457話・ベルゼガリス、あやつ強過ぎないか?
SIDE:ベルゼガリス
王族の剣術指導がある程度終わったので午後からが暇になってしまった。
陛下の茶飲みに巻き込まれたりもしていたが、基本途中からロゼッタ嬢への愚痴がループし始めるので出来ればもう彼と茶はしばらく飲みたくない。
とはいえ、今まで剣に生きていた自分では暇の潰し方など考えにも及ばず。
剣を振るにしても振る場所が無い。
中庭だと陛下に見付かった時点で茶に誘われるからな。
だから、訓練所の隅で剣を振るっていようか、と訓練所に顔を出してみれば、総司令官と見知らぬ娘が白いテーブルを囲ってティータイムを行っていた。
他の兵士達が訓練をしているのに、総司令官がそんな態度で良いと思っているのだろうか?
少し文句でも言ってやろう、と茶会に強制参加してみると、何故か私の方が訓練に参加させられそうになった。
冗談ではない。あんなバケモノの巣窟に引っ張り込まれてたまるか。私は人として剣聖なのだ。人外になる気は無い。その辺りは娘に任せるつもりだ。
しかし、キーリクライク……どこかで聞いた気がするのだが……
「んじゃー、キーリ、フェイルたちと交替ねー」
「やっとやな! ここからはキーリちゃん無双の時間やでーっ」
「ああ、おしい。もう少しでキーリに勝てそうだったのにっ」
リオネル王子の動きは正直私より良いのではなかろうか?
基本剣術は私の教えた剣術だが、随分見慣れない闘い方に変わっているな。
おそらくあの触手の群れに対抗するために型が崩れ、より最適な動きに変わっているのだろう。
「フェイルー、交替やー」
「はい、ではこちらはお任せしますね。パンダフ、トラヴィス、バリー、全力でやるぞ、王子だからと遠慮すれば即座に負けると思え!」
教官が交替するのか。
今までフェイル達四人との対戦を行っていた兵士達が気を引き締める。
「全員戦闘態勢! 今度こそ瞬殺は回避するぞ!!」
どういうことだ?
ゴルディアスの号令の元、皆が動きだす。
ふむ、全体指揮を取るのはゴルディアスか。
特攻気質の彼が指揮するのはどうなのだろう? 短期決戦には向くかもしれんが、勝てる闘いになるとは思えんが?
「準備はえーか? んじゃ、行くえー」
キーリが告げたその刹那。
後衛部隊の真下から大量の触手が噴出。
後衛部隊は即座に逃げていたのでなんとか回避するが、前衛部隊とは完全に引き離された。
初手でこれはかなりの痛手ではないか!?
「後衛が辿りつくまで持ちこたえるぞ! サロック、ザイン、切り込め! ポーラック、ゼオールは後衛との道を確保しろ!」
うん? ゴルディアスが意外と指示出しをしている?
あ奴あそこまで考えられる奴だったか?
おお、最初こそ分断させられていたが、直ぐに戻ってきたな。
しかし、キーリは結構余裕そうだぞ?
「総司令官よ、あのキーリとかいう魔族はどれくらい強いのだ?」
「え? んー。基本キーリを強さの指標にしてるからなぁ。キーリってどれくらい強いんだろ?」
たとえとして使っているのにその実力が説明できんのか?
「そもそも東京ドーム何個分の指標には出来ても東京ドームの大きさなんて普通に分かんないんだよ。なんか凄そう、強そうっていう指標にはなるんだけども」
「その例えはよくわからんが、そうだな。あのフェイルを指標にして、キーリはどのくらい強い?」
「んー、レベル的にはそこまで差はないんだけど、フェイル10人分くらいかなぁ」
アレが10人居てようやく倒せるのか。キーリ嬢も想定以上に強いな。
間違っても闘わないようにせねば。
そんな決意をしている私をよそに、兵士達とキーリ嬢の闘いはまさに蹂躙としか言えないものだった。
「うーん、まだ私がレイド戦するのは無理そうだなぁ」
「え? ロゼッタ様も闘いに出られるのですか?」
「ええ。総司令官ですもの、キーリが苦戦し始めたら私があのレイド戦を1対多数でやるんだよ」
つまり、あのキーリ嬢が苦戦するほど皆が強くなってすら余裕で勝てる存在だ、ということか。
私は一体何に闘いを挑んだのだろう? どう見てもキーリ嬢、並の魔族じゃないぞ。というかキーリクライク・プライダル。邪神洞窟に封印されている邪神の名前じゃないか!?
え? なに、邪神復活してるの?
しかも御令嬢に従ってるの? なにそれ恐い。
邪神を下す実力ってこのロゼッタ嬢、どれだけ強いんだ?
もしかして、ラファーリアの男装解除をまだ認めてなかったら、あのフェイル達すら纏めて蹂躙する少女と全力で闘う可能性もあったのか……
その事実に思い至り、私は思わずぶるりと全身を震わせた。
師である剣神並に強い? 全然次元が違った。
バケモノだ。この少女が剣神と同程度? 冗談ではない、我が師をこんな規格外と一緒にしないでほしい。
おそらく師匠などですら指先が触れる程度で即死級のダメージを与えられそうだ。
うむ、ロゼッタ嬢には今後闘いを挑まないようにしよう。