483話・カール、守る者がいる闘い・2
SIDE:カール
「えっと、ヘイデンです。俺の場合は多分ですが、民を守るとかより親父に並ぶ強さを身につけたいって思ってるせいだと、さっき親父に小突かれました」
「え、っと、カラードです。僕はその、えっと……」
「カラードの場合はこの性格だと思いますゴルディアス隊長。引っ込み思案で自分の作戦や何か気付いた事があっても別の誰かの意見を優先しがちなので……」
自分たちの直すべきところが分かってるのはいいよな。
そこさえ直せばなんとかなるんだし。
「あー、カールです。ちょっと酒でやらかしまして。市民に突っかかりました」
「ほんとに気をつけろカール。俺らはお嬢式の訓練受けてんだ。本当に相手が一般人だったら殺しててもおかしくなかったんだ。相手がお嬢の知り合いでよかったと思っとけ」
「ウス」
「俺らもカールをちゃんと止めれなかったしな。一般人に絡むのを止めるのも兵士の役目だったのに……」
「酒飲むのはいいが、他人に迷惑掛けんのは、もうしないようにしねぇとな」
ほんと、身に染みるぜ。
ハーディ、ギルドレイ付き合わせて悪かった。
「セルドバレーだ。俺様は何が悪いのかわからんが参加させられた。正直不本意なのですが?」
「いや、お前……今までの態度で分かれって、命令違反に訓練内容の勝手な改変。キーリ嬢怒らせた事一度や二度じゃねーだろ。お嬢こそまだ怒らせたことはないが、大概にしとけよ」
「ふん。この俺様が納得できる命令をしない奴が悪いのだ。キーリ嬢は……怒らせたくはないのだがな……」
と、言いながらぶるりと震える。
まぁ触手で締め上げられる恐怖はなぁ、尻の周辺這いまわられると言い知れない恐怖があるし。
なんかキーリ嬢ヤベェ事狙ってるように感じんだよなぁ。触手の先端がケツに向けられる気がするし、あの人は怒らせるべきじゃぁねぇ。
「あー、セルドバレーみたいな感じではない筈なんですけど、なんで俺らも?」
「ポーラックはあれだろ、ゴブリンキングん時に突出しようとしてゴルディアス隊長に庇われたの。俺らってホントなんで呼ばれたの?」
「あ~、ツツリオ、オステール。もしかしたらだけど、俺と同じ理由じゃねぇか?」
「「ヒオロ?」」
「正直な話、俺は民を守るとか国を守るとかどうでもいいんすよ。身寄りがねぇスラム育ちですし、なので金のために兵士やってるようなもんで……」
「おいおい、そんな理由で……」
「隊長ストップ。理由はどうあれ仲間なんすから暴力は駄目っす」
「アァ? なんでだよ!? こいつは金なんてしょうもねぇ理由で」
「そもそも民云々はお嬢が来てからっすよ。それまで俺らの大半が金払いがいいからって理由で兵士になってんす。急に民のために闘えっつわれても皆が皆そうなる訳じゃねーでしょう!」
「それは……あー、めんどくせぇ、こういうのは他の奴の仕事だろ」
「隊長やってんすから諦めてください。そういうとこっすよココ呼ばれた理由」
「うるせぇよハーディ。で、ツツリオ、オステールはヒオロと一緒か?」
「言われてみれば、民のためって感じでは今まで頑張ってなかったかも?」
「まぁ、俺としては家庭環境が最悪だからなぁ、むしろ次顔合わせたら親父ぶっ殺してるかもだし。家族を守るためとか言われても、なぁ?」
なるほど、俺らは集められるだけの理由はちゃんとある訳か。
「まぁいい、とりあえずコボルト見付けて殲滅すりゃいいんだろ? カール、ハーディ、ギルドレイで一組。ツツリオ、オステール、ヒオロで一組。ヘイデン、カラード、ラファーリアで一組。ポーラック、セルドバレーは俺と組め。とりあえずいつも通り三人一組で周囲探索して行こうか。ここを集合場所で……」
「残念だが探索の時間はないようだぞ?」
剣聖さんが剣の柄に手を置き、腰だめに構える。
索敵していた俺達も遅れて気付いた。
何かが、無数の何かが近づいて来てる?
「グルアァッ」
森の奥から駆けてくるのは、一匹のコボルト。
四足使って駆けてくる姿は普通に凶暴な狼だ。
ソイツが口に斧を咥えて猛スピードで俺達に突っ込んできた。
「全員散か……円陣を組め! 俺が止めるッ」
散開して闘おうとしたゴルディアス隊長だったが、何かに気付いてすぐに指令を変えた。
円形に集まり、互いに背を預けた俺達が見たのは、森からわらわら、包囲するように現れるコボルトの群れ。
「グルァッ!!」
「どっせぇぃっ!!」
斧の切っ先向けて飛びかかったコボルトを気合一閃振り降ろしで真っ二つに切り裂くゴルディアス隊長。
それが戦闘の狼煙となった。
雄叫び上げてコボルトたちが一斉に襲いかかってくる。
散開していれば各個撃破の可能性もあったが、背中から襲われる心配が無くなった円陣の御蔭で対処が出来る。
さらに飽和状態の敵を相手することなく目の前の数体だけを相手どれば他の敵を味方が撃破してくれるのでかなり楽に闘える。
コボルト自体もそこまで強い魔物じゃないのでなんとかなりそうだ。
そう、思った。
思ってしまった。
だが、これはお嬢が俺達の矯正のために用意した戦場だってこと、俺達は忘れていたんだ。
「きゃぁ――――――ッ」
それはかすかな悲鳴だった。
確かに聞こえた。わずかに聞こえた。一般人は居ないと言われたはずのこの戦場に、少し離れた森の奥から、それは……確かに聞こえてしまった。