333話・シュヴァイデン、帰還サバイバル1
SIDE:シュヴァイデン
「というか、ガレフが音頭を取るのか?」
「え? あー、そういやそうだな。別に俺がやる必要はねーのか。誰かやりたい奴ーっ、て、誰もいねぇじゃん!?」
「確認はしたが別にお前がリーダーをやることに反対してる訳ではない。正直な話、お前ほどリーダーに適した奴はここに居ないからな」
「お、おぅ、シュヴァイデン隊長に言われるとちょっと照れるな」
「まさかあの調子者にこんな特技があるとはな。さて、リーダーはガレフに決まりだ。これから俺達が行う作戦を教えてくれ」
「了解。まず、そこの守護者は俺達がライオネル王国に帰りつくためのサポーター役だ。お嬢が説明しておいたんだろうぜ。今回のことで聞けることは大体聞いた。んで、左の山だが、こっちは楽にライオネル王国行けそうだが、トラップだ」
「トラップ? 直線距離でも山の多さでもこのルートはかなり有効に見えるが?」
「ああ。普通の行軍なら別に通っても問題はねぇだろぉぜ。でも、お嬢がちゃぁんとルートを構築してくれていた。こちらにいる守護者だが、こいつの守護山っつーの? 管理地域が右の二つの山だそうだ。つまり左の山は別の魔物が守護者を管轄してる。話が通ってないんで下手すりゃ守護者と闘う可能性だってあるし、魔物は確実に殺しに掛かって来る」
ごくり、誰かが生唾を飲んだ。
確かに、無策で突っ込めば全滅必至。それはキーリ嬢との闘いで嫌と言うほど身に染みている。
今の俺達は完全武装ではあるが、守護者と闘うための装備や道具は不足している。そも、回復用の道具は殆ど持ってきてないのだ。
未知の脅威はなるべく減らした方がいいだろう。
「ゆえに、俺達が向かうのはここから少し右に逸れた右の山頂上。ここで本日の宿を取る。それまでの行軍は斥候スキル覚えてる奴が周囲の警戒、弓部隊は武器を構えたまま行軍。魔法部隊も遅延魔法唱えたままにしておいてくれ。他の部隊は周辺を捜索しながら行動。食べれそうなもんがあったら集めてくれ。サバイバル知識は既に俺達全員が習っているはずだ」
言われ、思い出す。
そうだ。お嬢から既にサバイバル知識は教わっている。
こういう時にどう行動すればいいか、指標にすべきもの、目的地からずれない方法、水の確保、食料の確保、毒物の仕分け、襲撃の心得。ありとあらゆる知識は全て、そう、全て教わっている。
「そうか、ある意味、これは最終試練みたいなものか」
「シュヴァイデン隊長?」
「ああ、いや。最終とは言うべきじゃないな。むしろ総合訓練だ。今まで覚えた技術、知識、連携力。お嬢は俺達が自分の教えをしっかりと理解できているか試してるんだ」
言われ、皆がお嬢との訓練を思い出す。
納得して行く兵士達。
既に野外訓練知識は自分たちの中にあったのだ。
あとはただ実戦あるのみ。
「さぁ、お嬢の期待に応えて見せようじゃねぇか」
途端、全員が叫ぶ。
びくっと守護者が驚いていたし、周囲から鳥が飛び去るのが見えたが、俺達にはどうでもいいことだ。
―― これはまた……あのお嬢さんが関わると全ておかしくなるな ――
それは否定出来んな。というかその程度の呟き俺に向けてくんじゃない。
「ふはぁ、夜間行動なんざ初めてじゃねーか?」
「俺らは夜勤の見回りはしたことあるけどな。さすがに夜中は野営だよな?」
「全員密集、はぐれんなよ」
道が悪い。随分と根っこが入り組んでいる。
知識では分かっているが実際に通るとなるとかなり大変だ。
木の根に足を取られないように気を付ける。
が、魔物達が襲ってくるので足元への注意だけでは大怪我を負ってしまう。
ここでも大局観が活躍した。
周囲を見て自分の行動を行うお嬢が得意とする観察眼。
皆が訓練していた御蔭で、魔物の襲撃も普通に対処できた。
「なぁ、守護者さんよ、魔物、倒してしまってよかったのか?」
―― その辺りはこちらも了承済みだ ――
「まぁ、そうならいいけどよ……って。どうした? 止まってんぞ?」
ガレフは先頭が止まっている事に気づき、行軍を中断。自分が前へと向かっていく。
「うお、こりゃやべぇ」
急な斜面になっているようだ。
ここは気を付けて向わないと滑落の危険がある。
「ガレフ、この辺り登れば行けないか?」
「そりゃそっちからなら行けるだろうが、魔物の攻撃に気を付けてくれよ。こっちは、飛行できる奴、フォローを頼む。一人ずつだ。魔物が出た場合は飛行部隊と弓部隊で……」
「まぁ待てガレフ。俺の魔法なら全員浮かせられる」
「パッサム!? 分かった。頼む」
上に登るにしても急斜面を登る場合、落下して来た魔物からは無防備になる。
可能であれば、この細い道を通って向こう側に向かっておきたい。
とはいえ滑落してしまえば元も子もない。
ただ、俺達には魔法を使える兵士がいた。
しかもパッサム達数人はお嬢がチート呼びするほどに強力な魔法使いになっている。
そんな彼らからすれば、全員纏めて浮かせるくらいは訳がないことだった。
危険を冒して崖を渡らずとも。危険を冒して切り立った山を登らずとも、空を飛んで行けるのならばそれに越したことはない。
危険地帯はすぐに全員で潜り抜け、崖の向こう側へ。
魔物の群れが待っていたのだが、全員で来た御蔭で苦戦することなく撃退出来た。
―― さすがお嬢の知り合いだ。やることが無茶苦茶だな。お嬢の想定を越えたのではないか? ――
どうだろうか? これも魔法を使わずとも越えられるようにはしてくれている。つまり、俺達が気付くかどうかで難易度は上がるが、それでも攻略できなくはない状態になっているようには見える。
そして俺達は、ようやく目的地である頂上へとやってきた。
ここは安全地帯になっているようで、魔物も寄ってこないようだ。
でも、守護者は普通に入ってきているんだが、あいつはいいのかガレフ?