473話・グランザム、頼む、嘘だと言ってくれ……
SIDE:グランザム
「以上が不正の報告となります」
「そ、そうか……」
ロゼッタ嬢が宰相の代役を始めて二日。
たった二日で宰相が10徹しても終わらずあと10徹はしないととか言ってた仕事が半分程終わったらしい。
どんなスピードしてるんじゃこのバケモノは?
そしてその半分で不正しておる存在が発覚。
しかも複数いるらしい。
今までは各書類をばらばらに処理していたので分からなかったらしいが、纏めると出て来た不正の証拠を今儂の影とベルングシュタット家の影が合同で調べて証拠の押収に尽力しているらしい。
詳しいメンバーについては宰相が起き次第ということらしいが、儂のGoサインが出れば今すぐにでも全員纏めて捕縛可能ではあるらしい。
そして、その捕縛を行えば、無数の空き要員がでるため国政が滞るそうだ。
何ソレ、恐い。不正を無くして風通しを良くするのはむしろ率先しておきたいが、一斉検挙を行うと国政が回らなくなる。
かといって少しずつ捕縛だと感づかれて証拠隠滅などされる恐れもあるらしい。
もはや儂が取れる方法は悪事を無視するか一斉検挙するしかないではないか。
さ、宰相、相談を、相談をしたいんじゃ、早く、早く起きておくれ!?
じゃないと儂の胃が、胃がストレスでネジ切れる!!
「なので、新人募集を掛けるべきだとは思うのですが、それも各大臣たちに気付かれないようひっそりと、あるいは一斉検挙後を提唱しておきます」
「検挙後の場合は空き時間が生まれよう、そこはどうするつもりじゃ?」
「臨時職員という意味合いなら私に心当たりはあります。ただ、人と仕事するには不向きな存在ですので陛下から各部署へ勅令を出していただくことになります」
「ど、どういう意味かの?」
「森の守護者たちに意思疎通可能な魔物たちを臨時職員として借り受ける方法がお勧めです。アルケーニスだと城内情報を奪われますし、プライダル商会職員はこれ以上借りだすことは難しいです。他の可能な存在があるのでしたら……」
ない、そんなものはない、影として使っている者たちや兵士達を無理矢理大臣枠に押し込めるくらいしか策はない。
新人を求めるにしてもその間の臨時大臣……か。
ま、魔物に、務まるのか?
頼む、頼むから嘘だと言ってくれ、冗談じゃと笑って……ああ、あの顔真剣だ。本気で魔物に国政任す気じゃこ奴。
「ま、魔物といったの、それらは、危険ではないのか?」
「守護者とその側近ですから念話で意思疎通は可能、実力的にも暗殺対象からは外れますし、外部に情報を漏らされる心配もありません。そもそも不要な情報を持った彼らにとって有効活用する術がありませんから。それから、危険かどうかで言えばキーリの報復を恐れて絶対に暴走は致しません。人間から攻撃を受けた場合は過剰な反撃はされるかもですが。そこを陛下から勅命で攻撃禁止令を発令していただければ、と」
キーリ嬢、いや、むしろそれはロゼッタ嬢を恐れておるのでは?
「で、ではソレらが大臣として働くに当たり問題はない、と?」
「仕事を覚えるまで多少もたつくやも知れませんが、基本彼らは山の管理をしている管理職員です。大臣仕事とそこまで変わらないでしょう」
「そ、そうか……そう、か?」
い、いかん、儂、なんかもうそれでいいんじゃね? と思い始めておる。
宰相が居ればあるいは留めてくれたやもしれんのに、というかエリオット、こ奴に暴走させるなと言うたではないか、たった数日で国を潰しかねない暴走し始めとるぞ!?
上手くいけば潰れんが……いや、分かった。やろう、やってみよう。やるしかあるまい。
「魔獣の勧誘と一斉検挙、何時までに可能だ?」
「早ければ明日にでも。今日の帰りに魔獣たちを集め、情報も精査しておきます」
なんという恐ろしい女だ。
宰相が忙殺のあまり見過ごしていた不正を全て暴きだし、あるいは国政の観点から見て見ぬふりをしていたであろう不正を根こそぎ潰すという。
国にとっては手痛い出血だが、致命傷にはならないだろう。
なによりこの女が絶対に致命傷にはさせんはずだ。
何しろこの国が潰れればリオネルとの婚姻が潰れることと同義になるしな。
ああ、じゃが不安じゃ。
本当にこ奴に任せて大丈夫なのか? この国、変貌してしまわんか?
いや、腹を決めよグランザム。ここで迷えば迷うだけ、儂の正気度が消えて行くだけじゃ。
じゃから腹をくくるんじゃ。この泥船が沈む事なく大航海を終える箱舟であると信じて。たとえ、たとえ船の全てを別のナニカと交換し尽くしていたとしても……
「よかろう、宰相代行にして軍部総司令官ロゼッタ・ベルングシュタットよ。不正全てを暴き誅し、我が国の膿をすべて出し切るがいい」
「かしこまりました」
ああ、やってしまった。
後悔とかは考えるな。考えた瞬間精神が壊れる。
影達が報告して来ただろう。自分の精神を越えた光景を目の当たりにしたギルド長たちの亡骸を。
儂まで壊れてしまえば国が滅ぶ。
と、とりあえず剣聖の奴を探そう。儂のストレス発散のために愚痴聞かせねばやっとれんわい。
奴のストレス? 知らんわそんなもん。
不正した大臣共? それこそ知らんわそんなもん。
勝手に捕まって罪償っておればよい。
国政なんかもー知ら……あ、危ない、この思考は危ないぞ。危うく何も考えずに部屋で寝込むところじゃったわい。ロゼッタ嬢、なんという劇薬なんじゃ!?