216話・フラジャイル、お嬢様、そこは違いますお嬢様!?
「サルバン地区からフラックス通りクリア」
「ヘルシック通り周辺クリア」
「シントック通り奥、コノトキダッケファミリーが検閲を拒否しています! ここに押し入るのは死傷者が多数でるかと」
「今回、闇業者が嫌に素直に応じてくれるよな、御蔭で内部調べるのが楽なのはいいんだが」
「まぁ、証拠はほぼ隠蔽されてるから、たまに小さい罪見付けるくらいだな。それもその場での注意で終わるし」
ここは兵士達の臨時本部。キリハたちを救いだすために臨時で作られた情報が集まる場所だ。
ロゼッタお嬢様はここで兵士長さんと共に兵士達がもたらす情報を精査しているようだった。
ただ、先程あったコノトキダッケファミリーの事を聞くと、すぐさま動き出す。
「ベルングシュタット侯爵令嬢、どこへ!?」
「わざわざ死傷者を出す必要はないんだよ。直接見て来るからちょっと留守にするんだよ。あと、秘密結社一つ潰れても緊急時だし問題ないよね?」
どういうこと!?
僕は慌ててお嬢様を追う。
なんか、嫌な予感がする。
今のお嬢様の返答、なんかやらかす気がひしひしとして来たんだ。
お嬢様に付いて行くと、やって来たのは先程報告にあったコノトキダッケファミリーの根城。
お嬢様はこれから突入しようと決死の覚悟をしていた兵士さんを押しのけ、一人歩いて根城に向う。
当然、兵士たちは止めようと声を掛けるがお嬢様のパルクール? とかいう技術の前では追い付くことなど出来なかった。ただ真っ直ぐに走ってるだけなのに障害物ものともせずに直進するから速い速い。
見る間に距離を放され、単騎突撃の様相を呈す。
コノトキダッケファミリーもさすがに女の子一人といえども突撃して来る敵を放置するわけにも行かず、魔法が次々に飛んでくる。
しかし、お嬢様に当った瞬間魔法は方向を変えて放った者の元へと突撃して行く。
魔法反射!?
「ち、畜生ッ! なんだこのガキはっ!!」
ファミリーの一人が剣を引き抜き突撃。
お嬢様に切りかかった瞬間、ガインと音が鳴って切りかかった男がぶっ飛んだ。
体に剣筋が走り痛みに悶絶する。
物理反射!?
え? 待って、魔法を反射して、物理も反射って、攻撃が全く通らない!? お嬢様、ちょっと待ってお嬢様、両方はさすがに酷いですよ!?
しかし、どんな攻撃も反射してしまう結界を張ったお嬢様は気にせずファミリーへと突撃。
ちょっと人探しするだけなんだよー。っと犯罪者相手なのに友人のお宅訪問みたいなノリで屋敷の中へと消えていく。突撃隣の犯行組織、である。
本来なら大丈夫だろうか、とはらはらしながら待つべきなんだけど……お嬢様が無事じゃない姿とか全く想像できない。
きっと何食わぬ顔で出て来るだろう。ここにはいなかったんだよ。くらいは言うかもしれない。
そんな事を思いながら少し時間が経った時だった。
ドォンッと巨大な音を立てて目の前の屋敷が吹っ飛んだ。
皆、唖然とコノトキダッケファミリーの居住地を見上げる。
空へと吹き飛んだ屋根が空高く舞い上がり。爆炎に煽られてひゅるひゅると落ちて来る。
敷地内に大穴開けて。屋根が激突。
衝撃に耐えきれずにその場でぶっ壊れた。
続く連続した破裂音で屋敷の壁がところどころ吹き飛ばされていく。
男達の悲鳴が飛び交う。
はっと我に返った兵士のリーダーが声を張り上げ煙に巻かれて出て来たファミリー幹部たちを次々に捕縛し始める。
侯爵令嬢に攻撃してきたのだから罪状など確認するまでも無く全員有罪である。
えげつないですお嬢様。
突撃して来た相手を攻撃しただけで有罪確定は可哀想。
というか、お嬢様がおっさんの顔面アイアンクローした状態で引きずって来たんだけど……
「もぅ、ちょっと見せてっていっただけなのに、酷いんだよ」
酷いのはお嬢様だと思うのですが。
コノトキダッケファミリーがひた隠しにしていた秘密はお嬢様により白日の元に晒された。
どうやら大麻だか何だったかを秘密裏に栽培していたようだ。
お嬢様は折角だし全滅しとくか、ってことで爆散させてしまったようだ。
あの、お嬢様? キリハたちここに居ませんよ?
なんでついでで悪人の根城が吹き飛ぶの?
「邪魔だったんだよ」
これである。
お嬢様、いい機会だからって関係ない場所潰しちゃうのはおかしいと思います。
幾ら悪いことやってる組織でも、これはさすがに……
「さぁ、じゃんじゃんいくんだよ」
爆炎を背に、邪悪な笑みを浮かべるロゼッタお嬢様。
ここ、全く関係なかったですよ? お嬢様? ここは拉致した組織じゃないですお嬢様!
ここでようやく僕は理解した。
お嬢様が本気を出すということは、敵対した存在だけじゃない。周囲全てを焦土に変えて、敵性存在になり得る全てが纏めて粉砕されてしまうということに。
どこの邪神かな……? 誰だよこんな危ない人に暴れる理由与えた馬鹿はっ。