452話・ロゼッタ、蛍雪の功、喜ぶべきは巣立つ部下……蛍雪の功ってなんだっけ?
ようやく雪虫の季節が終わった。
地面は真っ黒だけど道は雪虫掻きが終わってある程度足の踏み場がある。
まぁ私は常に浮いてるんだけども。
部下の訓練に久しぶりに顔を出し、お嬢にも苦手なもんあるんだなぁとなんか笑われたからちょっとゴルディアスには3Gくらいの重圧で走らせてやったんだけども……意外と頑張ったなあいつ。
兵士達の訓練はもうフェイル達任せで良いような気がして来たなぁ。
レイド戦は始まったけどキーリだけで十分みたいだし。
相も変わらず私は現場監督だけで暇なんだよねー。
というわけで、一足早く一人でプライダル商会へと向かうことにした。
レコール君が引き抜きかぁ。
貴族から浮浪者に落ち込んでついにそこまで這い上がったってなら嬉しい限りだねぇ。成り上がりストーリーとしては最高クラスの勝利じゃないかな?
まぁ、まだわかんないけども。
「おっはろん」
「あら、ロゼッタ今日は珍しく早いわね。ってかおっはろんってなによ。初めて聞いたわ」
ぽやーっとした顔のクラムサージュがスタッフルームの休憩所もとい皆の食事場でぼーっとしていた。
キッチンの方では報告通り、ルインクさん指導のもとなんか作ってるチェルシーの姿。
よく出来たじゃねーか。と頭撫でてるルインクさんと朗らかな笑顔でえへっとか言っちゃってるチェルシーは、うん、確かにバカップルっぽい。
「どったのクラムサージュ?」
「いやー、紅月夜にさー、エルとエメラリーフ見に行ったのよねー。あぁ、今でも事細かに思い出される最っ高のイベントでした。ゴチっす」
「なるほど、魅惑的なシチュエーションだったから何度も思い返して気持ち悪い笑み浮かべてえへへ、えへへしてるわけね」
「そうなのよ、えへへ……ってなんでじゃいっ! 変態じゃないのよ!」
「え? 自覚なかったの?」
「ちょっと!? 私のどこが変態なのよ!?」
「だって、ゲーム知識フル活用して目的の男の性癖やら好物やらなにやらまるっと調べ上げて思い通りにコントロールして悦にいってるんでしょ?」
「ちょぉい!? 言い方! 確かに事実っぽいけど言い方よ! もっと乙女的なオブラートな包み紙があったでしょうよ!? なんで爆弾をそのままおすそ分け、みたいな方法取っちゃうの!?」
「それよりレコールとパラセル居る? ちょっとお話の時間なんだよ」
「無視かい!? ああもう、なんかいつも通り過ぎて調子戻ったわ、仕事しよ。パラセルたちでしょ。仕事場行く前に伝えておくわ。ロゼッタの部屋でいいのよね」
「さっすがクラムサージュ、よろしくなんだよ。あ、あとシゼル居たら呼んで欲しいなぁ」
「こやつ、モフる気だ。隠そうともしやがらねぇ。ロゼッタ、恐ろしい子」
「ほーっほっほっほ。私がルールよ。シゼルを出しなさい。そしてモフらせなさい。おーっほっほっほ」
なんか、ノリで言っちゃったけど何やってんだ私達?
ふとした瞬間に同時に我に返った私達は、どちらともなく部屋をでて目的の場所へと向うのだった。
ルインクさん、なんだあいつ等? みたいな呆れた眼をしない。あとチェルシーは小首をこてんと傾げない。可愛いなぁもう。幸せにしろよあんちゃんっ。
……という訳で、
「ごきげんよう、お二方」
困った顔をしたレコール君と青い顔のパラセル。
二人が私の部屋にやってきた。
双方何の話があるかは分かっているご様子だ。
「おそらくですが、ケロちゃん商会からの引き抜きの件ですよね。向こうは広く見識を深めるために、とのことでしたが、断る予定なので心配せずともいいですよ?」
「そ、そうです。決してレコールの貴族復帰を手伝うっていう甘言に心動かされたりはしませんからっ」
「二人とも……何か勘違いしてない?」
「「?」」
「別にプライダル商会への義理で断れなんて言わないわよ」
日本では正社員だって一生その店でお仕事とかは稀なんだよ。
途中で辞めたり、自分の店持ったり、社長になったり、皆巣立って行くモノだし?
お店ってそういうもんでしょ? そもそも私は浮浪児たちは給金無しで雇ってる訳だし、むしろよく出ていかないなぁとちょっと驚くくらいである。私からすればコンビニのアルバイトみたいなもんよ? 店なんてやりたい事とか出来たら辞めてくのが普通でしょ? 人が足らなくなったら新しい子雇えばいいんだし。
「え? で、でも……」
「そもそも、貴方が貴族に戻りたいとして、私の商会を足枷にして貰った方が困るんだよ。レコール君もパラセル君も商会を追い落とそうなんて考えないと分かってるし、向こうに漏らすとも思ってないんだよ、そもそも漏らしたところで競合されるとも思えないし」
「それは、まぁ、そうですけども」
「だから、考える問題は商会への義理があるからとかではなく、レコール君とパラセル君、二人が貴族と執事の間柄に戻りたいのか、商店の知識をもっと深めたいのか。皆とただ一緒にいたいだけなのか。その思いの強さなんだよ」
一拍置いて、私は尋ねる。
「パラセル。貴方は、この先どうありたいの?」
「……僕は……ずっとレコールと一緒でした。だから、これからも彼の傍で働きたいです」
ちょっと待て、それって普通に友人としてだよね、イケナイ恋人としてじゃないよね? なまじ中性的な顔だからなんかそっち方向に向かっちゃっても全然おかしくない気が……あ、やばい、そう思ったらレコールを見る目が恋する乙女になってるような、だめよ、男の子同士は駄目よ、イケナイわ。でもちょっと見てみたい気も……
「いいのかよパラセル。お前、それだと一生俺の召使いじゃん」
「違うよ、僕は、レコールがまた貴族に戻ってお嬢みたいに領地とかお店とか、経営する姿が見たいんだ。その手助けができたらな、って、駄目かな?」
「パラセル……」
さて、こんな熱烈なオファーを受けて、レコール君はどうするかな?
やっちゃうか、やっちゃうのか、パラセルとかいって抱きしめて口づけとかしちゃったりなんかしちゃったり……
「ケロちゃん商会、本気で俺のこと後押しする気なのかは気になるけど……俺も、貴族に戻れるなら戻りたい。お嬢、俺、できるかな? 貴族じゃ無くても、大商人、みたいな状態に、なれるかな?」
あっぶな、妄想で思わずレコール×パラセルしちゃってた、危うく涎でるとこだった。
「それには私の店だけじゃなく、他の店がどんな経営をしてるか見て学ぶべきね。その点でいえばケロちゃん商会は結構いい店よね。存分に吸収して自分のスキルアップにつなげなさいな。あと、店を辞めて向こうに入るのではなくプライダル商店の店員として研修で出向という形にすればいいのではないかしら?」
「分かりました。俺、パラセルと共に、出向してきます」
「ま、なんか嫌な事があったらいつでも言ってくるんだよ? あの狸親父、ちょろっとヤッちゃうチャンスになるし」
「「お嬢、黒いです」」
見事にハモッたな二人とも。




