2話・ロゼッタ、現状を把握する2
ロゼッタの記憶を見るに本当に我儘だらけだったんだなぁと思ってしまう。おっと私がロゼッタだった。なに他人事にしてるんだ私。
お父様もお母様も初娘ってことで激甘みたいだし。って、普通に様付けで呼んでるし。この辺りはロゼッタの思考が私の思考と混ざってるなぁ。
でも今までの事が我儘過ぎるってことは私の知識が戻ったことでなりを潜めてるし。問題は無くなりそうかな。
このままだとあのゲームの悪役令嬢たちみたいに悪い事を悪いと思わない子になってそ……あれ?
ふと、思いだした。
悪役令嬢というキーワードで思いだしたのは一つのゲームだ。
確か、皆が話題にしていた乙女ゲーム。題名は……ライオネル王国の姫巫女。
ライオネル王国の第一王子とか宰相の息子さんとかと恋愛対象になって、迫り来る敵国の兵を愛する人と蹴散らして王国を幸せに導くゲームだったはずだ。
兵士がさぁ、めっちゃくちゃ弱かったの覚えてるよ。
北の国境警備が全滅して、国防兵士は攻めて来た敵軍に軽々蹴散らされて、なぜか姫巫女となったヒロインと王子が力を合わせて二人で無双するのだ。
正直、兵士達が束になっても敵わないのに二人だけで勝てるとか現実問題無理だから。死山血河の川が出来るんだよ? 王国滅亡バッドエンドなんだよ? それともヒロインちゃんと王子は無双シリーズの武将なのかな? 千人斬とか楽勝なのかな? ヒロインムキムキブートキャンパーだね。
で、なんでそんなゲームを思いだしたかっていうと、だ。
確か、その悪役令嬢として第一王子を選ぶ時に妨害して来るのが、悪役令嬢ロゼッタ。そう。あれもロゼッタ・ベルングシュタットだったはずだ。偶然同じ名前だっただけ? それとも……この顔、妙に見覚えある気がすると思ったのよね。もしも、アレの世界だったとしたら……
「あ。あの、ロゼッタお嬢様?」
あ、しまった。今はメイドが目の前に居るんだ。長考してる場合じゃない。
「見た……わね?」
「い、いえ、いえいえいえっ! 私は何も見ておりません」
「まぁいいわ。それより今どうなってるの?」
「へ? ど、どう、とは?」
えーっとどう言えばいいんだっけ? というか私は何を聞きたいんだっけ?
あー、うー、そ、そうだわ。
「あれよ、あれ、そう、お父様とお母様は私の事を知ってるの?」
「あ。はい、旦那様と奥様は一安心なさっております。屋敷に運び込まれた時はそれはもう大慌てでしたよ。すぐに治癒術師を呼べって旦那様が血相変えて。奥様は慌てふためいて凄く面白……なんでもありません」
このメイド私の両親が慌ててるの見て面白いとか思ってやがったのか。バレたらクビだぞ?
さすがに可哀想だから言わないけど。
そこで改めてメイドを見る。赤毛のもじゃもじゃ頭はショートスタイルのようだ。
ちょっと蓮っ葉な感じというか、どこか雌猫とか女豹をイメージしてしまうマイペース人間のようだ。
スラムのガキ大将とか似合いそうである。さすがに年代的に無理があるか。それでも十代後半か二十代前半といったところ。
鼻頭のぶつぶつはソバカスでいいのだろうか? 無駄に彼女には似合ってるのが何とも言えない。これはこれで可愛いと思えるぶつぶつである。
もしかしてワザとそんな容姿にしてるのかと思うほどに似合いすぎだ。
そういえば悪役令嬢ロゼッタの右腕のメイドがこんな感じの娘だった気がする。
かなりあくどい事を平気でやっていて、悪役令嬢の命令には絶対服従してたはず。
まぁ、最後には悪役令嬢裏切って断罪してたけどな。リオネッタお前もかっ。って悪役令嬢が叫んで……もしかしてこいつの名前も?
「そういえば貴女、リオネッタでよかったかしら?」
「え? あ、はい。そうですけど? まさか覚えていてくださったんスか?」
「……私付きなのだから名前くらいは、ね」
「そ、そうだったンすか!? メイドとしか呼ばれていなかったので名前覚えてないかとおもってたッス」
おい待て。口調がおかしくなったぞ? メイドとしての口調はどうした? 下っ端根性丸出しだよ!?
「……あ。し、失礼しました。今のは忘れてください」
はしゃぎ過ぎて丁寧語を忘れてしまったようだ。取り繕う彼女にふふっと笑みを漏らしていると、リオネッタが少しすまなそうな顔をする。
「それと、リオネル様は旦那様に一喝されてお嬢様を気にしながら帰ってしまいました。あれ、大丈夫ですかね? リオネル様第三王子といえども一応王族なのに」
王……族!? え? お父様一喝して帰したの!? ヤバくね? おっとあまりにも想定外過ぎて若い子と話すために覚えた口調がちょっと漏れた。変に覚えたせいで若者言葉と丁寧語がごっちゃになってるんだよね。
OL時代も驚いた時とかついマジで? とかヤバげ? とかマジ卍とか出ちゃうのよね。
さすがに気を付けてるけど咄嗟だとつい出ちゃう。気を付けよう。
この世界で言っても何語? どんな意味? とか首傾げられるだけになるしね。