238話・ロゼッタ、五月なんだよ
S級冒険者としての仕事はあの一件依頼ぱったりと止まった。
なんでもあの後から魔物が殆ど見かけなくなったらしく、普通に狩りで生計立ててた冒険者達の依頼未達が増えたらしい。
その理由が魔物を全く見かけない、というのだから、特に北と東……
うん、私しーらないっ。あの冒険者、B級だと思ったけどもっと下だったのかな? 中級の魔物も軒並みいないらしいんだよ。
まぁそんな感じでしばらく冒険者稼業は休止という事になった。
そして商業に関してなんだけど、これは連日大盛況。
皆よくそんなにお金あるね、ってくらい大売れで、商業ギルドから商品卸す量が増えたくらいである。
ある程度は私が適当な時間で作ったりルインクさん達に手伝って貰った食料品などで嵩増しはしてるけど、すればするほど売れるから最近は量を押さえて値段も上げちゃっている。
人気商品ってことで値段上げてるんだけどそれでも売れまくりである。
正直これ以上は補充が間に合わないので過労死しない程度で皆気楽に作って貰うことにしてる。
キリがないんだよ。
そんな忙しい日々を過ごしていると、直ぐに四月が過ぎ去り五月になった。
今月は格闘大会があるらしい。
今年は折角だし、皆揃って大会見に行こうってことになったのだ。
なんかそういうことになったとお父様に話したら、じゃあ皆で行こうか? となったのでなんかさらに大人数で見学しに行くことになった。
リオネル様まで一緒なんだけど、大丈夫?
キーリもさすがに皆を守らせるだけで手いっぱいだよ?
あ、そうだ。あの象の魔物さんなら人型だし守護者だからそれなりに強いよね。ついでに鹿も誘ってしまおうか?
キーリに頼んで当日来てくれるように頼んでおいた。夜中に外出て話に向かってくれるようだ。
あと、お世話になってるしボーエン先生も誘っとこうかね。
この日に関してはお父様任せになるのでどの辺りで観戦するかなんてのは分からない、でも大人数だし、結構後ろの方だろうなぁ。
ふふ、格闘大会自体は野蛮そうなのであんまり好きじゃないんだけど、皆でワイワイするのは憧れというか、楽しみである。
めっちゃくちゃ楽しみである。
そう、皆でなんて一体いつ以来だろう?
昔はカラオケとか新年会とか顔出してたんだけど、お局様時代になってからはむしろ遠慮しないと空気が凍ったりしちゃうからね。あの人また来たよ、とか言われちゃうんだよ。
そして壁の花。誰も気を使って話しかけないから酒と肴への箸が進む進む。
ふふ、寛子さん、幾ら寂しかったからって私の記憶じゃない記憶を持って来ないでくださいな。これは前世の記憶であって私の記憶じゃないんだよ。凄くへこむから思い出したくもないんだよ。
皆ワイワイがやがや、スマホ突き合わせて連絡先交換とかライン交換とか毎年新人が楽しそうに行う中、私はただただ一人外れて食事に集中……うぅ、なんかもう今日は何もしたくないんだよ。
「お嬢、お客だぞー」
「うえーっ」
折角書斎でゆったりしようと思ったのに、誰だよこんな時にやって来る奴は?
「あっしっすわ」
「ぶふぉっ!? 人面犬!?」
普通、尋ねてきたら人だと思うでしょ!?
なんでおっちゃんの顔した犬が出てくんの!?
「ちょいとお願いしたいことあんねん。嬢ちゃん頼まれてくれへんか?」
「はぁ、で、なんなの?」
「なんかなぁ、あっしを見た女の子がキモいっていうねんや、言葉の意味が気になって気になって」
うん、どうでもいいことだったんだよ。
にしても、この世界でもキモいって言うんだ……待てよ?
「その女の子、どんな容姿?」
「あーっと、確かピンクの髪でぇ……」
うわぁ、なんかそのヒントだけで理解したんだよ。それ、多分ヒロインちゃんだ。
うっわ、予想はしてたけどヒロインちゃんも転生組かな?
そうなると、私以上にやり込んでる可能性高いよね。
ゲームが始まったら気を付けとかないと、まぁリオネル様は攻略対象外だから大丈夫かな?
「最近よく見かけんだよなぁ。会うたびにキモいキモい言ってくるから可愛いの方言かと思ったんやけど、その顔がなぁ、汚物見るような目やねん」
「うん、普通に蔑みの言葉なんだよ」
「やっぱりか。くそう、モテ期かと思ったのにっ!」
幻想抱いて溺死すればいいんだよ。
その顔でモテるとか夢見てるんじゃないよ。
君の場合は相手が否定しても否定しても喰い下がるストーカー戦法で野生的に襲うくらいでしょ。
人間だとアウトだけど野生生物なら問題ないんじゃない?
「うぬれぇ、こうなったらめちゃくちゃに舐めまくってくれる!」
ただ犬がじゃれつくだけなら良いんだけど、おっちゃん顔だからなぁ。
ヒロインちゃんの反撃で殺されない事を祈っておくよ。
ナムナム。あ、とりあえず埋めるのは街が見える丘とかでいいのかな?
「嬢ちゃん、なんかあっしが死んだみたいな顔しとる気がするんやけど?」
とりあえずさっさとお帰りいただいて早めにゆっくりしよっと。




