378話・シゼル、お嬢式店員選別法・1
SIDE:シゼル
本日、私はシュプレシアとレコール君の二人と共に新しく入った店員見習いである子供たちと女性陣の教育係になっていた。
正直人に教えるのは苦手なのだ。
シュプレシアとは同期なので結構仲が良いんだけど、レコール君は正直ちょっと苦手。
子供たちのリーダーなのでなんかちょっと気遅れしてしまうのだ。
私みたいなのが話しかけちゃって業務の邪魔しないかなって思うのだ。
話しかけるとむしろ親身になって教えてくれるからいい人ではあるんだけどなぁ。
「ごきげんよう、なんだよ」
「あれ? お嬢、来てくれたんですか!」
そんなレコール君が凄く嬉しそうに告げる。
正直助かった。そんな顔をする彼の気持ちは私とシュプレシアの代弁でもあった。
ほんと、子供たちは勉強熱心でむしろ手が掛からないのに、女性陣が凄く厄介だ。
何しろ変に年取ってるからマウントを取って来るのだ。
年功序列とかこの商店では意味の無いことだし、そういう女性に限って頭も要領も悪い。
とにかく楽して生活したいという雰囲気が駄々漏れなのだ。
私も結構怠惰なんだけど……正直引くほど酷いのだ。
「とりあえず、どんな感じ? モノになりそう?」
「子供たちは結構いい感じですね。知識を必死に吸収して生活の糧にしようとしてます」
まぁ、極限状態体験したうえに親に捨てられて頼れるのは自分だけって状態で生きて来たんだしね、使える物はなんでも使って自分の生活力を向上させようとするでしょ。
「大人の方は?」
「凄く、やりづらいです」
「ふむん?」
よく分かってない様子のお嬢が小首を傾げる。
うぅ、その顔はちょっと可愛らしい。普通に同い年か年下の女の子に見えるのだ。
あと、私の姿見付けた瞬間抱きついて来て撫でまわすのは止めてほしいのだ。
「実際に見て貰った方が早いと思うよ、お嬢、あの大人達本当にいる?」
一番面倒事に晒されてるのはレコール君だ。
私達のまとめ役ということで女性陣の不平不満を一挙に引き受けさせられていて、辟易している。
扉を開き、本日の学習部屋へと皆で向う。
こっちは子供たち用。
最初こそ皆一緒にしてたんだけど、女性陣がうだうだ言い始めたので部屋を分けることにしたのだ。
ふぎゃぁ!? お、お嬢、尻尾は、尻尾はだめにゃのにゃぁっ。
てしてし手の甲に尻尾の先を当てて自己主張。
気付いたお嬢がむぅっと少し不満そうに尻尾から手を離す。
「んもぅ、尻尾がもふの真髄でしょー」
「しっぽは敏感だから駄目なのだ。ふしゃーってなるのだ」
子供たちは基本ボーエン先生が面倒を見ている。
教え方も上手いし、いろんなこと教えてくれるから良い先生なのだ。
私達はその補助を行っているのだ。
「おや、ロゼッタ嬢」
「お邪魔してるんだよ。どう?」
「子供たちは問題無いですね。むしろもう教えることが無くなってきましたからそろそろ接客を教え始めてるところです」
ということは、子供たちはもう即戦力になり得るほどの知恵があるってことね。
ついでに向こうでの授業に移っても良さそうな知識は詰め込めたようだ。
問題は、彼らが寝る場所が確保できるかどうか、かな。
寮の大きさもうちょっと増やしちゃうかなぁ。増設検討した方がいいかも。周辺の土地買い占めなきゃ。なんてことをぶつぶつと呟くお嬢、抱き締められてるせいで呟きが普通に聞こえちゃうのだ。
たぶん、子供たちが増援に入れば今の店舗は普通に回るようになるだろう。
なので増援で必要な分は既に確保できたといっていいかもしれない。
次に別の部屋へと向かい、女性陣の元へ。
今回ここの教師役に抜擢されたのはペルテシア、アルタール、トートルの三人だ。
基本は商業ギルドから派遣されたペルテシアが商業関連の話を教えてるんだけど、三人の表情は芳しくない。
そして、やってきた私達を見て天の助け、と眼を輝かす。
「お嬢、お待ちしてました」
「うん?」
「皆様に授業をお願いします。私達では力不足のようで」
ペルテシアが凄く疲れた顔で告げる。
トートルもなんかやつれた? 昨日まで血色よかったのに。
アルタールは凄く嫌そうな顔で告げる。
「お嬢、俺が言うのもおかしな話だが、こいつら本気で雇うのか? 店潰しかねんぞ? ウチでも絶対に引き抜かないって誓える面子だ。多分色町に送った方が互いに取ってプラスだぞ?」
スパイだって暗黙の了解が出来てるアルタールは、自分ももはや隠す気がなくなってるようで、何かあればウチの店では、ウチの店ではというのが口癖になっていた。
こっちの店より自店を優先してますというのを自他ともに認めさせているスパイなのだ。それ、ほんとにスパイなのだ?
「そう。じゃあ授業替わるんだよ、どこまで終わった?」
「殆ど開始直後」
「うん?」
眼をぱちくりするお嬢。
想定してないよね。うん。まだ殆ど始まっても居ないんだ。授業。
それだけ厄介なんだよこの女性陣。