30話・ロゼッタ、魔法の家庭教師がやってきた
安定した毎日を送っていたある日、ついに魔法の教師がやってきた。
今回魔法使いの師匠を募るに当って、お父様にはいくつかお願いをしておいた。
複数魔法を教えられること。秘密をしっかりと守れること。自分より弟子が優秀になっても気力が折れない人。などである。
かなり酷い条件だとは思うが、これは譲れない師匠の条件だ。
現代知識を持つ私はほぼ確実に師匠さんの魔法を越えてしまう。というか既に魔力の時点で越えていると思われる。あれから結構魔力の残量上がったんだよ。ちょっとやり過ぎたようで、気だるさを覚えたので数日使いきるのを止めて安静にしたら問題無く動けるようになったし、寝てただけなのに魔力の上限が上がったりしたんだよ。
ついでにね、私の魔法、体内魔力だけじゃなく外から魔力を吸収する手法を取ってるから威力が高まるんだ。
だからセーブしないと物凄い危ない。
そして秘密を守れること、これは絶対だ。
何しろ未知の魔法を編み出しかねないのだから、そんな秘密がダダ漏れしたら私の未来がヤバすぎる。
何より元来よりやり過ぎだって言われてる私だ。いくら気を付けていてもやらかす恐れが無きにしも非ず。なのである。私としてはそこまでやり過ぎてるつもりはないんだけどなぁ。おかしいな?
最後に複数魔法が教えられること。
別に師匠が複数魔法使えるかどうかは問題じゃない。
使えなくても教えてくれる実力があればいいのである。
あと、ついでに自分の型に無理矢理嵌めこもうとしない師匠が良い。
この魔法はこう考えないと発動は出来ない。他の方法は邪道だから止めろ。とか言って来る師匠は願い下げである。
だってその魔法自体が陳腐なんだから仕方ないよね? ファイヤーボールだって自分で編み出したほうが威力が高いんだよ。
何しろ周囲から魔力奪って無理矢理魔法に込めてるからね。あり余る程の魔力を含んだ魔法は弱っちい魔法でも高威力になるんだよ。……怖いな。
で、そんな無理難題とでもいうようなお師匠様を募集した結果、一人だけお父様のお眼鏡に適ったのである。
そのお師匠様が本日来るのであるっ。
お昼からってお願いしてたので昼食食べて一息吐いている時だ、ようやく待ちに待ったお師匠様がやってきた。
「お嬢様、魔術の先生をお連れしました」
「お連れして頂戴リオネッタ」
エルフ用の魔術書を部屋で読んでいた私は本を閉じてテーブルに置く。
白い丸テーブルはティータイム用の机なのだけど、どうせ話し合いが最初にあるだろうってことで部屋に置いたのである。
普段のソファとかは部屋の隅に執事達が持って行ってくれたので広々とテーブルが部屋の中央に鎮座している。
相手が部屋に入って来たのを確認して立ち上がる。
席から横にずれ、入ってきた相手を見ながらスカートをあげてごきげんよう。
相手は突然の挨拶に面食らったように驚き硬直したものの、直ぐにこれは失礼。とその場で紳士的なお辞儀をしてくれた。
男性だ。
しかも20代前半くらいの大学のお兄さん。
優しそうな顔にメガネを掛けて、藍色のさわやかな髪をなびかせお辞儀を終える。ちょっとぼさぼさだ。頭のセットするような人ではないらしい。そうだなぁ、しいていうなら……英雄召喚なゲームに出て来る緑のお兄さんタイプか。
ひょうひょうとしているけど面倒見が良くて、ものぐさだけど知り合いのピンチには颯爽と駆け付け敵には容赦ないトラップマスターな感じ?
そして、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いやぁ、すいません、驚きました。まさかお嬢様からお辞儀をなさっていただけるとは、お父上からは難しい年頃だから生意気なことを言われるかもしれないと覚悟していたもので」
「まぁ、お父様ったら酷いわ。私だって先生となる相手に最初から生意気なことはいいません」
「あ、最初以外は言うんだな……」
たらり、汗を流すお師匠さん。
なんかお調子者感がひしひし伝わってくるわね。一瞬だけ地が出た気がするし。
クスリと笑うとお師匠さんもははっと苦笑してくれた。
「条件が条件なだけに教師役になった僕のことを舐め切った生意気令嬢様かと思っていましたよ。まさか眼はともかくこんな可愛らしくおしとやかなお嬢様とは」
ちょっと毒入ってません? というかリオネッタ、なんで今、おしとやかって所で噴き出した?
「まぁ、いろいろと誤解を受けさせてしまったようで申し訳ありませんわ。ああ、どうぞ先生? お座りくださいな」
「おお、これはすみません。ではお言葉に甘えさせていただきますよっと」
椅子に座った先生は物珍しそうに部屋を見回す。
「へぇ、侯爵令嬢様の部屋ってのはこぅなってるんですか」
「ダメですわよ先生。年頃の女の子部屋を見回しては」
「おっと、これは失敬。貴族様の部屋に上がるのは初めてなもので」
「あら、貴族が初めて、と言うことは、平民出なのですわね」
「ええ。ウチは貧乏なもんで、家計を助けるためにもこりゃ高給だって飛び付かせていただきました。やっぱり教わる相手は貴族でなくてはいけませんでしたか?」
悪びれず答える先生。これは、探られてるなぁ。
私がどんなクソ貴族か、あの条件を出した理由は何か、いろいろ探りに来ている。
とはいえ、相手が何らかのスパイというわけでもないだろうし、ただ本当に平民出だからこそ、貴族のお嬢様のお遊びに付き合うだけで儲かると来たのかもしれない。
とはいえ、お父様があの条件でこいつなら大丈夫、と思ったのだろうし。ここで答えを間違えたりしなければしっかり教えてくれるのだろう。