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455話・ロゼッタ、貴女の未来を選びなさい

「では、まずは私が、ご紹介しますのでその時に入ってくだされば……」


「ここが彼女の寝所ね。紹介は不要よ、リオネル様、先にお願いしますわ、女性よりも男性を先に向かわせる方がよいので」


「了解。何をするつもりか知らないけど、僕が必要なら手伝うよ」


 と、いうわけで、ケリーが案内してくれたミルク・レイズナーの寝所へと、まずリオネル様、私の順で無断侵入させて貰う。

 自分が真っ先に行く予定だったケリーが目を白黒して呆然としていたけど、はっと我に返って私達に続いて部屋へと入る。


「お兄様……? いえ、誰っ!?」


「やぁ、初めまして。僕はリオネル。君のお兄さんのことで話があるらしくてね、彼女の付き添いで来たんだ」


「彼女の、付き添い?」


 可愛らしい少女の戸惑う声を聞きながら、私がリオネル様の隣に並ぶ。


「初めましてお嬢さん。ケリー・レイズナーの訓練を見ている総指令官をしております、ロゼッタ・ベルングシュタットと申します」


 上半身を起こしている少女は暗がりの中でも分かるほどに華奢な体躯だ。

 パジャマ姿で胸元がちょっと空いてる。リオネル様に見せるのはちょっとイケナイような気もするけど、今回だけはしっかり説明しておかないと嫉妬で自殺しちゃう娘なのでリオネル様が隣に居るのは必須事項なのである。


 白髪のセミロングの少女。

 白髪なのは多分度重なる病のせいだろう。

 もしかしてだいぶヤバい病気なのかも?

 リオネル様とケリーに感染しないよう、私と同じ状態異常無効化結界付けておこう。後、一回浄化しておこう。


「え? そ、総司令官!? あ、女の人……彼女……?」


「はい、貴女に総指令官が女性であると話したらヤキモチを焼かれたとケリーに泣き付かれまして、こうしてヤキモチを焼く必要はないですよ、と伝えに参りましたのよ」


「あ、あわわ、あの、兄がすいませんっ」


「構わないわ。可愛い妹さんの大切なお兄様ですもの。しっかりと訓練させますから今後ともよろしくお願いしますわ」


「あ、は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします……?」


「ちなみに、こちらにおられますリオネル様が私の婚約者なの。カッコイイでしょう?」


「へ? あ、そっか、婚約者がいらっしゃるんですね?」


「ええ。凄く素敵な方よ。結婚するならこの人しか居ないって思うくらい。貴女にもいるかしら?」


「わ、私はこの通り病弱なので、お兄様が一番大切な男性ですし、それ以外の男性を知りませんから」


「そういうと思ったわ。だから、はい」


 胸元からこういうこともあろうかと、とばかりに取り出す一つの小瓶。

 ふっふっふ。やはりアイテムを取りだす時は胸元からよね?


「あの、なんですか、これ?」


「貴女の運命を変える小瓶よ。このまま病弱だと甘えて兄の世話になって生き続けるのか、自ら人生を切り開くのか、覚悟があるのなら、飲み干しなさい」


「お、お嬢、一体何を!?」


 ケリーが驚き近づいてくるが、何かを察しているらしいリオネル様が手で制する。


「僕等の出る幕じゃないよケリー。大人しく妹さんの決断を見届けるといいよ」


「決断……ですか?」


「これを飲んで、どうなるというんですか……?」


「お兄さんの日常、自分の眼で見たくはないかしら?」


 遠回しの言葉に目を見開くミルク。

 じぃっと小瓶を見つめて黙り込む。

 ゆえに静寂。誰も何もしゃべらないから不思議な沈黙時間が舞い降りる。


「……これを飲めば、自分で歩ける、のですか?」


「歩き、走り、お兄さんの隣に居られる。かもしれないわね」


「かもしれないって……」


 呆れた顔をする少女に、私は悪役令嬢を意識した笑みを浮かべる。


「ふふ、見ず知らずの私を信用してみるかどうか、疑惑の小瓶は飲まなければ疑惑のままよ、兄が私について何か言っていたのでしょう? その人物像を思い浮かべて、自分が信用するに値するかどうか、それを飲む飲まないは貴女次第よ?」


 兄の上司である私を信頼して飲んでみるか、怪しんで飲まずにおくか、好きに選んでいいんだよ。

 もしも飲まない選択肢を取れば、今まで通りになるわけだし、ヒロインちゃんとの闘いで死ぬかどうかは彼女次第。

 でももし、それを飲むのなら……


 少女はしばし、小瓶へと視線を落とし、やがて「よし」と決意する。

 小瓶の栓を手で取り除き、一息に小瓶の中身を飲みほした。


「ミルクっ!?」


「うっ」


 どくんっと脈打つように少女は倒れ込む。

 中身を失った小瓶がベッドから転がり落ちた。


「お、お嬢!? 今の、何を、妹に何を飲ませたんですかッ!?」


「え? アムリタだけど?」


「あむ……アムリタっ!? え? アムリタ? アムリタぁッ!!」


 小瓶の中身が何かを理解したケリーは怒鳴るように叫び、疑問に思って同じことを口にして、やがてそれが何かようやく理解して腰砕けに倒れ込み、尻をしたたか打ちつけ悶絶する。


「え? あ、あの、アムリタって、あのアムリタですか!? 全ての状態異常を無くし不治の病すらも治療するといわれる、あの!?」


「ゴブリンの巣で見付けてアイテムボックスの肥やしになってたの思い出してね。せっかくだから使ってみようかと思って」


「ロゼ……わかってる? その妙薬一つで国が買えるよ?」


「え? だって余ってたし。まず使わないもの。基本魔法で何とかできるし」


「……あはは、相変わらずだなぁロゼは。ケリー、そういうことらしいし、目覚めたら歩行訓練から始めてあげなよ。寝たきりの体力を回復はできないから、体力を付けるのは君の役目だよ」


「は、はい。あの……ありがとうございますっ! 我が家の問題に貴重なアムリタを……このご恩は必ずっ、必ず一生かけてでもお返ししますッ」


「一生尽くすつもりなら私ではなく国と家族を守りなさいな。貴方は近衛兵なのだから」


「あ……必ず、我が祖国と家族を守り切りますっ! この命と騎士の誓いに掛けて!!」


 あー、土下座しちゃってるよ、ちょっとやり過ぎたかなぁ? でもアムリタ、まだ余ってるんだよね。ミノタウロスさんの一つ前の階層でよく取れるんだこれが。これは言わない方がいいよね多分。

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― 新着の感想 ―
ミルクちゃん国飲んじゃった!
[良い点] >>基本魔法でなんとかする それはめっちゃ思いましたw蘇生魔法どころか、再生魔法を使えるロゼがアムリタを使った理由は…その方がカッコいいから。に一票。 [気になる点] ケリーアとケリーの…
[一言] 世界のRPGとしての内容を知ってる者なら無理してでも採りに行きたそうなアイテムですね。自称ヒロインちゃんはどうだろう?
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