431話・サロック、緊急戦闘ゴブリンキング戦!
SIDE:サロック
お嬢の魔法で一瞬にして西砦へとやって来た。
近衛部隊として陛下近辺の警護しかしていないのでこの砦に来るのは初めてだ。
砦の屋上に降り立つと、物見兵たちが驚いた顔でこちらを見ていた。
「ヴェスパニールはいるか?」
「え? あ、その、今戦闘指揮を、既に目下に部隊を展開し、準備を行っております」
「ああ、あそこにいるのね」
眼下に展開された二十人程の兵士たち。
物見に残されているのはここの二人だけのようだ。
それ以外は砦の西側、つまり他国との境界に部隊を展開している段階だ。
とはいえ、部隊を展開しているのは我が国だけではない。
少し遠めに見える場所に作られた砦にも紫で統一された兵士たちが並んでいるのが見える。
そちらの兵数は軽く数百。
「敵は?」
「あちらの方角に、既にこちらに向かっています」
お嬢は状況を確認して指示出しを始める。
わずか9歳でこの的確な指揮が出来ること自体驚きだ。
でも、その驚きを驚きだと感じていない自分もいるわけで、お嬢ならこのくらいやって当然と思えてる俺は随分とお嬢に毒されてるんだと思う。
現に、目に見える黒い群れを眼にしても、震えも何も来ていない。
お嬢が開戦を決めたのならこちらに勝利の目があるのだろう。
それも圧倒的な勝利、余程阿呆なことをしなければ死人もでない。それほどに安心できる勝率なのだろうと、思えてしまっている。
そうでなければお嬢は自分一人で殲滅するだろうという確信も、だ。
「接敵は近いわね。あの分だと一時間も掛からない、か。よし、全軍清聴!」
お嬢の言葉で場が引き締まる。
フェイル隊長をリーダーとして、隊列を組んでいく。
「兵士、近衛はフェイルを部隊長としてゴブリンキングを討伐!」
「……は? は、はいっ!」
「バリー、パンダフ、トラヴィスは分隊指示。フェイルだけでは指示不足だった場合独自判断で部隊を守れ。ただし、基本自分たちはフォローに徹しろ。今回はあくまで今季訓練兵が主役だ」
「いや、お嬢、さすがにこの数のゴブリンを相手に訓練は……」
「他のゴブリンは私が受け持つ。お前たちはゴブリンキングのみを倒せ。レイド戦の本番だ、死人無しでやってみろ。ゴルディアス、勢い込んで突撃はするなよ」
「わ、わかっております!」
「各部隊長は今回一般兵としてフェイルに付いて貰う。ただし、作戦通りに闘いながら自分ならどう攻略するかも同時に考えておけ。敵の攻撃力はまともな一撃をくらえば致命傷だと思って相対しろ、喰らわない事に越したことは無いからな。それと、重傷以上の兵士が一人でも出た場合はフェイル達四人で対処せよ。なぁに、邪神を相手に降参させたお前達だ。四人も居ればキングの一匹物の数にも入るまい?」
無茶苦茶言うなこの人。
でも、おそらく可能だからこそ、ゴブリンキング討伐を俺達に任せるというのだろう。
じゃなければゴブリン戦の方に割り振ってゴブリンキングは自分が倒すはずだ。
「当初の予定通り、新人たちはここで見学。いいか、自分たちも参加しようなどと余計なことは考えるな。今は先輩兵たちがどういう動きで闘うかをここでつぶさに観察せよ」
「は、はい」
「あと、キーリ、私が討ち漏らしたゴブリンの討伐は任せるわ」
「残飯処理みたいにいわんとってぇ、まぁやるけども」
「リオネル様はいかがします?」
「そうだね。今回はせっかくだし君の雄姿を見させてもらうよ、ロゼ」
「まぁ、では張りきって頑張りますわ」
お嬢が張り切るとか恐ろしい事になりそうなんだが、あのゴブリン共、死んだな。
「全員、各々の役割をこなせ。フェイル、下に部隊を展開後、ゴブリン接敵前に口上を叫べ。いつもの声出しだ」
「は!」
フェイル隊長が頷き、部隊展開のために俺達近衛兵も交えて砦から西側平原へと向かう。
って、俺達が砦から出た頃にはすでにお嬢が下に降りてるんだが?
バリー、お嬢どうやって……え、飛び降りた? そのくらい普通? 非常識過ぎないか? 砦の高さ幾らあると思って……あ、そう、飛べるんだっけお嬢。
「ヴェスパニール、調子はどうかしら?」
「そ、総司令官!? それに訓練兵も!? 確かに二日前くらいに早馬を走らせましたが……早すぎませんか?」
「丁度間に合ったのならいいじゃない。決死隊を組んだようだけど解散していいわ」
「え? しかし……」
「せっかくだから貴方達も見学しておきなさい。今の訓練兵の実力を、ほらヴェスパニール、新人のいる屋上に向かって、貴方達も」
これからゴブリン数万の群れに突っ込もうというヴェスパニール隊を無理矢理砦に押し込んだお嬢、既に目に見える程に近づいたゴブリンたちに魔法を掛ける。
「ゴブリンキングは……あれね。結界は二つ作ればいいか」
すると、ゴブリンキングと我々訓練兵たちのみを囲んだ結界が生成される。
さらにゴブリンたちだけを取り囲む結界がお嬢を含めた状態で展開。
他国の兵が明らかに狼狽してるぞ? あれ、いいのか?
「さぁ、刀の初陣と行きましょうか。そろそろ使ってあげないと錆びてしまうものね。じゃあフェイル、任せるわ」
そして俺達は、ゴブリンキングという凶悪な敵を相手にレイド戦を開始するのだった。