387話・クリストファー、予想通りだ
SIDE:クリストファー
「ぬぅおおお、なんなんじゃこの書類の量はッ!!」
がちゃり、とドアを開いて自分の書斎に向かえば、そこには陛下が書類の海と格闘していた。
「随分と押しているじゃないかグラン」
「ふぬぐっ!? なっ!? クリス!? お主何故ここにおる!?」
本日、ロゼッタ嬢に連れられてスグニマケイル帝国まで向った私が夜中に戻ってくるとは思ってもみなかったらしい。
しかし、たった一日の分量でまだこれだけ残っているとなるとさすがにちょっとどうかと思うぞ?
たかが数千枚の書類程度一時間で終わらせて貰わんと困るのだが?
「お、お前、これ、なんなんじゃ!? 儂への嫌がらせか!」
「何を訳の分からんことを、この程度の書類で何を言っているんだ。そら、変われグラン。あと、そこにいろよ。グランでしか決裁出来ないものはそちらに回すからな」
「う、うむ?」
書類の海を掻きわけ、書斎机に着くと、グランと替わり、席に着く。
おい、これではどれが終わったかわからんじゃないか。
「いや、無理じゃって、これだけあったらもうどれがどれやら」
それはもう仕事になってないのでは?
「まあいい、この辺りの書類を全てそっちに纏めてくれ」
「え? 儂が?」
「ここまで散らかしたうえに滞っているのだ、責任を少しくらい果たせ、全く私はロゼッタ嬢に付き添って酷い目にあったというのに、この程度もやらぬとはどうなってるんだグラン」
「いや、この程度って……」
戸惑いながら、いそいそと書類を私の右側から左側の端へと寄せて行くグラン。この国の国王陛下を顎で使っているという優越感を覚えつつも、場所が空いたので早速書類を片付けて行く。
「ほぁ!?」
「呆けている時間はないぞ、さっさと片付けてくれ。この程度のスペースはすぐに埋まってしまう」
「あ、う、うむ」
慌てて行動を再開するグラン。
頑張ってくれてるがそれでは遅い。
仕方ない。
机に設置されていた呼び鈴を鳴らす。
側仕えたちが慌てた様子でやってきた。
「リーファナシス宰相!? 戻って来ていらしたのですか!?」
「戻って来ているも何も、なんだこの書類の数は? 私が居なくとも回るようにしておくべきだろう? まさか陛下に全て任せていたのか?」
「そ、それは……」
「全く、私が数日居ないからと今日は休むつもりだっただろう。陛下が困ってるところを明日二日分纏めてやってしまおうとか思っていたな。陛下にいいところを見せつけたいのは分かるがそれで業務が滞ることで困る者がいると何故分からん」
「「「申し訳ございませんッ」」」
「これからは気を付けたまえ。これ以上愚かな行為をするのなら、ロゼッタ式訓練をやらせるからな」
「「「ひぃっ!?」」」
「あれ? ロゼッタ嬢の訓練が罰ゲームみたいになっとる?」
部下がやってくると、私の仕事の仕方を熟知している御蔭で即座にスペースが作られる。
そこに見終わった書類をカード投げの要領で投げて行く。
長年の政務で投げればしっかりと書類の束が積まれていく。
「か、神技か!?」
この位、宰相業務をやってる者なら自然と身に着くだろう。
「そらグラン、こっちはお前のだ」
書類を投げてグランの前に積んで行く。
「おお、ホントに儂が採決するやつばかり。なんでそんなパラパラめくるだけでここまで的確に……馬鹿な!? めくりながら判を押しておる!? しかもそれが押した瞬間全て投げられている、だと!?」
だから、この位宰相業をやってれば自然と身に着くというのに、今日の分はむしろ少ない方だぞ?
ほら、もう半分終わってしまった。
まだ半鐘分にすら時間が経過しておらんのに、全くこれを一日がかりで終わらそうなど怠慢も怠慢だぞ?
「の、のぅ、クリスってこんなロゼッタ嬢みたいな存在だったかの?」
「え? 宰相様でしたらむしろ手を抜いておられますよ?」
「うそん!?」
「忙しい時は残像が見えますからね。今の三倍は早いかと」
「それでも10徹とかなっちゃうんですよねー。業務多過ぎ」
「そ、そうか……クリス、お付きの者もう少し増やしておくよ」
「そうしてくれると助かる。あとお前達もこの位出来るように早くなってくれ」
「無理っす」
「私達ですと三人で全力だして今の宰相と同じペースですからねー」
「いやー、宰相がいないとほんとこの国終わっちゃうんじゃないですか陛下? 代えが利く存在じゃないですよ?」
「安心しろ、今私に何かあったとしてもロゼッタ嬢ならなんとか代役してくれるだろ」
「いや、儂が心労で死ぬんじゃがそれは……」
「そう思うなら優秀な人材を送ってくれ。いつでも歓迎するぞ?」
「う、うむ、ロゼッタ嬢に尋ねておく」
いや待て、そこでロゼッタ嬢を出して来るなっ。なんか恐ろしい新人送りこんできそうな……むしろそのほうがいいのか? あ、いや、悪女だけはどんなに頭の回る存在でも送って来ないでくれよ? 国が傾きかねん。