28話・リオネッタ、お嬢様がおかしい
「お嬢様が変です」
部屋で待機中だったリオネル様の元へお嬢様が戻ったことを伝えに来た私、リオネッタは開口一番無遠慮に告げていた。
正直な話、お嬢様の異変に付いて相談できる存在がいなさすぎたのです。
旦那様も奥様もお嬢様のことになると激甘な部分がありますし、セバスタンもお嬢様最優先な気質である以上、彼らにお嬢様がおかしい、と告げても私自身の身が危なくなるだけでしょう。
唯一お嬢様の異変に気付いてくれそうなのがこのリオネル様です。
名前も似ているし、何かしらの因果関係はあるのかもしれねっす。
「いきなりだな。メイドの戯言にしてはあまり褒められたことではないようだが?」
少しイラついたように告げるリオネル様。
下手したら王族の怒りを買ってしまうかもしれないっすけど、リオネル様とはそれなりに顔見知りなのです。相手がどのくらいなら怒らないかはなんとなく分かるっす。なので遠慮なく告げます。というか、ここで遠慮してしまうとお嬢様がどうおかしいのか告げられず、私がお嬢様の悪口を言っているように感じ取りかねないっすし。
「失礼しました。別にお嬢様が嫌いだとかそういうことではないのです。今までと比べ、頭を打った後からお嬢様の様子がおかしいのです」
「……それは、あの時のことを言っているのか?」
お嬢様と話し合う時とは違い横柄な態度。それは威厳を伴うがゆえに大貴族のメイドでしかない私相手に王族として対応しなければならないためだ。決してこっちを羽虫のように煩わしく思っているからではない筈っすよ。
「はい。あの後からお嬢様は運動を始めました。理由は体型維持とか、またコケないため、と言っておりますが、その運動量がいささか異常です」
「異常?」
「早朝、体操を行い家の周りを数周。準備運動というものを行い剣術体術など相手を想定した鍛錬を行っております。他にも良く分からない行動を……」
「う、うむ……でも、本当に運動するだけかもしれんだろう?」
「先日魔法に興味をもちまして魔法を本を読むだけで使い始めました。さすがに危ないと思ったようで師事する方が出来てから正式に習い始めると言っていましたが、今まで欠片も興味がないばかりか、むしろ嫌がって師事に来た家庭教師を追い返していたほどだったのに、ですよ」
「そ、それは……」
「本日の朝は平民街を回ってきました、各種ギルドに教会など、普通ならまず行く筈の無い場所です」
「た、ただ行ってみたかっただけ、では……?」
「今まで家から出ようとすらしなかったお嬢様が、ですか?」
確かに、変だ。
リオネル様もそう思っているのだろう、困った顔をして、だったら、どうだというのだ。と尋ねて来る。
私としてもそれを言われると困る。
お嬢様がお嬢様であることは確かなのだ。思考回路が少し変わっただけかもしれないし。
ただ、お嬢様に何か変化が起こったのであれば知っておきたい。そう思ったのです。否、知らなければならないと、不思議な焦燥感を覚えたっす。
だから、リオネル様にお願いするのだ。
「これを……」
「なんだそれは?」
私は羊皮紙に書いた文字を見せる。
「お嬢様が平民街を回っていた時に書いていた暗号を一字一句余すことなく写し取ったものです」
「暗号?」
「私が尋ねると自分しか分からない暗号、と。似たような文字が多いですし、本当に暗号かもしれませんが何を書かれていたのか気になって」
「おいおい、流石にメイドとして主への越権行為じゃないか?」
呆れるリオネル様。このままでは突き返され、最悪私の行動がお嬢様にバレるかもしれない。さすがにお嬢様が少しメイド達に優しくなったといっても、そんな裏切り行為を許すとは思えないっす。
「あの日から……お嬢様は日記帳を書きはじめました」
「……うん?」
「日記帳はすらすらと、この暗号文が綴られています。頭を打った直後から作ったにしてはすらすらとし過ぎている暗号文。むしろ未知の文字なのではと、そしてその内容はなぜだか知らなければならないのではないかと焦ってしまうのです。何か、人が変わったようなお嬢様と関係があるのではないかと」
「……これを、調べればいいんだな」
少し考えたリオネル様は、しかし、羊皮紙を受け取って下さった。
「はい、お手数をおかけいたします。お嬢様には知られたくはありません。貴方様ならお嬢様に知られずこの暗号を解ける手段があるのではと愚考いたしました」
「……そうか、一応預かる。だが、期待はするな」
「はい、ありがとうございます」
お礼を告げ、お暇する。
我ながら、今更ながらに全身が震える気分だった。
なんて大それたことをしたのだろうか。お嬢様を裏切る行為に王族を加担させる行為、何より王族にただのメイドが差しでがましいにも程がある。
それでも、この内側より湧き上がる焦燥感が告げるのです。お嬢様の日記を解読しなければ、大変なことが書かれているのではないか、と。私はなぜか、お嬢様の秘密を暴かねばならないという使命感が湧きおこってくるのです。




