶ少ない。
皆、民間人を守るために必死になっていた。
正直、この人たちはこういう時必死に人を守らず逃げると思ってた。でも、結果を言えば命がけで守っている。
自分より後ろに魔物の攻撃が行かないよう、隙間を縫って放たれた攻撃や、リキアさん達を狙った遠距離投擲などは自分の身を持って受け止めたりしているのだ。
魔法強化の御蔭でダメージになっていないけど、最初にヒオロさんが投げられた斧を自分の頭で受けた時には肝が冷えた。
剣を振った状態で腕が硬直していたので必死にリキアさんを守るため、自分の頭で斧を殴りつけたのだ。頭突きを受けた斧は腹部分に受けた衝撃で粉砕されていたが、少しでもミスれば頭に突き刺さっててもおかしくなかった。命がけで守ったのだ、金を優先している筈のあの先輩が、民を守るために……幾ら魔法強化で斧くらいは跳ね返せると分かっていても、率先してやろうとも思わない緊急回避だ。
「来いやあぁぁぁぁ―――――ッ!!」
ポーラックさんが槍を振り回し、コボルトの群れ相手に一人立ち回る。
その表情に余裕はない。
自分は守るのに向いていない、リキアさんには既に三人、クライマル君にも既に三人護衛が付いているから、自分は囮を行おう。
誰に言われるまでもなく、率先して一人突出し、隊長が来るまで皆の安全を確保するため己の命を危険に晒す。
「おいおい、なんか知らんが熱くなりすぎだろ先輩」
「お前はもうちょっと周り見て動けセルドバレー……。よくやったぞポーラック! 後は任せろ!!」
追い付いてきたゴルディアス隊長と父上が参戦する。セルドバレーはなんで普通に歩いてるのよ!?
孤軍奮闘が三人になっただけで一気にコボルトたちが消えて行く。
ん? ずいぶんコボルトが減った気が……追加補充分が無くなった?
「こんな場所に居たのか、ゴルディアス隊長、シラササちゃん確保しました! 無事です」
「よくやったカール!」
「え、はや……あ、いえ、シラササッ!」
「おねーちゃーん」
ぶんぶんと手をふるシラササちゃん。カールさんなんで呆れた顔してるんだろう?
「三人を固めて円陣を組めっ、ポーラック、セルドバレーは個別に敵を撃破しろ。……カール、警護対象への警護指令はお前に任せる。見事守り切ってみせろ!」
「えぅ!? ご、ゴルディアス隊長は!?」
「ポーラックと囮の大暴れだ。剣聖様が居るんだ。こっちで暴れた方が早くカタが付く」
それ、ただ単に暴れたいだけでは?
というか、ゴルディアス隊長は市民防衛の隊長職向いてないよね? むしろ切り込み隊長として部隊率いて突撃が似合ってる。
「もう、勝手にどっかいっちゃだめじゃない」
合流したリキアさんとシラササちゃんが抱き合う。
ほら、男子ども見んな。
「まぁ、なんだ。俺が何かいう必要はなさそうだが……ヘイデンはハーディとギルドレイの間に、カラードはツツリオ、オステールの間に入れ、悪いが二人がヘマったらフォローを頼む」
「ちょ、ヘマなんてしませんよ!?」
「ぼ、僕等だってお嬢の訓練受けてますし」
「それでも、だ。戦闘経験は俺らよりねーだろ。いいからその場でコボルトを迎え討て。お前らを守るってのも先輩の役目だしな」
「オイこら、そりゃ俺らにさらに難しい舵取りしろってことじゃねーか!」
「できねぇとは言わさねぇぜ?」
「ハッ、指揮官任されたからって調子乗ってんじゃねーだろなカール、テメェが問題起こしたことは無かった事にできねぇんだぜ?」
「わかってんよ、今日から禁酒だ。畜生め!」
酒さえ入らなければ大丈夫、なのかなぁ?