476話・クリストファー、もう倒れない、絶対に!!
SIDE:クリストファー
正直、ありがたいと思う。
今まで人数の関係上見過ごさざるをえなかった不正と、まだ私が気付いていなかった不正が全て一日で一掃された事。
さらにその穴埋めの人材確保。
新人の募集こそ私の仕事になるようだが、一番大変なモノは全てやってくれたようだ。
あとは人材育成次第であろう。
その人材育成の面では我が事務局は十分過ぎる恩恵を得た。
魔法によるドーピングではあるが、部下たちも私と同じくらいの仕事量を任せられる人材がちらほらでている。
これなら充分、私がまた倒れても停滞することはないだろう。
そもそも今まで私一人居ないだけで国が潰れかねない状態だったのがおかしかったのだ。
みごと再建の目途を見せてくれたロゼッタ嬢には感謝すべきだろう。
すべきなのだが……
いや、本当に、全員が速度を上げられるようになった御蔭で日々徹夜無しで仕事がこなせるようになったし、昼間と夜中の二部制に仕事を割り振ることで夜間作業についても問題は無くなった。
もともと二部制だったのだが、仕事が溜まり過ぎるのでどっちも残業だらけで垣根がなくなっていたのだ。むしろ元の状態に戻れた、と言った方が正しいか。
これでようやく私が自由に動いて村々の状況を見回り、不正を行っている代官等が居ないか調べる事が出来る。
特に徴税官は着服する奴が多いからな。木っ端は忙し過ぎて放置するしかなかったが、これからはしっかり摘発できるだろう。
しかし、新人か……
下手に募ると他国のスパイが潜り込む。
なんとかその辺りの判別方法が無いものか……いや、頼まん、ロゼッタ嬢には頼まんぞ。
多分できるだろうが、それ以上の事をやりかねん。
特に、今いる魔物を正式採用くらいはやってきかねない。
早急に新人募集を行わねば。
皆余裕ができたので少し休ませた後にやるとしよう。
全く、陛下がいつも以上におられる御蔭で本来3月以降の落ち着いた時期にやるべき王族決裁関連の業務全てを今の内にせねばならんからいつも以上に忙しくなったのは想定外だったわい。
加えて王のムチャ振りで私の仕事だけが山のように増えたからな。
アレが無ければ私の仕事は五徹もせずに終わっていたというに。ほんと、あの王何度引きずり落としてやろうかと思ったことか……
ああ、でも、ロゼッタ嬢は個人で陛下に引き受けた仕事までは気付かなかったか。これは手つかずで残っているな。では私はこれから終わらせるか。今の速度なら一徹程でできるだろ。他の書類は皆に任せてしまおう。それくらいできる実力が身に付いたようだしな。
「それにしても、この魔法は無駄に凄いな」
「いや、閣下、もはや我々では閣下の動きが全く見えないのですが……」
「そうなのか? どう見えている?」
「く、黒い風?」
「物凄い速度で書類が消えていってます。というか、閣下の声が遅れて聞こえて来てる気が?」
「やはり宰相としての職業レベルが700を越えていると強化した能力値も凄いらしいな」
「ロゼッタ嬢のこと、バケモノとはもう言えませんよ宰相?」
「ま、まて、まるで私がバケモノの仲間みたいな言い方は止めてくれないか!? 私は普通の宰相だぞ!?」
「普通の宰相は十徹もできないかと……」
そんなバカな? 陛下のムチャ振りを仕事と並行でやってたら普通に身に付くだろ?
お前達だってあと十年もすれば私の領域にだな……
「そもそも俺ら文官も十徹出来てる時点でおかしいってロゼッタ嬢に言われたもんな」
「ああ、ロゼッタ嬢に常識を言われた時の愕然とした気持ちは未だに覚えてるよ、俺ら、知らない間にバケモノの領域に入ってたのかってさ」
「そうか、ロゼッタ嬢じゃなくてもバケモノはこの国に居たのか」
「はは、バケモノ同士が交流しただけで恐ろしいバケモノの群れが増えちまった気がするぜ」
「それが自分とか笑えない。でも徹夜無くなって嬉しい」
本当に、ある意味福音をもらたす侯爵令嬢だ。ただ、それ以外の部署が恐ろしい事になっているようだが。
というか、コレ本当に魔物が描いた書類か?
普通の文官共より字、上手くない?
「お、来た来た、これが本来の財務大臣管理の費用……少な!? なんか一気に使用金額減ったぞ!? あの財務大臣どんだけ不正で金持ってってたんだ!?」
「すげぇ、軍事食糧費、半分以下になってる……」
「国庫の財源少ないって言われてたのに……うぇっ!? 村からの徴税額が今までの3倍に訂正されてるんだけど……これ、税掛け過ぎじゃ? いや、これが普通? そりゃこんだけ持ってかれてたら財源少なくなるわ……」
「犯罪犯した貴族家からの押収品すごい量だな。溜め込み過ぎだろ」
「これが国庫の金から出てたと思うと殴りたくなるな……」
「俺らの徹夜理由もこいつ等のせいなんだろ? ホントロゼッタ嬢がやってくれなきゃ俺らまだ徹夜の死亡行進曲奏でてるとこだぜ?」
それに関しては本当に面目ない。
まさかロゼッタ嬢に怒られるとは思わなかった。
部下の経験を積ませるのも良いが得意な物も割り振らなければ効率が悪くなり徹夜が増える。
ソレを即座に見抜かれ、注意されたのだ。
私が殆どを引き受けていたのだが、そのせいで効率が悪くなっている、と。
ホントその通りだった。
私は一番効率がいい方法をと考えてのことだったが、当時より仕事量が増えた今では悪手でしかなかったようだ。
私もまた、仕事に忙殺されて思考麻痺に陥っていたのかもしれないな。
だが……だが、だ。さすがにもう一度ロゼッタ嬢に任すことは絶対にないからな。
私は絶対に倒れん、倒れんぞ!
国庫の在庫として陛下に献上されたエリクサー100本とアムリタ100本。そしてアンブロシア100個という国が300回は再建築出来る国宝が倒れる度に献上されるとか、私が倒れたら陛下が持たん。アレ献上された時、一瞬だが確実にばぁぶぅと陛下から漏れたからな。陛下の正気度だけは、絶対に守らねば……