321話・クラステン、レイドを終えて控室
「っかぁー、負けたっ」
「ただのお嬢の付き人じゃなかったんだなキーリ嬢。滅茶苦茶魔族っ娘じゃねーか」
「最初期に後衛殲滅されたのが痛かったな」
「つってもあの触手、何処に出るかわからないんだろ、後衛殲滅は時間の問題だったと思うぜ。後衛もしっかり動けるようにならねぇと、今回みたいに後ろから順に狙われた時に対処できるかどうかでだいぶ変わってきちまうぞ?」
レイドボスとしてキーリ嬢と闘った。
結果を言えば我が軍は壊滅的被害を受けて敗北。
これが本気の殺し合いだったら国が滅ぶ程の大打撃で幕を閉じた。
キーリ嬢が我が国と敵対する存在じゃ無くてよかった、ほんとよかった。
正直お嬢とはまた違ったベクトルでの強敵出現に俺達は敗戦後も今回の闘いに付いて様々な議論を話し合っていた。
ただ、訓練所でそんな事をやってると時間が来てしまったのでキーリ嬢からはよ帰り。と怒られてしまったのである。
仕方なく、俺達は兵舎に戻り、今、各個人のロッカーがある控室に全員が入って休憩がてら話し合いが行われていた。
「後衛から言わせて貰えば、だ。真下からの触手攻撃どうやって避けろっつーんだよ!?」
「勘でなんとかするにも限度があるしなぁ」
「あん? お前ら索敵スキル覚えてねーの? プロビデンスビュー覚える過程で取れたんじゃねーのか?」
「お前と一緒にすんなガレフ」
「お嬢も驚くチート野郎」
「うをい!? 俺に対して酷くね? なぁ、酷くね?」
「つかなんだよプロビデンスビューって?」
「え? 全体を見るように心がけときゃ勝手に取れたぞ? 多分お嬢も持ってるスキルだな。俯瞰がしやすくなるのと視野が広がるんだ。各個人が何やってるかも分かるから指示出しすんのに重宝するぞ? あと、その過程で敵性存在の動きも見るから索敵スキルが上がる上がる」
「おかしいな? 同じ事してんのに、ぷろびでなんとか以前に索敵すら取れねーんだが?」
皆が頷く。そこでようやくガレフも自分が異常だと気付いたようだ。
「え? 嘘だろ? 俺だけ?」
「自覚しろ人外」
「いつの間に人間辞めたんだガレフ? お嬢の仲間入りだな」
「うぐ、喜んでいいのか止めろと言うべきなのか……」
「褒め言葉だ。受け取りな」
「にしても、キーリ嬢の全体触手攻撃はやべぇよな。アレ、なんとかできるか?」
「お嬢はなんとかしたんだろ? だからキーリ嬢はお嬢を主はん呼びしてるんだろうし。つまり、人間に攻略可能ってことだ。しかも単独撃破可能……」
「そこまで人間辞めるのって、どこまで強く成れんだろうな、人間」
俺達は遠い目で虚空を見上げる。
お嬢の背中、遠いなぁ……
「おい、クラステン、見ろよ、この筋肉! オリバー!」
あ、それお嬢が言ってた筋肉見せる時の名前。ったく、話終わってないのにふざけ出しやがったなロンベルトの奴。
仕方ねぇ、乗ってやる。
「そらサイドチェスト」
ぬんっとポージングしてやると、何故か魔法を使うロンベルト、身体を浮き上がらせオリバーポーズのまま近づいてくる。怖っ。
「マッスルボディ、モストマスキュラー」
むきぃっと魔力を乗せて筋力強化。二倍くらいに膨れた体でモストマスキュラーのポーズ。
「ぬぅ、やるな! ならばダブルバイセプス」
ぬぅん、むん、と自分のボディを見せ合っているとさすがに男同士のそんなモノ見たくもなかったらしいパッサムたちがやめろーと言い始める。
「ムサ苦しいわっ。ったく、魔法を変な事に使ってんじゃねーよ」
「いや、ある意味これ、ありじゃねーか?」
「ガレフ?」
「全員で筋力増加して筋肉見せながら笑顔でフロートしながら近づいてくんだよ。お嬢もキーリ嬢も女の子だからな、ガチムチ野郎共が地面滑るように近づいてきたら悲鳴あげて逃げるんじゃねーかな?」
「間違ってもやんなよ。勝ち目以前に汚物を見る目されかねん」
「俺はきゃーいやーとかいいながら極大魔法ぶっぱされて壊滅すると思う」
「それはありそうだな。お嬢にそんなことやったら俺らの方が大打撃受けそうだ」
「もしくは冷めた目で、『で?』とか言われるかもしれん」
精神的ダメージが酷い事になりそうだな。
「たぶん、これからもキーリ嬢とのレイド戦はあると思うんだ。各自攻略法考えとこうぜ」
「とりあえず俺らは魔法を封印する方法探すわ。キーリ嬢の詠唱魔法だけでも封印すれば結構楽になりそうだし、触手封じる手段があれば一番いいだろうが……」
「んじゃー、俺は索敵上げて触手回避方法考えるぜ」
「フェイル、せっかくだからお嬢に攻略法聞いてみてくれ」
「さすがに言わんだろ。まぁ聞くだけ聞いても良いが」
フェイル隊長はホント頼まれたら嫌と言わないな。そろそろ一回くらいは否と答えていいと思うんだけどなぁ。