464話・影兵のおっちゃん、雪見恋愛祭で年下の恋人を
SIDE:影のおっちゃん(影なので名前はない)
婚活イベントというお嬢発案のイベントが行われる。
影兵の数人もこれに参加するらしい。
もちろん俺も参加確定だ。絶対に可愛い彼女を手に入れる。
そしてクラムサージュちゃんやチェルシーちゃんのようにバカップルになるんだ。
さすがにお嬢みたいにぶっ飛んだ性格のはまずいないだろう。
地雷系の女性を選んじまわないように数少ないこのチャンスをものにしねぇとな。
つーわけで、開始と同時にめぼしい女性を確認して行く。
鍛えた探索能力を使えばすぐに全員の顔を把握できた。
そこから俺好みの女性をピックアップ。
あの子はソバカス塗れだけど人当たりはよさそうだ。
あとで話しかけてみるか?
でも、俺の年齢だと結構断られそうなんだよなぁ。
ん、あの糸目のお姉さんはグラマラスだな。
男共の大半があの体型に視線を奪われてやがる。
多分、アレは地雷だ。彼氏がいない独り身? あの容姿で? そんなバカな?
おそらくアレは彼氏というより複数の男友達を作るために参加した口だな。
しぐさからして誘ってやがる……あ、違う、アレ同業者だわ。
こちらの視線に気づいてぱちっとウインクして見せる糸目のお姉さん、記憶の中じゃ黒ずくめの服を着てたが、体型的に滅多に合わない情報収集組の影兵だと気付く。
俺と同じようにこの数少ないチャンスをものにするつもりってことか。
い、意外と容姿ストライクなんだよなぁ、あとでアタックしてみようか?
い、いやいや、落ち付け、あいつと結婚となるとまず確実に年一回くらいしか会えないし一緒に過ごす時間なんて多分一年で一時間とかそれくらいになるぞ。
他には……っ!!?
それはなんと言えばいいのだろうか?
電撃が走る? 赤い実が弾ける? 全身が心臓になったような感じ?
まるで運命とでもいうように、何故か自分はこの女と添い遂げる。そんな感覚を味わった。
その娘は物凄く可愛らしいプラチナブロンド少女。
年の頃は10代後半くらい。
本来なら年の差があり過ぎて声を掛けたりするのも憚られる存在だ。
だが、見惚れた。
この女しかいない。そう思えるほどに、一目惚れだった。
あの美少女を見てしまえば、他の女性に魅力を感じなくなってしまう、それ程の衝撃的な出会いである。
話しかけようか、と一歩前に出た瞬間。背後に気配を感じて立ち止まる。
もしも、影兵としての仕事中であれば即座に武器を引き抜き、前に出ながら投擲して回避している。それくらいの近場にソイツはいた。
「アレは止めときなさいな。ウチの情報網に引っ掛かる程度には間抜けなスパイさんよ」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
背後のソイツにゆっくりと振り向き、容姿を確認する。
見覚えの無い女性だ。しいていうのならば大して印象に残らない特徴の無い顔の女性。
美人という訳ではないし、不細工というほどの顔立ちでもない。
可愛らしいが少し離れてしまえばどんな顔だったか思い出せない、そんな顔立ちである。
その女が何でもないような顔で俺の背後を取っていた。
「あんたは?」
「アルケーニスの警護担当。あとアンタ達ベルングシュタット家の影さんの恋人確保補助を受け持ってるわ」
影兵が誰か、既にアルケーニスに把握されてますけど、お嬢!?
これ大丈夫なんすか? 本当にアルケーニスは信頼できるんすか? 暗殺組織ですよ?
警護に雇うべき存在じゃないんですよ!?
「ってか、あの美少女、スパイなのか?」
「当然でしょう。あんな可愛らしい娘が今まで彼氏無しとかあり得ると思う? 所作をよく見なさいよ。ハニートラップ要員だと分かるでしょ? ただ、ちょっとド素人臭いけど」
だよな、ハニートラップ初心者、というかどう見てもその手の行為はした事が無いような動き方だ。
周囲への視線の配り方、何処となく不安げな所作、不要な存在に声を掛けられないように努めている立ち振るまい。
確かにアレは一般人というよりこちら側の人間だろう。ただ、新米も新米といった感じの。
そういう理由でお嬢に尋ねてみたんだが……
いいのかよ、いや、俺としちゃアタックできるのはありがたいし、上手くいけば美少女の彼女が出来ちまうってことで嬉しいんだがな?
あとは俺次第、ってことか。俄然やる気が出て来た。
この際身分や能力、使えるもんは全部使ってやる。絶対に結婚までこぎ着けてやる、覚悟しろよスパイちゃん!
思いっきり俺の彼女になるメリットを見せつけてやる。
年の差なんてどうでもよくなるくらいのな。
ただ、致命的な情報抜かれないようにってのはなかなか大変そうだが。
お嬢の事報告する時って、大丈夫かな彼女? 絶対でたらめ情報掴まされたとか勘違いされるだろ。それで処刑とかされないでくれよ?