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209話・???、恐ろしい商店ができたものだ

 暗い部屋の中、男達は無言で待っていた。

 一瞬、光が差し、最後の男がやって来る。

 暗闇の中手慣れた様子で移動して、目的の席へと辿りつく。


「どうやら、私が最後のようだな」


 ふぅっと息を吐く男に皆が頷く、しかし、暗闇の中、その動きを見ることが出来た存在は誰も居なかった。

 とある会議室、光を全て無くしたそこに、各商店の長が集っていた。

 皆、大店として名のある商店、否、無数の商店を営む彼らは商会長と呼ぶべきか。


「では、始めようか、今年初のライオネル商会長会議第1回だ。最初の議題は、まぁ皆言うまでも無いだろうが、新しく出来た商店に付いて、皆の意見を聞きたい」


「ふん、随分と盛況だそうではないか。羨ましい限りだな」


「本当に、まさか開店初日に業界初の長蛇の列を作り最後まで途切れなかったというのは商業ギルドの記録に残ることだろうな」


「やろうと思って出来ることではないだろう? 運が良かっただけだ」


「ふっ、分かっておらんな若造ども。運良く? 狙って出来ることではない? 逆だバカもの。あれは狙わねば出来ぬ類のモノだ。現に運が良いだけなら、連日の行列には続くまい」


「なっ、多少昔から大店であっただけではありませんか。若造などと……」


「黙れよ若造。それより狙ってやったというのはどういうことか?」


「む? わからんのか? ああ、もしかして挨拶周りの時本人に会ってないなお主。あのお嬢に会ったならすぐに分かる。アレは全て計算したうえで商店を立ち上げたのだ。ゆえに盛況であることこそ普通。末恐ろしい娘だよ。アレで貴族の娘だというから手に負えん。平民であれば早々に潰して我が右腕として雇うのだがね」


「相変わらずエゲツない思考回路しとるなお前さんは。下手なちょっかいは掛けん方がええぞ、今回は特にの」


「わかっている。というよりは、相手は侯爵家だぞ? 下手に突いて藪から蛇ではなくドラゴンなど出て来た日には我が商会といえども潰される可能性がある。そんな手痛い反撃の可能性があるのにおいそれと手を出せるものか」


「全くだ。余程の馬鹿か情報不足の愚か者くらいだろうな。おや、そう言えばどこぞの商会がなにやらちょっかいを掛けたそうじゃないか。なぁ若造」


「だから、なんで皆俺の事若造扱いするんだよ。これでも30越えてるんだぞ! 今回のお嬢の方が若いだろ」


「アレはもうお嬢で呼び方統一じゃろ。お主は儂らの中で一番若いんじゃ。若造を返上したいならもっと若いもんを商会長にしてみぃ」


「そんな暇あるなら自分の商会広げる方に尽力しますし。しかし、マルセス商店でしたか、随分とやらかしてしまいましたね。アレって、確かそちらの商会に所属しようとしてませんでしたエグい方?」


「さぁて、どうだったかな?」


「どうせ商会に入りたいならとか言いながら様子見のためにプライダル商店にちょっかいを掛けさせたのだろう? 可哀想に、あて馬にされるとはいい迷惑じゃな」


「ふん、利に敏いのが商人に必須のスキル。それが無く、手を出すべきではない存在に手を出した方が悪い。とはいえ、反撃があそこまで酷いとは想定外だったがな」


「それは儂も思ったぞ。ちょっと肩が触れたくらいで相手を殺すまでするかと、のぅ」


「我々に対して反撃はこれ以上だぞ、と暗に告げるために盛大にやったのだろうな。あて馬があて馬にされて返されたということか、不憫よな」


「普通の商店なら下調べせずに新商品中止を泣く泣く受け入れ涙する程度。出来る店長であれば不正の疑いが無いかギルドに尋ねたり、ごねるなどして販売中止までの時間を先延ばしにしてみたりするかもしれない、だが、実際に行われたのは、潔く中止を受け入れるかと思いきや、民意に訴え弱者を装い、民衆に断罪させるという。ああ、我ら商人にとっては一番大切な信用を奪い去るという暴挙。マルセス商店にはこれを撃退する方法も無ければ、被害を抑える術も持たなかった。ゆえにあの店は早々に潰れるだろう」


「はは、あなたのことエゲツない人と渾名付けようとしてたんですが、お株を奪うような一手ですね」


「新進気鋭であり、店長自身がか弱い少女という姿であることが相乗効果を生んだんだな。民意も鯛焼きとやらが欲しいだけの者はいなかっただろう。あくまでも店長であるお嬢があまりにも不憫に思え、それゆえに大人であり中型店舗であるマルセス商店は悪辣だ、と印象づけることに成功した。ただ、予想以上に悪印象であったがゆえにマルセス商店は払拭できなかった、ということか。誰も助けてくれる者がいなかったのだろうな」


「そういう助けてくれそうな者を独自に囲い込んでおくのも商人の実力だ」


「厳しいのぅ。お前さんのせいでもあるんじゃがの?」


「記憶にないな。それより次の議題に移らないか?」


「おお、そうじゃの。と言っても続きのようなもんじゃ。今はまだ商店のままじゃからよい。しかし、ほぼ確実に、お嬢の店は商会に伸し上がるじゃろ。つまり、この商会会議に顔を出す側となる可能性が高い」


「末恐ろしい嬢ちゃんだ。貴族として接しないと駄目か?」


「問題ないそうじゃぞ。商業中は商人として相対してほしいそうじゃ」


「なるほど、しかし手を出せば貴族として対応、か。なんとも恐ろしい商店だな」


「しかし、まぁ商会となれば招待せん訳にも行くまい。問題は……ギルド長のこういった趣味をどう納得させるか、だな」


「べ、別に良いではないか。暗闇の会議とか如何にも黒幕的な何かっぽいじゃろ!?」


 それからも、商会会議はいくつもの議題を話し合って終わるのだった。

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