377話・ロゼッタ、商会に顔をだすんだよ
初回訓練は予想通りの結果になった。
基本の訓練はフェイルたちに任せればいいとして、リオネル様が参戦するのは想定外だなぁ。
どうしよう、私が個別訓練? いや、さすがにそれは恥ずかし過ぎて手を抜いちゃいそう。
仕方ない、バリーたちを毎日一人リオネル様に割り振って他の三人が兵士の監督して貰おう。
今は良いけど近衛兵が訓練に参加したら皆が分散しそうだからなぁ。いや、纏めてやればいいんだけど、さすがにリオネル様を他のメンバーと訓練一緒にさせるとちょっとした怪我でもあった日には大問題になりそうだし。
フェイル……いえ、誠実な戦闘ならトラヴィスに任せた方がいいか。
パンダフだと奇襲とか混じるし、リオネル様向きの戦術はやっぱりトラヴィス任せが良さそうだ。
と、いうわけで、今後の方針決まったし兵士達の訓練はここまで。
ここから先は、一気に人数を増やす予定の商会の方である。
一応基礎訓練は皆にお任せしてあるが、私も定期的に見た方が良いだろう。
うーん、なんか転生する前より忙しい生活送ってない私?
おかしいなぁ。リオネル様とらぶらぶきゃっきゃ生活だけ送れてればいい筈なんだけどなぁ。
やっぱりゲーム世界だから脅威があるって言うのが駄目なんだよ。
私だとついつい備えようとしちゃう。
皆に言われるから自重してるけど、本当ならゲームでの不利益が起こり得ないように、イブリムの主人公暗殺しておくとか、侵略してきそうな国をあらかた粉砕して軍としての機能を奪っておくとか、魔王とか人類の敵になられると怖いから真っ先に潰しておこうとか。
やろうと思えば実行しちゃいたいんだけど、それをするとさすがに神様がおこな気がするから自重なんだよ。
なので私は大人しく、非常に残念だけど大人しく商会の方を片付けることにしたのである。
先日、女性陣と子供たちを一気に運んで来たため、育成用の洋館では、子供たちの笑い声が響いている。
年が近いこともあって子供たちの覚えが速い。
多分他の面子が覚えてることだから自分も出来る、と思いながら作業を覚えるから普通に覚えるよりも集中できるんだろう。
逆に女性陣は知識力と悪知恵が邪魔してちゃんと身についてないようだ。
これは時間かかりそうなんだよ。
と、いうわけで、私は訓練が済んだそのままの足で馬車に乗り込みプライダル商会へとやってきた。
カウンターは相変わらず戦場の様相を呈しており、そこを抜けてスタッフルームと書いてある扉の奥、クラムサージュがゆったりしていたダイニングルームへとやって来る。
んで、まぁ今回増えたメンバーに付いて話を振ってみたんだけど、なんか反応が鈍いと言うか……
「ってかさー、お嬢がやればすぐじゃん。兵士変質させた自慢のマインドコントロール術でぱぱっと意識改革しちゃってよ、即戦力大歓迎よ?」
失敬な、私マインドコントロール術なんて持ってないんだよ?
「まぁ、それは持ってないけど、女性陣に関しては焚きつける方法あるから問題はないんだよ。んじゃー早速旧貴族邸の方に向かって……」
「クラムサージュッ!! 居るんでしょーっ」
「!?!」
「今日も来たかー」
あ、あの声ってまさか!?
「予想通りのヒロインちゃんよ。最近ホント毎日来るのよね。やっぱり一度相手したのが悪かったわ。かなりのかまってちゃんだし人の話聞かないし、自分の主張押し通そうとしてくるし。まさかのここで住み込みで働くとか言われた時は地獄かと思ったわよ」
「絶対止めてよ?」
「丁重に断ったわよ。冗談じゃないわ。あんな危険人物と一緒の仕事なんて」
「クラムサージュ、出て来なさいよーっ」
「平民、煩いぞ。順番に並べ粗忽者」
「なんですって!? 私はこの世界の……って、うっそエレイン・ヒールロッド!?」
って、なんかカウンターの辺りで運命の出会いみたいなの起っちゃってるんだけど!?
「でも、出会いは最悪よねー。はは、どうすんだろ」
「全く、学の無い者はこれだから。並ぶことすら学べんとは哀しい限りだ」
「な、何よ、私は別に店で買い物しに来たんじゃないわよ。店長のクラムサージュに会いに来たのよ」
「ん? 店長? ここの長はロゼ……」
「あらあらエレインじゃない」
ナイスフォローお母様。
カウンターに来てたのか。
「今の、危なかったわね」
「いい加減諦めて姿見せてやったら?」
「嫌よ。ヒロインちゃんと関わったらバッドエンドになりそうだし」
「いきなりなるかい。そもそもアンタの婚約者、リオネルじゃん。エリオット王子じゃないんだからルート選ばれても断罪エンドにならないでしょ?」
「それが分からないからいろいろ画策してるんじゃない。ゲームの強制力が一番怖いのよ? 知らないうちに元のロゼッタ街道通ってる可能性だってあるんだし」
「いや、今のお嬢はどう見てもロゼッタ街道じゃなく未知の道を開拓しながら爆走してると思うわよ?」
そうだといいんだけどねー。
あ、私旧貴族邸行ってくるからヒロインちゃんよろしく。絶対に雇わないでね。雇ったらエルフレッドさんとの仲を修復不能になるまで徹底的に潰しちゃうんだよ。
「やめろ悪役令嬢っ! この悪魔っ」
軽口を叩きあって立ち去ると、私は隠蔽魔法で姿を消しながらヒロインちゃんに見付からないように脱出したのだった。