間幕・リックル、ライオネル怪談
SIDE:リックル
本日、影のおじさん主催で、情報収集部隊が集まっていた。
新しく来た子供たちの一部も興味を覚えて部隊に入った御蔭で、僕らも10人程になった。
部隊といっても子供ばっかりだし、お嬢に言われて情報収集の訓練をしてるだけのメンバーだ。
影のおじさん指導でいろいろと勉強してるんだけど、なかなか面倒で覚えづらい。
フラジャイルは前々からスパイ活動してた御蔭で僕よりは上手いけど、それでも気配遮断とかはまだまだ甘い。
そんな訳で、結局フラジャイルがリーダーとなって僕らは集まっていたのだ。
今日は影のおじさんが折角だから月に一度、皆が集めた情報の報告会をしようってことで、題材を決めてそれに関する情報を集める訓練をしてる。
今日がその発表会である。
んで、今日の題材は、怪談。
ライオネル王国内に噂として存在する奇妙な出来事を報告するのである。
「えーっと、それじゃ僕からでいいんですよね。僕が手に入れた怪談は『赤い姫騎士の霊』です」
おー、のっけから凄いのきそうだな。
僕とフラジャイルは視線を向けあって会話する。
既にアイコンタクトは覚えた。
目だけで会話する技術だ。なかなか難しかったけど、フラジャイルが居てくれたおかげで僕が会得する手伝いをしてくれたのだ。
「それは何処からともなく現れる、赤い馬に乗った赤い鎧の姫騎士の霊……」
……最近、似たような人見掛けたような?
「出会った場合は即座に土下座して靴を頭の上に乗せればいい。でも、土下座をしないと、馬に蹴られて死ぬらしいんだ。そして、悪行を行っていた場合は土下座をしていても蹴り殺されるんだ」
きゃーっと新人の子供たちが悲鳴を上げる。
そこまで怖かったかな?
というか……僕らは再び視線を交わす。フラジャイルも同じか。
((お嬢だ、これ……))
「ふふん、私はすっごい情報手に入れたんだよ。なんと、『真夜中に動く雪だるま』」
それ、お嬢のお土産話にあったよね、北砦に作った雪だるまゴーレム。
噂って言うか、それ兵士さんから聞いただろ。
「あー、えっと、これはですね、孤児生活の時に聞いたんですけど、『子攫いの老紳士』という……」
うわぁ、フラジャイルの顔が凄いことになってる。
これって多分、アルケーニスのスカウトだよね。
孤児を回収して自分の組織の駒として育成する奴。
「んじゃ私ですね。えっと、これは友達の友達が体験した事なんですけど……怪談名は『消えた山脈』」
……御免、それ、原因知ってる。
お嬢がボーエン先生に今使える最高の魔法見せろって言われてやらかした奴。ボーエン先生と二人で思い出話語ってる時聞いたんだよね……
……あれ? おかしいな。怪談の筈なのにほぼお嬢と紳士の話しかでてきてないぞ?
「さて、それじゃー俺の怪談だな。えーっと『貞子』」
「って、待てフラジャイル。それはクラムサージュさんが話してた怪談じゃないか」
「ちぃっ知ってたか。仕方ないな。それじゃあ『暴虐竜の食事』でどうだ?」
それは、知らないな。
「この世界には竜という絶対に関わっちゃいけない存在が居る。人間よりも知能が高く、人間よりも強大で、人間よりも容赦ない」
ごくり、誰かの喉が鳴った。
「全身に鱗を生やし、山程の大きな体に翼と尻尾。爬虫類を思わせる顔を持ち、大空を飛び交っている。普段は絶対に出会う事がない存在だけど、人間がその存在を見る事が出来る時がある。それがいつか、分かるか?」
皆を見回し、フラジャイルが恐ろしそうな声音で告げる。
「食事時だ。空より飛来して町を覆い、炎のブレスで焼きつくし、街ごと全てを喰らい尽くして去って行く。後に残るは焼け野原。ただ遠くに居た冒険者だけが呆けた顔で見上げるのみ、だ」
震えあがる子供たち。
……なんでだろう、怖いとは思うんだけど、普通にお嬢なら同じ事やってのけそうだなって、おもっちゃうんだよなぁ。どっかお嬢の逆鱗に触れたとこが焼け野原になったんじゃないかな?
「ほら、リックル、お前だぞ次」
「あ、そっか。あーどうしようかな。んじゃ僕からは『消された商業ギルド長』なんてどうかな」
それはお嬢がやらかしたことで生まれた最新の怪談だ。皆知ってるかもだけど、ワクワクして話に聞き入ってくる。
内容は簡単。自分の欲に忠実なギルド長はやり過ぎてとある悪夢の逆鱗に触れた。
ゆえに処罰され、その死にざまはギルドに居た全員が見ていたにも関わらず、ギルド長は今も生きているように見えている。
だが、既に彼は死んでいて、今見えているギルド長は幽霊である、あるいは、悪夢により作られたギルド長を騙るナニカである。
もしもこの秘密に興味を抱きギルド長を調べてしまうと、悪夢が再び現れて、調べた存在をギルド長と同じに変えてしまうのだと言う。
完全に誤解の話だけど、面白い怪談になってたのでネタとして仕入れさせて貰った。
「いや、それ先日のお嬢じゃねーか」
「凄いっしょ影のおじさん。噂に尾ヒレ背ビレがついてこんな怪談が出来ちゃってるんですよ」
「っつか、今回の話殆どお嬢のやらかしじゃねーか。なんで怪談になってんだよ!?」
頭を抱える影のおじさん。そんな事言われても、集めた怪談のインパクトをしのぐお嬢のやらかしが悪いと思うんだ。