212話・キリハ、メイドさんとお買いもの
「おう、丁度よかった。休憩済んだらでいいからお使い頼んでいいか?」
私が休憩に入ると、キッチンに居たルインクさんが声を掛けて来た。
別に問題は無かったので頷くと、お金と商品の書かれた羊皮紙が手渡される。
店の場所も書かれていたので迷うことは無いだろう。
「お嬢がな、少しずつ外に出ることも慣らしておくよう言われててよ。そこにいるメイドさん共々ちょっと行って来てくれ。あ、一人で行くなよ。数人誘って行く事。三、四人くらいが良いと思うぞ」
「うん。分かりました」
クイッキルは当然、連れてかないと怒るだろうし、えっと、暇そうにしてるのは……クラムサージュさんとステーアが暇そうにしてるね。これで四人か。
メイドさんも入るから計五人。うん、丁度良い人数かな。
「あ、悪い、ちょっとまだ仕事が……」
どうやらクイッキルは忙しいらしい。
働くの好きみたいだし、ここに来れてよかった、かな。
でも、なんかちょっと複雑。
クラムサージュさんもさすがに付いて来てくれなかった。代わりにステーアと一緒にいた二期生の二人が一緒に付いてくることになった。
クイッキルも来ないから結局人数的には一緒になったからいいかな?
メイドさんはリオネッタさんというらしい。なんでもお嬢様お付きのメイドだそうなんだけど、ちょっと蓮っ葉な感じ、というか、妙に冷めてる感じがする。お嬢様の事、あまり眼上の人物だと認識してない感じかな?
メイドさん、さすがにその態度のままだとその内解雇されちゃうと思うよ?
リオネッタさんと共に私達はお使いに向う。
街をこうやって歩くのって実は初めてだ。
逃げて来た時はクイッキルの知り合いの家に向うので夢中だったし、そこから逃げだしてからは路地裏で生きるのに必死だった。
だから、街で営まれている人々の生活は初めて見る。
なんというか、活気があるって言えばいいのかな、凄く、楽しそうだ。
たまに私を見てぎょっとした顔をするけど、やっぱり魔族は敬遠されるのかな?
一つ目族は顔の真ん中に目があるから、人と違うってことで気味悪がられるのかも。
「えーっと、必要なのは肉と、お野菜だね。お野菜はいくつかあるけど、何作るんだろこれ?」
「ちょっと見せてキリハちゃん。んー。あ、これ、多分カレーね」
見せてといいつつ私から無理矢理奪い取ったリオネッタさんが告げる。
聞いたことない言葉だ。
かれー?
「かれーってなに?」
私の代わりに付いて来た二期生の一人が尋ねる。
名前、聞いてなかったから分かんないけど、私の事怯えてるみたいだからあまり話しかけられないんだよね。
「カレーっていうのはね。お嬢様発案の、あ、違うか、えっとどっかの国で食べられてる食事でね、いろんな香辛料を組み合わせて作る料理なの。スープみたいなものね、お嬢様はお米欲しいとか言ってたけど、今回は試作中のうどんを使うみたいね」
「うどん、ってなに?」
「あ、もしかして今私達の班が作ってる白い粉から作る奴? あれ楽しいよ。水と一緒にこねこねして足でふみふみしたら粉がもっちもちしたのになるんだよ? ソレを包丁で細く切った奴!」
「あ、アレってうどんって言うんだ」
「そっか、ペペリたちが作ってるのが食事に出るんだね」
「うん、そう言ってたよ。美味しく出来てたら販売するんだって」
「うどん、乾燥させて売るって言ってたよ」
お嬢様、いろいろ考えるなー。私達も新商品考えるようにしとけって言われてるけど、そうぽんぽんアイデアは思い浮かばないよ。
「ま、これなら揃えるのも楽そうだねぇ。お金は……うぅ、丁度くらいか。食料買ったらさっさと戻れってことね」
このメイドさん。多めに余ったらお金使う気だったな。
「あ、ちょうちょさん……」
「えーっと最初は肉屋ね。結構近いからさっさといきましょっか」
あ、ちょっとメイドさん、二期生の一人がふらふら歩きだしたよ!?
ああもう、ちょっと駄目よ。
店に向う皆から離れていく少女に気付いて慌てて引き留める。
「あ、もう、ちょうちょさん行っちゃったじゃない」
「じゃない、じゃないわよ。ほら、このままじゃはぐれちゃうから戻りま……しょ?」
「……あれ? 皆は?」
私より一回り小さい子と二人きり。
周囲を見回してみれば、メイドさん達は既に何処にも見当たらなかった。
店の場所を確認しようにもメイドさんが奪っていったので店の名前も場所も分からない。
プライダル商店に戻るのが、一番か。
「仕方ない、戻ろっか」
「あ、その……御免なさい」
今度は離れないように、彼女の手を握る。
魔族だからって怖がられるかもしれないけど、これ以上迷子になられるよりは……
「っ!?」
「よし、ノルマ完了だ!」
急に、背後から口を塞がれた。
何が起こったのか理解できないうちに隣の子が大きな麻袋に詰め込まれる。
ちょ、まっ……
そして私も……布で口を縛られ、袋の中へと放り込まれた。