296話・ロゼッタ、午後の訓練開始なんだよ
「では、午後の訓練を始める」
午後の訓練開始。
私が来た時には全員中央に集合して各隊に分かれていたからビビった。
アンタたちちゃんと休んだ?
私五分前に着くように歩いて来たんだよ?
そしたら既に全員整列済みって、休憩せずにずっと立って待ってたとかじゃないよね?
昨日まで腑抜けまくってたはずなのになんでそんなにやる気なの!?
「点呼!」
とりあえず引いてる顔はおくびにも出さず、凛とした声を心掛けて告げる。
すると要領を朝のうちだけで学んだらしい彼らは口々に番号を告げて点呼を終えてしまう。
うっわ、規則正し!? なんでそんなに呼吸合ってるの!?
アンタ達ってどうしようもない腐ったミカン君たちじゃなかったの!?
私の言葉による発破だけで変わり過ぎじゃないかな!?
「フェイル隊21名。確認完了!」
「ヘロテス隊21名、確認完了!」
「シュヴァイデン隊21名、確認完了!」
「アマルガム隊21名、確認完了!」
「以上、84名、漏れ無し、点呼完了!」
前回、21人と言ってたのに、私が84名と言ったのを覚えていたらしい。もう変えて来ちゃったよ。
「ではこれより武器種別訓練、チーム演習、中規模戦闘、大規模行動の四つを行う。まずは武器種別訓練。これは得意武器に分かれて訓練する、等ということではない。これより一日ごとに武装を変えて貰う。まずはお前達全員の武器特性を確認したい。その上で、全員が一定以上の各種武器に精通して貰う」
「し、失礼を承知で申します」
「なんだアマルガム?」
「我々は既に各人で武器が決まっております。これを今更変えるべきなのですか?」
「ほぅ、自分たちの得意武器すら分かっていないのに、良くも言えたものだ。それに戦場で剣ばかり使い続けられると本気で思っているのか? 不意の出来事で剣は折れる。ならばその場で現地調達するしかあるまい? そこに剣があればいいが、あるのは槍だったら? あるいは斧だったら?
使ったことの無い武器を扱い生存等できるのか?」
「し、失礼しました。愚問でした」
つまり、まぁそういうことである。
この時間はいろんな武器の扱い方を学ぶ時間だ。
本日は木刀を用意したので全員に配るんだよ。
キーリお願い。
「ウチ、お手伝いちゃうんやけど……」
似たようなもんじゃない。ほら、ぼやく間に配る配る。
「これは?」
「鋳潰した剣よりは当たった時のダメージが少ないでしょう? 重量自体は同じに作って貰っているわ。本日の訓練はこれを使います」
まずは素振りから。
今更だよなぁ、と困った顔の兵士達。
基本はつまらないのが当然なのです。
でもそれが訓練だから仕方ないんだよ。
さぁ、振れ振れ、力の限り素振り1000回、っはさすがに無謀なので100回。
素振りを1000回とか10000回とかやってる人いるけど、むしろそこまでやると筋肉が付くより先に腱鞘炎になっちゃうんだよ。
余程手慣れた人ならともかく素人がやらかしたら腕が一生使えなくなるかもだから運動量はきちんと考えて訓練しないと駄目なんだよ。
「剣技には型がある。ちなみに今までライオネル王国の兵士が使っている型はあるか?」
「あ、はい。確かブレンゼル流軍隊術です」
ブレンゼル流? ブレンゼルさんが開祖なのかな?
折角だから模擬戦で動きを見せて貰う。
対戦するのはヘロテスとシュヴァイデン。
うーむ。悪くはないんだけど、個人的には嫌かなぁ。特に盾の使い方があまりにも稚拙なんだよ。なんでこんな戦闘方法採用したんだ。
これなら剣だけで戦った方が、むしろブレンゼルさんは剣のみで闘ってた人なのでは? 急に軍隊に剣術教えろって言われて仕方なく慣れない盾持って考えたんだろう。
ブレンゼルさんの苦労が伺える。
「いかがです?」
「盾の使い方を知らないのね。正直剣だけで戦った方が動きがよくなると思うわ。今の剣術は盾を意識していない、ただ防御に使ってるだけね。ヘロテス、シールドバッシュくらいは使いなさい」
「シールドバッシュなんてスキル覚えてません」
は? スキル?
え? どういうこと……?
「あー、主様、こいつ等多分、シールドバッシュはスキルとして覚えるモノだと思うとるみたいやぁ。訂正したげなあかんよ多分」
なんて面倒な。
スキル発動じゃなく手動のシールドバッシュなんだよ。
ヘロテス相手に使ってみると、全く対応できずに盾も剣も真上に吹き飛ばされて無防備になった。
「嘘だろ!?」
「盾を構えて相手に突進、か。確かにあの重量物が襲ってきたら脅威だな」
だめだこいつら。
型にハマったらその先を考えようともしてないよ。
とりあえずこの型で動けばいいだろ、としか考えてないんだよ!?
もうちょっと応用力を身につけてほしいなぁ……