406話・ロゼッタ、既にやらかしてると際限なくなるんだよ、怖いな
「そうだ、問題があるってなら、口を封じてしまえばいいじゃないか……」
「親父もお袋も何諦めてんだよ? ガキ三人だろ?」
息子達が立ち上がるのに気付いて二人はさらに顔を青くする。
弾かれるように見上げた二人を、私は視線だけで制する。動くと罪が増えるんだよ?
「やれるさ、なぁ、バートン?」
「そうだねリーグル兄さん。女の子は殺す前に楽しませてね?」
うわぁ、こいつ等私達を殺す気だ。
第三王子目の前にして殺す宣言だよ。しかも私やキーリ襲うって婚約者であるリオネル様の前で告げちゃった。
リオネル様からなんか見ちゃいけない殺気みたいなのが迸ってる気がするんだよ、怖いな?
「つまり、君たちは僕を殺すつもり、でいいんだね?」
リオネル様の言葉に答えることなく、腰元に携えたタウンソードを引き抜く二人。
バートンとリーグルだっけ? 多分直ぐに忘れる名前だから覚える必要はないかなぁ。
リオネル様もこれを見て静かに剣を引き抜く。
その剣は、王家の紋章がこれでもかと目立つように柄に装飾されてる、どう見ても宝剣の類だ。
普通の貴族なら一目見ただけで気付けるようで、叔父様もおば様ももはや土気色の顔でわなないている。うん、この二人は王族弑虐罪も適用されちゃうな、たぶん。いや未遂?
「主はん、ウチ働かんでええのん?」みたいな顔をして来るキーリに、危なそうならリオネル様守ってとアイコンタクト、ついでにリオネル様に反射結界を20程重ね掛けしておく。
「来るがいい、自分たちがいかに愚かなことをするのか教えてやる」
おお、なんか、今までのイケショタなリオネル様がちょっとカッコ良く成長してないですか!?
ねぇ、キーリ、アレ、アレ見た!? 私の婚約者なのよっ!!
いやん、トキめいちゃう!
「あー、主はん? ……駄目だ、偶像崇拝でトリプッて神見付けたみたいな顔になっとる……」
リオネル様のうちわ持ちたい。サイリウムどこ!? ああん、リオネル様ぁーっ。きゃーっ!!
「クソ、死ねぇ」
二人の男が突撃する。
狭い室内で剣を振りまわすとかどうかと思うんだけど、それを対峙したリオネル様は一歩前に飛び込むことで薙ぎ払い。
二人の剣が折れて宙を舞い、驚く二人に向かって二歩目でリーグルの首筋に手刀を叩き込み意識を奪う。
唖然としているバートンに三歩めで近づき同じように意識を奪う。
「よし、上手く行った」
見た! キーリ見た! リオネル様がなんか物語の主人公みたいな動きしたんだけども!?
「あー、はいはい、見た見た。やから頭ぽんぽん叩かんとって? ウチの頭、いいねボタンとちゃうんやで」
なんでいいねボタンとか知ってるのキーリ? クラムサージュ経由かな?
「キーリ、悪いんだけどこの二人縛っておいて」
必要なモノは手に入れたし、捕縛する面子はここにいる。
あとは全員を王城にある牢屋に入れて、王様に裁いて貰うだけ。
「さて、とりあえず一旦帰ろうか?」
「そうですね。詳しくは後発のお父様の部隊にお任せしましょう」
既にお父様が不正を暴く為に遣わせた別動隊が出発してるので、数日後にはここに付くだろう。
まぁ、証拠のほとんどは私のアイテムボックスの中なんだけどね、これは王様に直接渡すから問題無いんだよ。
「あ、そや、主はん、ここに住んどるメイドさんとか執事さんとかおるんやろ?」
「あ、そういえばそっちの方は何も連絡いってないのか。叔父様、執事長さんとメイド長さんってすぐ呼べる?」
「そこの、ベルを鳴らせばいい」
もはや諦めの境地に入ってる叔父様が指差す。私がそれをちりりんと鳴らすと、一分と掛からず執事が一人やってきた。
「失礼しま……これは!?」
「突然だけれど執事さん。今館に居る全員を一カ所に集めてくださる? この屋敷の重大な発表がございます」
「は、はぁ、しかし、貴女様は? それに我々の主様はそちらの……」
「あら? ここはレニファティウス・ベルングシュタット侯爵の領主館だと思っていたのだけれど? この者が主だなんて誰が決めたのかしら?」
「え? あ。その……確かにその通りでございます。しかし、侯爵様は弟君であられるラスニコバルさ……なんですかこれは?」
何かくっちゃべりそうになっていた執事さんに紙を一枚ぺいっと投げる。
空気を滑るようにひらりと舞った羊皮紙は、彼の手元へ収まった。
「こ、これは!?」
「お父様より領主代理指名官と監査官に任命されたロゼッタ・ベルングシュタットと申します。残念ながらこちらにいらっしゃる方々は長年領主代理が空席だったことに付け込み領地で好き勝手なさっていた偽の領主でした。よって本日を以て彼らを犯罪者として更迭させていただきますわ。こちらの新しい領主代行に付いてはもうしばらく時間がかかりますが代わりを寄越します。その代わりが来るまでの指示を行いますので本日は皆さん一度仕事を止めて集合。説明会を行います」
ポアラを送り込むまでにそれなりに動けるようにしとかないとね。いや、むしろさっさと連れて来て任しちゃうか。方針だけ伝えとけば彼女ならできるでしょ。能力はあるんだし。
「私達は一旦この犯罪者を王都に送ってきます。鐘一突き分程の時間の後、説明会を行いますわ。何処に集まりまして?」
「で、でしたら使役人達の食堂が広くてよろしいかと」
「ではそちらに集めておいてくださいまし。新領主と共に参ります」
さぁって、それじゃーリオネル様、犯罪者の護送を超特急で終わらせましょう。文字通り超特急で。