470話・ロゼッタ、まずは今ある書類を終わらせる!
「キーリ、選り分けよろしく、士官さんたちは全員書類に専念して、レコール君たちも士官さんたちと一緒にお願い。リックルとフライジャルはこっちの書類よろしく。パラセルとセーリアはこの書類に不備が無いか調べて。エリオット王子、暇でしたらこちらの書類を陛下に届けてくださいまし」
「え? あ、はい」
エリオット王子が立ち去って行く。
ソレを見送るサラディン。
「サラディンさん、宰相さんの息子ならそれなりの仕事はできるでしょう。そこの書類をお願いしますわ。終わったらセーリアかパラセルに書類を回してくださいまし」
「あ、はい」
キーリが書類を触手で纏めて複数の士官に配りだす。
さらに未仕分け書類も触手で私の元へ。私は書類の種類を見て仕分け、各士官の仕事量を見て誰に回すかを考え置いて行く。
彼らでは難しいかもしれない判断がいる書類は私の傍に取り置き。王族の許可が必要なモノは戻ってきたエリオット王子に再び王様の元へ持ってってもらう。
人が居ないから立っているなら王族すらも顎で使っちゃうんだよ。悪女だな。
「あの、終わった書類の仕分けは?」
「いつも通り……はどうやっていたのかしら?」
視線は書類に手は仕分けに、を繰り返しながら尋ね返す。
士官の一人はやや戸惑い気味に、私に報告する。
「許可、不許可で仕分けして宰相閣下に提出いたします」
「そう。ならそれでいいわ。貴方の右後ろに許可書類。左後ろに不許可書類を束ねて行って。キーリ、分かるわね?」
「はいなぁ~。一言だけで以心伝心できるウチと主はんってもはや相思相愛ちゃうやろか?」
まぁ、それなりに長い間一緒に居るからねぇ。キーリの思考回路がなんとなくわかるように、キーリには私が求めてる事何となくわかっちゃうんだろう。
でも私が恋愛感情持ってるのはリオネル様なのでごめんねキーリ。
「俄然やる気アップや!」
うん、やる気になってるところを潰すのも悪いから指摘はしないでおこう。
「はははっ、速い速い。今までと全然違う程に、処理速度が上がってるっ」
「今までは苦手な書類を優先的にこなしてスキルアップを計ってたんだってことがありありと分かるな、宰相閣下は我々の実力を引き上げるために御無理をなさっていたということか……」
いや、10徹しながら部下の成長を優先って倒れる方が迷惑だから止めてほしいんだよ。
むしろ少しだけ苦手な分野を混ぜるに留めて効率重視した方が速度的にも負担的にも少ないし、どうせ毎日の書類整理で皆勝手にスキルアップするから問題無いと思うんだよ。宰相さん。きっと優し過ぎたんだなぁ。もうちょっと皆に任せちゃえばいいのに、自分で苦労背負い込むから。
私の前に居たOLの御局さんも似たようなことして体壊して辞めたんだよね。
なのに自分が辞めたら会社が潰れると凄く心配してて、あー、なんで私引き継いじゃったんだろ。あそこで彼女の仕事を全部引き継がなきゃ途中で寿退社出来てたかもなのに。
嫌われ役やりながら後進育てて行くのってすごく大変なんだよ。
「そろそろ二時間経ちます!」
「了解。キーリ、こちらの書類はこれから戻ってくる士官さん用だからまだ置いておいて」
「はいな」
「右から時計回りに10人ずつ、二時間毎の休憩をなさい。あとこれ、栄養保存食よ。起きた後で食べなさい」
次の休憩を行う士官10人にキーリが配って行く。
「その書類の束が終わってからよ、行けるわね?」
「この分量なら充分です!」
「はは、久々の休憩だ。何日振りだろうなぁ!?」
「うはははは、休憩でテンション上がるより書類がちゃんと終わらせられるかが心配でテンション下がるぅっ」
「すぐ戻ってきます。二時間、頑張って休みます!」
仕事人間というよりもはや仕事中毒者になっている。血走った眼でカロリーバーっぽいのを握った士官たちが、最初に休んでいた士官が戻ると同時に休みに入るため去っていく。
「俺達の仕事をだせ! 十分休んだぞ!」
「まずはそこのカロリーバーを食べなさい。寝たら食事。お茶も置いとくから、できるだけ流し込まないように食べなさい。キーリ書類を配って」
「ひぇぇ、触手フル稼働なのになんか追い付かなくなってきとる気がする!?」
「キーリさん、書類無くなりそうです、追加お願いしますッ!」
「こっちも!」
「私もだ!」
「キーリ嬢、遅いぞ! なにやってんの!?」
「なんでウチが理不尽に怒られたん!?」
そこはまさに戦場だった。
ただの書類作業なのにここまで忙しいのは想定外過ぎるんだよ。
「失礼します! 各大臣より新しい書類きました!」
「私の右側に置いて行って」
定期的に書類は増える。
各大臣からの報告書に陳情書。あるいは民からの嘆願書、各農村からの資料などなど、休む時間も惜しいとばかりに分単位で増えて行く書類、それを全員が一丸となって減らしていく。
減っては増えて、増えては減って。
どれ程急いでこなしても、増える分量に追い付かなければ永遠に書類は無くならない。
まずは一徹。否。徹夜等不要。
それから昼食も取らず夕闇が来て数時間を過ぎた頃。
「全員一旦作業停止」
「何!?」
「これより六時間、休暇とします。徹夜は無しです」
「正気ですか!?」
「よく現状を見なさい。本日でこの状況、徹夜の必要はあって?」
「それは……なさそう、ですね」
「この状態を繰り返せば五日後には通常業務に戻れるかと……徹夜をすれば三日程ですが」
「とりあえず宰相が倒れている以上貴方達の負担も相当よ。日数が掛かってもまずは体調管理をしっかりとしましょう。貴方達が倒れることの方が損害が大きいのだもの。大丈夫よ、今日一日一緒にしたけど、貴方たちなら充分こなせるわ。徹夜も無しで仕事をこなし、宰相が戻ってきたら皆笑顔で出迎えてあげましょう」
皆、互いに顔を見やる。
「ふふ、皆酷い顔だ」
「そう、だな。体調は大切か」
なんとか、皆を休ませることも出来そうだ。深夜だけど私も家に帰って寝ようっと。




