251話・???、このお嬢呼んだの誰よ?
正直、生きた心地がしなかった。
俺はそもそも新しくやってきたお嬢ちゃんがきっと俺が初めてここに来た時みたいに戸惑い不安で押しつぶされそうになりながらも必死に先達に喰らい付こうとしてたような心持ちだろう、と勝手に納得していた。
蓋を開けてみれば、大商会の下衆商人ジジイと対等に会話しながら互いに黒い笑み浮かべて全く譲る気配の無い、まさに大商人といった様子のお嬢ちゃん。
ふてぶてしい態度には新人さん特有の戸惑いが微塵もない。
この秘密結社クラブを模したらしい光景を見ても既に慣れたように普通に会話してるし、正直空気が張り詰めだしたからそろそろ煽りは止めてほしい。
なんで大商会に喧嘩売ろうとしてるんだこのお嬢ちゃん。さすがにフォローできねぇぞ?
おい、総統、ここはもうアンタが仕切るんじゃ……おい、なんで虚空見つめてぽけーっとしてやがる!?
初めから割り入ることを諦めてやがる!?
つまり、そういうことだ。この嬢ちゃんはギルド長が匙を投げ続けたくなるような性格だから良い勝負繰り広げてるんだ。あの大店相手によくやるよ。
「折角水鎮祭の話しに来たのに話が進みませんわねぇ……何故なのかしら」
「そりゃあ、お前さんが俺に食ってかかってるからだろう? そもそも、だ、そのなんとか商店? 俺の商会の傘下にもなってねぇ店のことなんざ知らねぇなぁ」
これである。
どうやら嬢ちゃん気付いちまったらしい。
ジジイも完全否定でのらりくらりと煙に巻こうとするものだから、会議が停滞してしまっていた。
正直放置するのが正解なのだろうが、このまま会議が動かないと後の事業に差し閊える。
「嬢ちゃん。そろそろいいだろ。これ以上話したところでその狸親父が認める訳ねーからさ」
「そりゃあそうですが……いいわ。それじゃあせめて一矢。二頭のお犬さんによろしく言っておいてくださいまし」
ニタァっと黒い笑みを浮かべて告げたお嬢ちゃん。
いや犬って。それは一矢報いたことになんのか?
いや、待て。ジジイが反論せずに押し黙った? なんでだ? ただの犬によろしくって一言だぞ? もしかして、何かの暗喩か?
「では、議題始めるぞい。最初の議題は二人が関係すると言っておる、とある元商店の空き店舗について。プライダル商会から訓練所にしてはどうかという打診が来ておる」
「訓練所?」
「うむ。器材を使った健康維持トレーニング施設だそうだ。冒険者達が使う訓練所などではなく、市民が健康維持のために通う場所、らしいぞ」
「折角ですし、お爺様。共同出資という形でいかがかしら? 店の場所が欲しいというのでは奪い合いになりますが、同じ場所を共同で使う、となればその限りではないかと思いますわ」
「……そうだな。一枚咬ませてくれるというなら否応はない」
あ。あれぇ? さっきまで互いに牽制し合ってたのに、ここで共同出資による経営だと!?
ど、どうなってる? え? あの狸親父が反論も何もせずに同意?
嬢ちゃん、一体何しやがった?
「それで、一枚咬んでいただく代わりなのですが、水鉄砲を各店舗で期間限定で売っていただきたいのですわ」
「水鉄砲?」
「はい。水鎮祭でイベントを行うに当たって道具を売りたいのですが、ウチだけでは手が足りそうにありませんの。ギルドの呼びかけで鍛冶屋が全面協力してくださっているので在庫はあまりあるのですが、値段は技術料を込めて300サクレ」
「随分と安いな?」
「薄利多売を目的としております。今年の分が余っても来年使えばよいので、それで、水鎮祭までにそれなりの方に売って、イベントに参加して貰おうという訳です。一度売ってしまえば長く使えるものですし、毎年使い、壊れたらすぐ買える。程度の気安く買えるモノを目的としております」
「イベントのための布石か。イベントなぁ、何をするつもりなんだ?」
「街を舞台にした水鉄砲による射撃戦。参加者には三つの水溶性の的を身に付けてもらい、これが全て撃ち落とされたら失格。最後まで残った優勝者には賞品をだして、ようするに五月の格闘大会の予選であったバトルロイヤル形式を民間での遊びにしたものですわ。どうせ水浸しにされるのならそのことを大会にしよう、というわけです」
「なるほどなぁ、祭りの一つとして定着させれば売上的にはかなりの数になりそうだ」
「ちょっとカッコイイ水鉄砲や性能の良いモノはかなり割高にしておけば優越感も生まれるし利益も産まれますわ」
「なるほどな、金持ちには金を出して貰って見栄を売るという訳か。いいぞ、俺の店は全面協力してやる」
大店の許可がでた。
するとすぐに中型店舗の店長たちが同意していく。
俺も当然ながら長いモノに巻かれるタイプなので同意する。
まぁ、発想自体は面白そうだし、話のネタに参加しておくか。
にしても、ほんと凄いお嬢ちゃんだな。
頭角を現すのは確実。潰そうにも潰せない店。
ああ、こりゃここの常連になるのも近そうだ。
狸親父にもついに天敵が出来ちまったって事でいいのか?
いや、むしろ狸親父が二人に増えて俺らがやりづらくなったのか?
クソ、誰だよあんなお嬢ちゃん連れてきた奴は? あ、ギルド長か!