336話・ヴェスパニール、外から兵士が現れた
SIDE:ヴェスパニール
平民街街門近くの兵舎にて、報告書に頭を悩ませる日々。
そろそろ半年が経つので引き継ぎの時期に来ているのだが、さてさて、西砦へはいつ向うべきか。
とりあえずフェイルたちが来るのはいつも通りならもう少し先、それから準備を整えていると砦の奴らが文句を垂れるので準備は交替前に終わらせておかなければならない。
ゆえにここ数日は備蓄の管理などで忙しいのだ。
「隊長、なんか兵士の群れが近づいて来るんですが!」
「はぁ? 兵士? どこの国だ?」
「我が軍の軍旗です。兵数は100前後。かなりくたびれた装備の者たちです、まだ山側から草原に降りて来たところですが、真っ直ぐに我が国を目指しています。いかがしましょう? こういうの初めてなんでどうすればいいかって皆不安がってますよ」
「そうか……ったく、また仕事が増えるのか? 全部フェイルに残してやろうか、ちくしょうめ」
文句を言いながら立ち上がる。
どこの門に来るかはわからんが、とりあえず報告して来た兵士と共に国に向かって来るという兵士の一団を見に向かう。
町壁の上に昇って最近巷で有名な、というかプライダル商会から売り出された望遠鏡と双眼鏡。結構便利だったのでまとめ買いしたのだが、さすがに買い過ぎたらしく財務大臣からお小言を貰ったのは記憶に新しい。
水鉄砲のことといい、さすがにこれ以上何か無駄遣いすれば私の降格もあるかもしれない。
でも、なんかつい欲しくなる商品を取り扱うプライダル商店が悪いのだ。
新商品がピンポイントで欲しいもの過ぎる。
双眼鏡を覗いて言われた兵士団を見る。
ん……あの先頭にいるの、ガレフか? あっちにはフェイルやヘロテスがいる。
ってことは、ありゃ訓練組の兵士たちじゃないのか?
なんで外出てるんだ?
ああ、そう言えば少し前も夜中に外周使って訓練やらかしてて夜中に大声叫びやがったせいでうちに苦情来てたな。
同じ兵士ってことで苦情処理させられてんだが、どうしてくれんだフェイルの奴。
これ以上まだ苦情処理させるつもりか?
「って、なんか凄い魔物の群れと闘ってないか?」
「あいつらって魔法使えてましたっけ?」
いや、それよりも……なんだあいつら? 闘い方が想定以上で凄過ぎるんだが? あいつらってあんなに強かったっけ?
魔物の群れが全く機能してないくらいに駆逐されていってるんだが?
「すっご。なんだあれ?」
兵士全員に門に辿りついたら入れてやれ。と伝えておく。
さすがにここ以外の他の門見てる奴らには伝える必要はないだろう。
「あ、もうすぐ着きますね」
「おいフェイル、お前ら何してんだ? 訓練所にいたんじゃねーのか?」
町門の上から問いかける。
声に気付いたフェイルが顔をあげて笑みを浮かべた。
「おおヴェスパニールか。A部隊の部隊長が自らお出迎えか」
「謎の一団がこっち向かって来たから出ざるをえなかったんだよ。苦情処理丸投げすっぞ?」
「そりゃ御免だ。それより、今の時間はどれくらいだ?」
「あん? 夕方ちょっと前ってところか。もうそろそろ夕暮れになって街門が閉まる頃だ。良くこの時間に戻ってきたな。何処行ってたんだ?」
「ああ、ちょっとピクニックに、な」
ぴく? なんだそれ?
「皆聞いたか! 夕暮れ前の帰還、完了だ。訓練所まで胸張って戻るぞ!」
おーっと気合の入った声が重なる。
なんか、気合入ってんなお前ら?
「なぁ、フェイル? お前ら、なんか変わったか?」
「はは。半年後を楽しみにしとけ。お前も訓練に入ったら分かるさ」
よくわからんが、なんか今訓練と聞いて背中がぞくっとした気がするぞ?
「んじゃー、またなーヴェスパニール」
ボロボロの姿でそう告げて、楽しげに王城へと向けて大通りを歩きだす兵士達。
規則正しい軍靴の音に、周囲に居た民衆たちがなんだなんだと道を開けて行く。
フェイルの持った軍旗が風にたなびき、歴戦の男達が勇壮な顔で凱旋して行く。
何かよくわからんが、一回り大きく成ったような皆の後ろ姿に、幻でも見たんじゃなかろうか、と俺は頬を思い切りつねってみる。普通に痛かった。
「隊長、アレ、なんなんっすか?」
「わからん。ただ。最近訓練兵の様子がおかしいってのは噂で聞いていたんだ。本当に、だいぶ変わったみたいだな」
「やる気に満ちてますよね。俺らも見習った方がいい気がします」
「ああ。そうだな。だったら書類手伝ってくれ」
「おっと、急にお腹が、ちょっと休んできます」
「もっとマシな嘘つけや」
「ははは。さすがに書類整理とかやりたくねっす。隊長がんば」
「潔いけどさすがにそれは、なぁ……」
はぁ、帰って書類整理の続きするか。
にしても、フェイル達何があったんだ?
全員自信に満ち溢れてるし、なんか見てるだけで謎の敗北感を覚えるんだが?




