486話・ゴルディアス、守る者がいる闘い・5
SIDE:ゴルディアス
「水臭いぞカール」
「さすがに俺らまで抜けるわけにゃいかねぇからな。露払いだ!」
ハーディとギルドレイがカールが向うべき道を空ける。
あとは走り抜けろってことらしい。
全く、別にそんなことしなくともカールの実力なら普通に突破すんだろ。
コボルトの群れを抜け。カールは一人森の中へと駆け抜ける。
部隊長としては命令違反を咎めないといけないが、むしろよく動いたと言っていいだろう。
できるなら俺自身で助けに向かいたいが、部隊長である以上、俺の肩には兵士全員の命とここに居る民間人二人の命が掛かっている。
だから、部隊長としては絶対にここを動くことはできないし、兵士達が勝手に動くのを咎めない訳にはいかなかった。
たとえ他の全員から嫌われようとも、だ。俺が優先すべきなのは小娘一人の命ではなく、それを助けに向かうことで危険に陥るだろうここに居る兵士達全員の命を優先しなきゃいけねぇんだ。
まぁ、今までだったら俺が率先して突撃してただろうけどな。さすがに部隊長として自覚持ったんだ、無謀な突撃して部下の命散らすわけにはいかねぇや。
だから、心の中でカールに礼を言う。
誰も行かない様子だったらさりげなくラファーリアに頼むつもりだったが、カールが向ってくれて良かった。
まぁ、一応命令違反だから後で小言は言わせて貰うが、拳骨一発で御咎め無しにするつもりだ。
さぁ、俺らはカールが帰ってくるまでこの二人を守ってコボルト達を撃破していきゃいい訳だ。
が……やはり守る者が実際に居るとただ闘うだけじゃなく後ろに気を配らなきゃいけないからなかなか精神的負担がすげぇな。
俺としても突撃して暴れる訳にも行かないから目の前の雑魚をちまちま撃破するだけになっちまうし、ああクソ、皆だけだったら円陣任せて一人突撃で一気に薙ぎ払ってやるんだが……
「きゃーっ」
なんだ!?
「シラササッ!? シラササーっ」
って、おい、待て!?
嘘だろオイ!?
カールの奴辿りついたんじゃねーのかよ!?
「うぇ!? ちょ、おねーさん!?」
ヘイデンとカラードの間が一瞬空いた。ソレを見逃すことなく駆けだすリキアという女。
危なげな動きでありながら、コボルト達の攻撃を紙一重で避けながら走り抜け、森の奥へと消えて行く。
「リキアさんっ」
って、お前まで行くんかい!?
冒険者のクライマルだったか? まで走りだす。
どうでもいいがこの三人、どっかで見たような気がすんだよなぁ?
「ゴルディアス隊長!」
「分かってる、全員民間人の保護優先! 仕方ねェ、三人組に分かれて冒険者の保護と女性の保護、ついでに小娘も探しにいけ!」
「はいっ!!」
ああもう、ヘイデン達が凄く嬉しそうに走りだしやがった。
皆、民間人を助ける事がやりたくて仕方ないって面してやがる。
人々を守る。その役目がやってきたんだ。そりゃ命令さえなければ本気で守りにいくよなぁ?
俺もそうありたいぜ。
とはいえ、セルドバレーの奴だけはやれやれといった顔だけどな。
こいつのプライドは兵士には向いてねぇな。
早急に折るか兵士辞めさせるかした方がいいんじゃねーか?
一応お嬢に報告だな。
ツツリオやオステール、ヒオロは口では金のためとか民を守る気は無いとか言いながらも、実際に守るべき存在が居たことで、意識が変わったようだ。
自分から率先して捜索に向かっている。金の為だったり民を守る気が無ければ、セルドバレーのようにゆっくりとコボルトを蹴散らしながら向うものだが、他の皆は我先にとコボルトの群れを駆け抜け森に消えていっている。
「なるほど……」
「ん? 剣聖殿か。娘さんは先に行っちまったぞ?」
「ああ、気にせんでええ。儂がやるべきことはないようだしな。しかし、なるほどなぁ、一般人はおらん、か」
「そういうことだ。まったく俺様を煩わせるとはお嬢もやってくれる」
ん? どういうこと……
一般人は居ない? それはお嬢がこの場に俺らを置き去りにした時に言った言葉……
待て、一般人は居ない? あ、ああっ。あああッ!!
知ってる。あいつ等俺知ってるぞ!
そうだ、思い出した!!
プライダル商店で見たんだ。
クライマルはあそこの警備、シラササは売り子やってた。そういえばやってた!
リキアが見掛けたことなかったから分からなかったが、そうか、あそこの関係者。
つまり、オーナーであるお嬢の関係者。
フェイルが前に一般人と闘ったけど負けたって聞いた事がある。
アレが確かプライダル商店のメンバーだったはず。
その時、確か聞いたのだ。プライダル商店のメンバーは皆、レベル200越えの一般人の皮を被ったバケモノだって。クライマルもそんときメンバーとしていたはずだ。今いる俺らの中にその時の面子さえいればすぐわかったのに、クソ、俺以外初顔合わせだったのかよ!もっと早く思い出せてりゃぁ……
確かに、それならば一般人は居ない。
ここに守られるだけのか弱い存在は一人もいなかったのだ。
俺達は、俺達よりも強い自称一般人たちを必死に守ろうとしてたのだ。
気付いてしまえばなんかもう、あいつ等の三文芝居が浮き彫りになる。
あいつらはお嬢の用意した守るべき存在であり観察官だ。最悪の場合自衛でコボルトたちを殲滅出来る戦力を持った子供たちだ。
うわー。これはちょっと、セルドバレー大丈夫か?




