360話・???、難易度が変化し過ぎた監視活動
ちょっとホラーチックです。
SIDE:???
デーバルデ帝国南砦から急使が届いた。
否、届く筈の定期報告が途絶えた。
異変があったらしいことは分かる。
一応、という理由だけでライオネル王国の北砦を監視させていた草が全員定期報告を突然断ったのだ。
何か起こったことは明白。
しかも一度に全員となればさすがに動かざるをえない。
しかもその後、ライオネル王国北砦側から捕虜返還についての提案書が来たらしい。
本日、俺は首領の命を受けて上級影兵三名と共にデーバルデ南砦へとやって来ていた。
さすがに数日掛かっちまったせいで焦ったが、どうやら監視員は向こうに捕まっており、捕虜交換としてライオネル王国から金品が要求されたらしい。
本国との連絡の折聞かされたことなので確かだろう。
なんでこの砦の兵士達の方がその情報知らないんだ?
とはいえ、彼らに直接確かめる訳にはいかない。
何しろ俺達は影、本来味方にもその姿を暴かれてはならない存在だ。
俺達の事を知っているのは帝王閣下と宰相、后様くらいだろう。
そんな影の存在が敵国にバレたというのは大問題。
しかも捕虜として交渉材料にされるなど、さっさと口封じせねば。
そんな思いで辿りついた南砦、いや、デーバルデ南砦って、こんな廃墟だったか?
一体ここで何が起こった?
なんで兵士共はライオネルとの国境で滑って遊んでやがるんだ? これ、本国に報告したほうがいいんだろうか? 絶対に職務放棄だよな?
「報告は後にしよう。どうにも様子がおかしい。もしや操られているのでは?」
「まさか、ライオネルにそんな術師がいるとでも?」
「とにかく、向こうを調べてからの方がいい。情報が少なすぎる」
上級影兵の皆さんは冷静ですなっと。俺もそこそこベテランのつもりだが、基本異変があれば報告してるのでこいつ等とはちょっと報告方法が違うのだ。
とりあえず、一応直ぐに飛ばせるようにはしておくか。
文章は書きながら、もしもの場合は途中でも飛ばせるようにしなければ。
夜まで待ち、俺達はライオネル北砦へと向かう。
何があった? 一体、監視員が消えた理由は……門の前に何かいる?
「止まれ」
左右の岩陰に隠れて俺達はゆっくりと観察する。
「ありゃ人じゃねーな?」
「丸い胴体と丸い頭? あれ、雪で作られてないか?」
俺達は敵の観測手を調べる。
何をトチ狂っているのかライオネル王国の観測手たちは酒飲んで騒いでいるようだ。
どう見ても監視じゃない。馬鹿なのか?
しかもライオネル北砦周囲には木々が生い茂っているので此方からすれば隠れ放題観察し放題なのである。ほんと、馬鹿なのか?
監視の目を潜り抜けて門前へ。
良かった、どうやらこれはただの門飾りのようだ。
雪で作った玉を投げつけて見たが全く動かなかったのだ。
近づいて見れば理由も分かる。
誰が作ったか雪で像を作って門前に飾ったらしい。
「ライオネル兵は平和思考で侵略に対する意識はほぼゼロだと聞いていたが、これほどザルだとはな。砦に忍び込んでさっさとマヌケ共を殺して来るか?」
「助けるってぇ選択肢はやっぱなしっすか」
「当然だ敵の捕虜に成ったのに自死すら出来ん馬鹿は殺すしかない」
「我が軍の情報が漏れているかもしれんからな。どこまで喋ったかは確認すべきだろう」
「全くライオネルに感化されたのか? ここに捕まるとか恥ずかし過ぎて俺なら死ぬぞ?」
「ホントにな、なんで……おい? 今声出した奴何処行った?」
「あ? おいおい、冗談でも笑えねぇぞ?」
「な、なぁ上級の方々、気のせいかな?」
さっきまで目の前にあった雪の像。ゆきだるま、とか腹部分に書かれていた二つの像が、消えてる?
「ん? おい、そこにあった像は何処行った?」
「あ? あれ? さっきそこに居たもう一人は?」
「何を? さっきまでそこに……なんでいな、ぎゃっ」
「え? あ、あれ? ちょ、冗談だろ?」
気が付けば、俺以外誰も居ない。
何が? 何が起こった?
不意に、ずり、ずり、と何かを引きずる音がかすかに聞こえた気がした。
意識を集中させて周囲を見渡す。
何か、居る。
呼吸音はしない。
だが、居る。
何かが気配を殺して狙って来ている。
不味い、簡単な仕事だからと気を抜いたのが悪かったんだ。
あいつら全員ドジりやがった。
俺も、このままだとやられかねない。
俺だって影兵なんだ。
敵の姿すら分からずにやられる訳にはいかない。
逃げられるかどうかすら定かでないのなら、それだけはなんとしても本国に……はっ!?
不意に、真上に何かを感じた。
はっと見上げたその先には、眼を見開いたままこちらを見降ろす上級影兵の一人。
足を吊るしあげられたあとに気絶させられたか殺されたか、力無くだらりと垂れ下がり、空洞の視線だけがこちらを見つめていた。
「う。うわああああああああああああああああああああっ」
悲鳴を上げたのはそれを見たから、ではない。
その間横の枝にソイツが居たからだ。
不気味に佇む雪だるまが、スコップを手にして飛び降りる。
真下に居た俺向けて、スコップを叩きつけて来たのだ。
体が動いたのはとっさだった。
転がるようにして回避。
雪埃が舞い散り雪だるまが落下する。
「な、なん、なん……」
ゆらり、雪だるまが起き上がる。
俺は即座に逃げた。
ゆっくりと近づいてくる雪だるまから遠ざかるように、走って、走って、走って……
「あ、ああ……」
二体の上級影兵を引きずりながら、俺の目の前に現れるもう一体の雪だるま。
気のせいが血糊が体とスコップに付着している。
俺を見付けると二人をその場に捨て、スコップを構えた。
慌てて逃げようと後ろを向く。
そこにも雪だるまが。
ああ、挟まれた。
俺、雪だるまと雪だるまに、挟まれて……ああ、近づいてくる、誰か、だれかタス……
……
…………
………………
デーバルデ帝国影兵を束ねる首領と呼ばれている男が受け取った報告書には、そんなホラー風味のジョークとしか思えない報告がつづられていたそうな。