468話・グランザム、仕方なかった……仕方なかったんだっ
SIDE:グランザム
やってしまった。
いくらなんでも無謀だったかもしれない。
しかしながら、この緊急事態を打開できる人物を儂は一人しか知らなかった。
宰相がついに倒れた。
やはり昨日までの10徹は無謀だったらしい。
生命が切れたようにぱたりと。
普通に死んだかと思ったが鼾が聞えたので寝不足による強制睡眠だろう。
いつ起きるか分からない以上彼は休ませるしかない。
そして、起きてからもしばらくは静養させねばまた倒れかねん。
無理をさせてるのは承知していたのだ。
さすがに頼りにし過ぎた。しかし、彼がいなければ国が回らん。
どうすれば、どうすれば……そこで、思い当った。思い当たってしまったのだ。
唯一、この危機を回避出来るだろう存在に。
だから、儂は勅令を下した。
多分まだ混乱していたのだろう。
玉座に腰かけふぅっと息を吐いた今、なんか致命的な事をやってしまった気がして仕方が無い。
あ、来て、しまったのか。そうか。仕方ない……仕方なかったんだ。
後継が育つ前に宰相が倒れてしまったから。これは、これは必要悪なのだ。
「失礼致します。召還に応じ、ロゼッタ・ベルングシュタット罷り越しましてございます」
「まか……? いや、すまんな。本来ならば頼むべきことではないと十分に承知しておるのだが、突然宰相が倒れてしまい、皆が動揺しておる。本来ならば宰相がおらずとも数日は回せる士官たちも動揺のせいで動きが悪く、しかも皆宰相同様徹夜明けで力尽きている者も多く。このままでは国政が回らぬ。そなたの実力を鑑み、どうか我が国を助けてもらいたく勅令を下した。宰相が起きるまででよい。ただ、今の流れをそのまま引き継いでくれればよいのだ。どうか、臨時の宰相をおこなってくれぬか?」
「不肖ながら。この私でよろしければ、臨時宰相の役割、務めさせていただきます」
臣下の礼を取るロゼッタ嬢はとても頼もしく、しかし、言いしれぬ不安が付きまとう。
頼む。頼むぞ? 今までの流れを続けるだけでよいのだ。やらかしてはいかんぞ? 自重だ。自重をするんだぞ?
よいな? 分かっておるな? 本当に分かっておるよな? フリじゃないぞ?
「ロゼッタ嬢。必要な物があれば宰相の部下に命令をしてくれ、彼らには既にそなたが代わりを務めることを知らせてある。最初こそ小娘と侮られるやもしれん、しかし……」
「問題ありません陛下。貴方様はただ命令してくださればいいのです。私に、臨時の宰相、立派に務めあげよ、と。そうすれば私は全力を持って国政に臨みましょう」
「え? いや、待って。全力はいい、いいから。あくまで宰相のやってたことを……」
「折角ですもの、端折れる場所は端折り、宰相様の仕事の負担を減らさねばですわね。さすがに十徹して終わらない仕事は酷すぎますもの……あ、そうだわ、陛下、数人、プライダル商会から助っ人を連れてきたく思います。身分は私が保証しますので、国政に携わらせてもよろしいでしょうか?」
「む、むぅ? それで、回るのだな? 情報漏えいも、ないのだな?」
「信頼のおける者しか連れて来ません。この首に掛けて」
「わ、分かった、お主の良いように頼む。国の政、任せるぞロゼッタ・ベルングシュタット」
「はっ!」
ロゼッタ嬢が去っていく。
ふぅ、なぜだろうか? 今の問答だけで寿命が縮んだ気がするわい。
言葉に気をつけんとあの娘は想定外の事をやらかしてくれるからの。
はぁ、大丈夫じゃろうか? いや、なんか心配になって来たぞ?
「そこの、エリオットを呼んで来てくれ」
「はっ!」
近くにいた近衛兵に指示を出す。
最近二人しか近衛兵がおらんのだが、その内一人向わせてしまって、儂の護衛大丈夫なのかの?
「問題はありません。我々は総指令官の指導を受けておりますれば、あちらにいる影位の実力者までからの奇襲は一人で対処可能です」
それは、心強いのぅ。慢心だと落胆すら出来んほどに事実だと思えてしまうのがまた、あの娘はホント儂の部下どこまで強くするつもりなんじゃろうか?
「父上、お呼びですか?」
「おお、執務中にすまんなエリオット。悪いが執務は部下に任せよ、今からロゼッタ嬢と共に宰相の仕事をフォローする任務に入れ。いいか、くれぐれもロゼッタ嬢を暴走させるでないぞ」
「それは……私がお目付け役、ということでよろしいですか?」
「うむ。くれぐれも、くれぐれも頼むぞ」
リオネルだと確実にロゼッタ凄い。で終わらせてしまうだろう。だからエリオットだ。エリオットが傍で見ていてこれはマズいと思った事を止めさせる。
コレしかあるまい。
ああ、これこそ宰相が起きていれば宰相をフォローに付けさせるのに……
「あ、そういうことでしたら、サラディンも呼びましょう、宰相の息子ですし、むしろ彼がやるべき作業の筈ですから。良い経験になるかと」
いい、のか? 本当にいい経験になるか? 精神が粉砕されてあぶぶとか言いださんか?
やはり、まだ不安が残る気がする。儂は神に祈る気持ちで虚空を見上げるのだった。