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217話・キリハ、無力な私じゃないから

 袋の中は暗くて狭くて、怖かった。

 恐怖で怯えて、このまま殺されちゃうんだろうか? 人買いに売られるんだろうか?

 不安で一杯で、どうしようもなくて、ただただ震えていた。


 袋から出されて、男の人が沢山いて。

 怖くて怖くて、ただただ……ひし、と、自分を掴み震える少女に気付く。

 自分と同じく拉致されて、袋に入れられここまで運ばれた少女がそこにいた。


 彼女を認識した瞬間、恐怖に飲まれていた思考は急激に回り始めた。

 守らないと。自分が、守らないとって、何故かしっかりと思えてしまった。

 すると、ロゼッタさんに魔法を習った時のことがフラッシュバックする。


『いい、皆。これから皆には魔法を覚えて貰います。理由は簡単、これから私の店で従業員になる以上誰かに拉致されたりする可能性がでてきます。そうなった場合私が助けに向うまで、無防備に震えて居れば、殺されることもあるでしょう、犯されることもあるでしょう。なので、そうならないための魔法を覚えて貰います。具体的に言うと、物理無効化結界ね』


 ボーエン先生という男の人が寮にやって来て、魔法を皆に教え始めて。私も必死になって覚えた。

 御蔭で、集中さえすれば、物理無効化結界を展開することは可能になった。

 でも、数分が限界だ。それが過ぎれば魔力が底を尽きて何も出来なくなる。


『参ったわね。こんな時間じゃ皆を救出しに向かうまで時間がかかり過ぎになるわね……仕方ない。私がやってる魔力供給方法を教えるか。自分じゃなくて周囲から魔力を貰ってその魔力で結界を維持する方法なんだけど……』


 正直、ロゼッタさんはおかしいと思う。

 私の知らないことを沢山知っている。

 多分私より短い時間しか生きていないのに。


 だからこそ、尊敬した。

 必死に覚えようと魔法を使い続けた。

 落ち付いて、集中して、結界を張る。

 震える少女を抱き寄せて。自分と彼女だけを包み込む小さな結界を。


「よーし、よくやった。これでノルマ達成だ」


「頭ぁ、これで俺らぁがっぽりですな」


「おうよ。しかし、こんな上等そうな小娘共、どうやって捕まえたんだ? なかなか路地裏に紛れ込んだりしねぇだろ」


「そりゃ、大通りでゆだんしてたところを……」


「あ? 待て、大通りで……」


 何やら騒がしい。

 そう思った瞬間だった。

 町中に響くようなけたたましい音が鳴り響いた。

 不安感を煽るようなその音に、男達がびくっと怯えたように周囲を見回す。


「なんだこの音ァ?」


「頭、なんか、街中が変ですっ」


「変? 何が変だ?」


「それが、冒険者共が街中を走りまわりだして、明らかに町内を見回る警備兵とは違う重武装の兵士も街中を走りだしました」


 どうやらこの近辺を兵士や冒険者が走り始めたらしい。

 明らかに何かを探しているそうだ。


「おいおい、なんか嫌な予感がしやがる。おい、クソ野郎共、このガキ二人、どっから持って来た!?」


「ですから、大通りで誰も見てねェ時に油断してたから袋に詰めてさっさと……」


 男達の言葉を聞いたリーダーと思しき男が私達の元へ足早に近づく。

 私のペンダントに気付いて、見せろ! と怒鳴って来たので恐る恐る見せておく。


「おい、クソ野郎共、これが何か、分かるか?」


「なんっつーか、変な首飾りっすね」


「女なんだしもうちょい宝石入ったのにすりゃいいのにな」


「この、馬鹿共がッ! こりゃ貴族の所有物を露わす首飾りだッ! てめぇらなんつーガキを攫って来やがる!」


「へ? 貴族? このガキが?」


「お、そりゃ高く売れるんじゃねっすか」


「チッ、ほんと使えねぇ、急いで荷を整えろ。ガキ共も連れて行く。さっさと動け、兵士どもがここを嗅ぎつける前にズラかるぞ!」


 男達は焦った顔のリーダーにしばしよくわからない顔を見せていたが、急いでここを出るということは理解したらしい。

 リーダーの男が私に手を伸ばす。

 多分、連れて行こうとしただけだろう。

 しかし、結界が張られていた。

 物理攻撃を無効化する結界。

 男の手は虚空で弾かれ、それ以上私達に近づかない。


「あん? なんだ?」


 何度か試すが、私達を掴めないと分かると、乱暴に拳を叩きつける。

 それも無理だと分かると、蹴りつけ、舌打ちして去って行った。

 どうやら私達は放置されるようだ。


 下手に私達を連れて行こうと努力するよりも、兵士達に見付かる前に逃げる事を優先するらしい。

 私たちみたいに連れて来られただろう浮浪児たちが連れて行かれるのが見えた。

 彼らは脱出の際に連れて行き他国に売りさばく金蔓なのだろう。

 可能であれば助けたい、そう思うけれど、今は自分たちの事だけで精いっぱいだ。

 だから、心の中で謝る。ごめんね。


 けれど、私の想いは杞憂に終わった。

 突如部屋のドアが乱暴に開かれる。

 兵士と冒険者が入り混じった混成部隊が突撃し、男達が次々拘束されていく。

 私が魔法を止めるのと、影のおじさんが私達二人の傍に出現するのとはほぼ同時だった。

 ロゼッタさんが、助けを呼んでくれたんだ。でも……ちょっと助けに来た人多過ぎない? たった数人に数百人単位で捕らえに来てるんだけど……

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