421話・ロゼッタ、新人さんいらっしゃい
訓練所にずらりと並ぶ人、人、人。
さすがにこの人数が集まると訓練所が手狭に感じるなぁ。
一応千人位が一斉に訓練しても問題無い広さなんだけど、密集すると暑苦しい。
ざわめく新人さんたちは朝の内にフェイルたちが受付済ませて午後からここに集まって来ている。
皆、私や部隊長には視線を向けず、二人の兵士にご執心だ。
サロックとゼオールである。
二人は首に掛けた紐で止められたプレートを胸元に掲げている。
最弱と書かれたプレートをである。
嘲笑が殆どで、訝しむ面々が少々。あとは面食らった顔をしている。
基本的には、最弱を主張して堂々としてるとかばっかでーって感じなんだろう。
ちゃんと意味があることに気付いた人は何人いるかな?
新人さん達をゆっくりと見回す。
OL時代に培った新人発掘眼は殆どが、あ、駄目だこいつら。と私に思わせてるんだけど、何人かは宝石のように輝きそうなのがいる。
玉石混淆とはよく言ったもの、新人さんにも兵士に向き不向きの人材がいるようだ。
今までの兵士の態度や訓練模様を知ってる貴族のボンボンたちは多分早々に辞めて行くだろう。
向こうも兵士やったことがあるという箔だけ欲しいはずだし、明日には半分位になってるんじゃないかな?
まぁいいや、とりあえず、これで全員かな?
フェイルに視線を送れば、コクリと頷く。
んじゃ、始めますか。
「清聴ッ」
ざんっと大剣を地面に突き刺し声を張り上げる。
風魔法を使って全員に等しい声量で届くように工夫してみた。
すると、声が聞こえた瞬間、静寂と共に無数の視線がこちらに向けられた。
「さて、まずは初めましてだ。ライオネル王国軍総指令ロゼッタ・ベルングシュタットだ。諸君らの訓練の総指揮権を持っている。これより諸君らの上官となる者だ。よろしく頼む」
再びざわつき出す。子供? とかメスガキとか噂話が……今メスガキとか言った奴、顔覚えたからなっ。
「皆思う所はあるだろう。兵士など楽にこなせる仕事、あるいはこんな小娘の下でなど働けない。そう思う者は帰って貰って結構。相手の本質すら見えん阿呆は兵士になる必要はない」
おっと、今の台詞で何人かイラッとしたみたい。
皆堪忍袋の緒が細すぎるんだよ?
「まぁ、折角だ、本日は皆にも楽しんでもらえるようちょっとした余興を用意してみた。先日我が軍と近衛兵が合同で最弱決定戦を行ってな。折角だからその最弱二人で新人たちと対戦してみないかと思ったのだ。もちろん、君たちは全員で掛かってくれて構わない。こちらは兵士達の中でも勝ち抜け戦で最後まで残った二人だけだ。存分に力を振るってくれたまえ」
「それでは、一応強制というわけではないので、参加したいモノはこの場に残ってくれ。見学したい者は向こうで待機しているキーリ嬢の近くで見学だ」
キーリの傍には他の兵士が皆で待機中。現役兵たちは部隊長以外はキーリの傍でずっと待機なのである。毎年こんな感じらしいので問題はないだろう。
「何か質問はあるかしら? 今の内に聞いておきたい事があれば挙手してくださいな。ではそこの金髪の人」
「おう、とりあえずアンタが総司令官とかいうのには突っ込まないでおくとして、あの二人が最弱だっていう確証はあんのか? 俺達を油断させて最強の二人をぶつけるなんてことしたりはしてないんだよな?」
「ふふ、その心配はごもっともね。正直に言うと、最弱決定の後に私が一日付きっきりで個別指導を行っているわ。でも実際最弱決定戦で最下位だったのは事実よ。それについては兵士として訓練を行えばおのずと理解出来るわ。とりあえず、我が軍の最下位がその二人だと認識してくれればいいわ」
「そうかよ。まぁ、そうそう化けの皮が剥がれるようなこたぁしねぇか」
「そういうことよ。はい、他の質問……じゃあ一番後ろの俯いてるお兄さん」
「へ? あ、は、はい。えっと、その、この闘いで負けた新人は兵士になれない、とかあるんですか?」
「ああ、篩に掛けるつもりかどうかってことね? それはないわ。既に兵士として登録した以上貴方たちは全員新兵よ、そこは安心なさい、あくまで今の兵士のレベルを知って貰いたいだけだから。今いる兵士達は一カ月前から私の訓練を受けたので、それまでの実力を考えなければ皆さんとは一カ月程度しか実力に差が無いと思って貰っていいわ」
おっと、明らかにほっとした顔の人が何人か……って、おおぅ!? 女の子がいる、だと!?
一人だけ性別隠してるみたいだけど女の子がいる。短髪ぼさぼさ頭の女の子だ。
なんで男所帯の兵士に志願してるの?
女性初の兵士目指しちゃってるよ!?
フェイル、あの子って誰か分かる?
「あの子? ああ、確かラングスター家の御子息ですね。厳しい家で武家なんですよ。近衛に少し前まで親がいましてね、オスカー隊長の一つ前の隊長だったんですが、あまりにも厳しい訓練を行う鬼隊長だったのでオスカー隊長以下の近衛兵が一致団結して辞めさせてしまって……」
うわーお。
「剣聖でもありましたので陛下や王子たちの剣術指導もおこなっておりまして、今はそちらに専念していたかと……」
噂の剣聖様だった!? その娘さん!?
「あれ? でもリオネル様剣術練習受けてるように見えないんだよ?」
「あ、いえ、リオネル様ではなく、側室の息子さん方に今は教えておられます。一応第四王子以下の王族になるのですが、不貞の子ですので表舞台にはでていないというか……その」
王様何やってんの?