208話・ロゼッタ、そこまでする気は無かったんだよ?
その日、お爺ちゃんがやって来たので応接間にお通しさせていただいた。
一緒にリックルとフラジャイルを連れて来ている。
相手のお爺ちゃん、まぁ要するに商業ギルドのアランザムさんだ。
気のせいか最近見る毎に痩せていってる気がする。
今日も顔を青くしながらやってきた。
なんでも話をしたいそうなのだ。
「それで、お話と言うのは?」
「う、うむ。一応既に知っとると思うが、マルセス商店は今住民から総スカンを食らい系列店の売れ行きが過去最低を記録しておる」
「あらあら、まぁまぁ、それはご愁傷様ですわ。一体なぜなのかしら」
「お嬢、さすがに白々しすぎだろ」
「影のおっちゃんは黙ってなさい」
正直な話、マルセス商店は自業自得なんだよ。
このままだと店閉めることになるんじゃないかな?
「こうなると、予想しておったのか、ロゼッタ嬢?」
「まさか、私はただの被害者ですわよ? 心優しき皆さまの御蔭で鯛焼きを販売することが許可されるなんてことすら予想してませんでしたわ。ああ、皆様に感謝を」
両手握って遥か彼方にお祈りするんだよ。潤んだ瞳できらきらきら~。
「やっぱ白々しい」
おだまりおっちゃん。確かにここは意図してやったけども、やり返された民意を回復出来てないのはマルセス商店の落ち度なんだよ。
まさかここまで落ちぶれていくとは想定外すぎるんだよ。
ただただ、おのれプライダル商店めぇぇぇって地団駄踏むマルセス商店店長さんが見れるかな程度のことだったんだよ。
「さすがにやりすぎじゃ嬢ちゃん。商品一つを潰されるのが嫌だったのは分かるが、反撃で店を潰そうとするのはさすがに、のぅ、商業ギルドも下手したら潰れとったぞ」
「それは私に言われても困るんだよ。そもそも反撃されるのが嫌なら攻撃しなけりゃいいのでは? 人を呪わば穴二つ掘れ、なんだよ。私はちゃんと大店とはモメないように、と仲良くしましょって挨拶周りしてきましたのよ。敵対しませんという意思表示ですわね。マルセス商店は代わりに他の店巻き込んで我が商店に攻撃を仕掛けてきました。巻き込まれたとはいえ攻撃の一因となった商業ギルドも嫌なら攻撃に参加しなければ良かっただけですわ」
「それはそうじゃが、こちらも仕事じゃしな?」
「仕事なら仕事でしっかりと真偽を確かめてくださいまし。今回はこちらで何とか出来たから良かったものの、似たような方法で泣きを見ている商店もいくつかあるかもしれませんのよ?」
「そうじゃの、御蔭で長年変わることの無かったギルドの規則が少しずつ厳格に変わり始めとる、御蔭で暇が無くなってきたわい」
「それは良かったではありませんか」
「そうなんだが、そうなんだがっ、うぅ、おうち帰る……」
結局、何しに来たんだろアランザムさん? 愚痴言いに来ただけかな?
愚痴だけ言って帰っていったアランザムさんを見送って、ダイニングルームに帰ってくると、そこで待機していたリックルとフラジャイルが何とも言えない顔をしていた。
「えっと、結局どこまで考えてたんです?」
「そうねぇ。とりあえず、あのおじさん、あ、最初にクレーム付けて来た人ね。あの人の後を付けてた影さんがウチの鯛焼きを販売中止にするつもりだって情報を持って来たの。それでちょっと考えたんだけど、以後もちょいちょいちょっかい掛けられるのを承知で先手を打つ方法と、一旦中止にしてお客さんの善意に訴えかけてみるかを考えたのよ。今回はちょっと賭けに成ってたんだけど、ほら、貴族のエレインがいたでしょ。確率的にはこっちの方が成功率高いし、効果も高いかなって、何しろウチにちょっかい掛ければ民衆けしかけられて逆に酷い目に合うっていう前例があればちょっかい掛けてみようっていう別の店も居なくなるでしょ? 誰だって自分の店に被害出したくない訳だし。そういう意味でいえば今回マルセス商店は大店が様子見のために遣わせた刺客でしかなかった訳だけど、まぁ反撃しなかったら与しやすいと思われて次々仕掛けて来るだろうし、最初にガツンっとやっちゃうことにしたんだよ」
フラジャイルもリックルも良く分かってないだろうけどガツンのところで生唾を飲み込む。
「えーっと、具体的に、本来はどうするつもりだったので?」
「泣き落とし作戦ね。自分たちはどうしようもない弱者なので皆さん守ってくださいって主張した訳。結構わざとらしくはあったけど、サクラに使われたのが伯爵様の息子だからね」
一緒に付いて行くようにしたメンバーにもサクラがいた。それがA級冒険者たちだったりするのだが、向こうは私の三文芝居を見て合わせてくれただけでもある。
御蔭で予想以上の効果がでたようだ。
噂が噂を呼び、マルセス商店は今、数々の自分たちの気に入らない商店を商業ギルドを利用して公的に抹殺していた極悪店として人々の口に次々上がっている。もちろん尾ヒレ背ビレにお頭付きである。仕入れ商品の護衛も冒険者たちが断り始めてるらしい。
「正直、エグいと思う」
「情報操作って怖いねフラジャイル。ちょっと調べただけで恐ろしい反撃になってしまった……」
「当然よ。情報は宝。例え他国と戦争が起きたとしても情報を制した方が勝つと言われる位に重要なモノよ。貴方たちも情報を集め精査する能力は身に付けておきなさい必ず役立つから」
と、そんな事を言えば、何故か姿勢を正した二人が私に敬礼してイエス、マムとか叫んで来た。
何処で習ったそんなもん。私は教えてないぞ?