484話・カール、守る者がいる闘い・3
SIDE:カール
「今、何か聞こえた!?」
「おいおい、ここにゃ俺らしか居ないはずだろ? コボルトの悲鳴じゃねーのか?」
「女性の悲鳴だった。俺が魔物と女性の声聞き間違えるわけねーだろっ!」
「ぶつくさいってねぇでとりあえず見て来いカール、ハーディ、ギルドレイ」
俺らかよ!?
ったく、仕方ない、急いで確認しに行くぞ、ハーディは右、ギルドレイは左側の敵よろしく、正面は俺が切り開くっ。
コボルトたちは雑魚ではあるが、数が多い。一つの集落でも百匹程度と聞いたことがあるが、明らかにもっと多い。まるでこの周辺のコボルト全てがここに集まっているかのようだ。
御蔭でコボルトの合間を縫って悲鳴の元へ向うのも一苦労である。
「確かこっちだったはず……」
「ハーディ、カール。あれじゃないか?」
ギルドレイが指し示した方向には、一人の冒険者と思しき少年の横顔が見えた。
既にコボルト達に囲まれているようだ。
あいつが悲鳴を? いや、さすがにあの黒人少年があんな悲鳴出したら引くわ。
ってことは、あいつの後ろに、いるのか?
「急ぐぞ二人ともっ」
さすがに目の前で殺されましたなんて寝ざめの悪い結末迎えさせるわけにゃいかねぇ。
俺達はすぐに森を疾走して彼の元へと近づく。
目の前に居るのは四体のコボルト、そして近づいたことで見えるようになった少年の背後にいる二人の女性。
怯えた様子で少女を抱きかかえる妙齢の女性と、コボルトを見上げて小首を傾げている少女。
おそらく少女はコボルトが脅威的な存在だとすら認識できてないんだろう。
お嬢、一般人巻き込まれてんじゃねーか!
クソ、なんでこんな日に森に冒険出てんだよ!
薬草摘みか? 二人の親子か姉妹と護衛の冒険者だな。でもさすがに押されてるぞ!
「行くぞ!」
「助太刀するぞ少年ッ」
「もう大丈夫だ、任せろっ!!」
一瞬こちらに視線を向けた後、コボルトの一撃を受けて思わず尻もちを搗いた少年、もう幾らも余裕がないと、俺達は迷うことなく横合いからコボルトに踊りかかる。
「グルァッ!?」
「悪いな、死ぬのはテメェらだ」
驚きこちらを振り向いた一匹の首を切り裂く。
血飛沫と共に倒れる魔物を蹴り倒し、俺はさらに踏み込む。
ハーディとギルドレイも一匹ずつを相手どり、即座に切り裂く。
一対一なら本当に苦労無く倒せる魔物だ。
残った一匹もまた、俺と一対一になったことで抵抗空しく斬り伏せられた。
「無事か坊主!」
「あ、ああ……兵士? なんで外に?」
「ああ、丁度演習中でな、悲鳴が聞こえたんだが、叫んだのはお嬢さんたちでいいのかい?」
「あ、は、はい、すいません。私の悲鳴、だと思います。突然魔物が沢山現れて……」
「そりゃ災難だったな。どうもこの近辺にゃコボルトが群れてるらしい。今他の兵士たちが大きな群れを撃退中なんだ」
「そ、そうなんですか……」
「それで、だな。とりあえず安全を確保して町に送ってやりたいが、コボルドの群れを町に連れて行く訳にも行かんのだ」
ハーディのやつ、嘘吐き始めたな。でも、一般人に総指令官の指令でこの近辺囲んでコボルト退治中ですとか言っても理解されないだろうし、巻き込まれて大問題にされても困る。なので嘘も方便、ということで、彼らをコボルトが殲滅されるまで俺達で保護するのがいいだろう。
三人だけだといざという時マズいだろうから一度皆と合流して円陣の中心に彼らを囲いこんで闘うしかないだろうな。
「そ、それは、わかりますけど……」
「向こうで仲間が円陣を組んでいます。そこで保護してコボルトを殲滅致しますので今しばらく我慢してください」
女性と少年が困ったように顔を見合わせる。
「わかりました」
「では案内しましょう。こちらです」
こういうとき、俺らの中だとハーディが一番人当たりがいい。
俺だとちょっと粗野な態度になるので怯えられることもあるのだ。
ギルドレイは顔が恐いからな。やっぱり女の子には泣かれたりするらしい。
「この森には、何をしに?」
「あ、はい、護衛を雇って薬草摘みに来てました。あ、私、リキアといいます」
ショートカットの外跳ねな髪型のお姉さんが告げる。
うむ、美人だ。ちょっと後で飲みに誘ってみようか? さすがに任務中は不味いよな。
しかも俺は昨日やらかしたばかりだ。女性をナンパなんてしたら皆からタコ殴りにされても文句が言えない。ここは涙を飲んで諦めよう。
「こちらは妹のシラササ。それで……」
「俺は冒険者やってます、クライマルっていいます」
元気な少年だ。今回の経験を糧に立派な冒険者になって貰いたいものだ。
まぁ、今回は、兵士である俺達に守られてくれ。
というか、お嬢のやつ、この人たちを意図的に残したのか? 俺達が兵士として何かを守りながら闘う為に……いくらなんでもそりゃ……お嬢ならやりかねないな。最悪キーリ嬢が助けに入る予定だったかもしれないし。
とにかく、ゴルディアス隊長達と合流して、守りきろう。