456話・ロゼッタ、また来たの剣聖さん?
その日、さっそくと言えるほどに驚くべきは、ミルク・レイズナーがケリーに連れられて馬車でやってきたことだろうか?
訓練所までは背負って貰っていたようだが、訓練所に着いてからはケリーが訓練を行うために、彼女は私の隣で椅子に座って見学することになった。
丁度暇を持て余してたので彼女とお茶を飲みながら訓練を眺める。
「最近、お兄様が生き生きとしていらっしゃったの」
私の訓練を受けだしてからちょっと雰囲気が変わったんだとか。
「私、直ぐにピンと来て、兄に彼女さんが出来たんだって思ったの」
いや、雰囲気が変わっただけでなぜそこに辿りつく?
「それからは兄が帰ってくるたびに話の端々に見える女の影を探したんです」
何してんの、この妹恐い。
「そして前回、ようやく見付けたんです。総司令官が、総司令官の、総司令官に。そんな言葉がよく兄の口から洩れてました。その日の話に出て来たのは43回。こいつだ、って確信しました」
なんでそこ数えてるのか、と。
しかもその総指令官が女性だと確信するプロセスが謎過ぎる。
多分乙女の第六感なんだろうけど、直観力が凄過ぎてやっぱり怖い。
「それで、兄を問い詰めて、寄って来てる女だったら、私、兄に捨てられちゃうんじゃないかって、だったら自分でさっさと死のうかなぁって。私、ずっと病気で兄に迷惑ばかりかけてましたし、彼女が出来たらもう、私には構ってくれないって思ったら、寂しいなって」
「あ、はは。まぁ歩くのはもう少し訓練しないとだけど、これからは寂しかったらお兄さんに直接伝えてあげなさい。ケリーならたとえ彼女ができようと結婚しようと、貴女を放り出すことなんてしないわ」
「そう、ですかね?」
「貴女が大好きなお兄さんは、彼女が出来たくらいで貴女を放り出すような冷血漢なのかしら?」
「そんなことありませんッ! お兄様はとても優しくて強くて頼りになる私の一番……っ!? あ、その、すいません」
このブラコン妹重過ぎるよ……
「近衛兵として私が居た時だがな、ケリーは常に君の心配をしていたよ」
!?!
不意に椅子を持って来てテーブルを前にどかりと座ったおっちゃん。私達の茶会に強制参加してきなすった。剣聖さんじゃあーりませんか。
何処からともなくやってきた剣聖さんの前に、メイドさんがお茶を出す。
流れるようにやってきたなこの堅物親父。
「ごきげんよう剣聖様。本日は何の御用です?」
「最近この時間が暇になってな、せっかくなのでラファーガのいや、ラファーリアの訓練でも見ておこうかと思って来た」
無理矢理対戦させるぞ駄目親。
「ラファーリアさんといえば、あのドレスで乱戦している方ですよね?」
「うむ、あの恰好をさせているのはなんの辱めだ、と思ったが、成る程。こうして見るとラファーリアの動きに切れがでているな。緩急の付く動きで敵を翻弄し、ドレスを汚さず倒しきる、か。まだそこまでは出来ておらんようだがな」
「訓練中ですから、ただ、今でも剣聖様を倒せるかもしれませんよ?」
「……ラファーリアから話が来ていないからな。娘が自分は勝てると確信してからだ。それ以外は認めん」
いや、認めんって……これ、もしかして対戦避けてる?
「もしよろしければ参加していただいてもよろしいですわよ?」
「軍属は引退した身だ。若い者に任せる」
あ、これ絶対逃げてる。次に対戦したら負ける可能性高いから絶対に闘わないつもりだこの人。
剣聖なのに意外と性格悪そうだ。
「凄いですね、ラファーリアさん。私もあれくらい動けたらなぁ」
憧れの女性を見るようにうっとりとしているミルク。
しかし、次の瞬間ケリーと背中合わせになったラファーリアの闘いを見て押し黙る。
ヤバぁ、なんか勘違いしてそうだ。
「あの女、お兄様に……」
「あの男、我が娘に……」
あっれぇ。こいつらもしかして同じ精神構造!?
ヤバい人が二人も居る!? たっけてキーリ!
「主はんたっけてぇ、リオネルはんに負けそうやーっ」
おお、キーリが押されとる。頑張れリオネル様ー、邪神討伐やっちゃえー。
「ああ、主はんがウチを見捨てる眼をし始めたぁ!? あれはあれでええかも……」
あぶな、キーリが変な扉開きそうになってる。
「リオネル王子と闘っている娘は何者だ? アレもただの魔族ではなさそうだが」
「私、人以外の人物って初めて見ました。あの方は人と一緒の場所に居てもいいのですか?」
「あー、アレは私の義理の妹、キーリクライクよ。キーリって呼んであげて」
「キーリクライク……はて、どこかで聞いたような?」
「まぁまぁ、キーリさんですね。あの触手に塗れたお兄様……ごくり」
こっちも変な扉開きそうになってる人がいる。
剣聖さん。この娘変なんですっ。
え。知らない? 畜生、剣聖さんじゃ味方になってくれそうにないや、他に誰か味方になってくれる人いるかな?