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206話・アランザム、嫌に素直だと思ったらこういうことか!?

「た、たたた大変ですギルド長ッ!!」


 その日、いつものようにギルド長室の執務机を前に座っていると、受付嬢長のミ・ステラが泡食った顔で駆けつけて来た。


「なんじゃ珍しい。お前さんがそんな焦った顔をするとは、何があったんじゃ?」


「き、ききき、貴族、貴族が乗り込んできましたッ! プライダル商会の件で、ギルド長を出せとっ」


「はぁっ!?」


 え? 何、ちょっと待って、貴族?

 いや、待って。ロゼッタ嬢は貴族ではあるが。商店としてはちゃんと納得して販売中止を決めたよな? え? その件じゃないのか?


「と、とにかく早く! このままではギルドが消されかねませんッ」


「う、うむ。そうじゃな」


 仕方なく、椅子から立ち上がって走る。

 正直この老体が走ることなど滅多にないもんじゃから身体がキツいわい。

 一体何がどうなったんじゃ?


 カウンターへとやって来ると、無数の商人たちが遠巻きに眺め、カウンターにいる青い顔の受付嬢が若い貴族の男を前に両手を挙げてお許しくださいと連呼していた。

 なんと不憫な。しかも、貴族の後ろには無数の民衆が憤怒の顔で待っている。

 これはさすがに恐ろしい。下手な問答をすれば暴動に成る可能性すらある。


「何の騒ぎじゃ!」


「む、来たな。貴様がギルド長か」


「うむ。その通りじゃ。そなたはどちら様かな。そして何用でこちらに押しかけるような真似をしたのかね?」


「俺はエレイン。エレイン・ヒールロッドだ。ヒールロッド伯爵家の長男である」


 うぐ、本当に貴族ではないか。しかも家紋まで見せて主張されてはもう引くに引けんぞ!?


「用事は簡単だ。俺はプライダル商店の鯛焼きを買いに来た。すると鯛焼きはマルセス商店とギルドのせいで販売中止に成ったと言うではないか。即刻販売中止を撤回しろ、俺は鯛焼きを買いたい」


 そーだそーだ。と後の民衆が口々に叫ぶ。

 いかん、いかんぞ。なんだこの状況は?

 しかも、後ろに見える人物の中にA級冒険者達まで居るではないか。

 これ、もしかして拒否したら今後A級冒険者たちから護衛依頼受けてくれなくなるのでは?


「お、落ち付いてくだされ。順を追って話そうではないか」


「ふん。話すも何も何を話すというのだ? ただ撤回すると宣言するだけだろう?」


「そもそもですな。商業ギルドに登録する際プライダル商店は他店との競合を行わないと告げておるのです。しかし、鯛焼きは他店との競合が行われる可能性があり、現実にこうして複数の店舗より競合しないでほしいという嘆願書が」


「ふん。良く調べたのか? そこに書かれている殆どが飲食物を取り扱っていない店ではないか。しかも飲食物を取り扱っている店もほぼマルセス商店子飼いの露店。扱っているのも焼き串などが殆ど。粉モノ菓子に類する鯛焼きと真に競合している店が何処にある」


 ばんっと叩きつけられるように書類の束がカウンターに置かれる。恐る恐る覗いてみれば、血判状に名があった店の取り扱っている商品類が書かれていた。

 ……お、おいおい、まさか、この貴族、全ての店を調べ済みか?

 いや、待て、確かこの貴族。プライダル商店に入り浸っているもの好き貴族ではなかったか。

 それが昨日今日中止が決まったことをこれほど正確に調べられる訳が無い。


 となれば、事前にこういうことを想定して、商店に対する敵意に反撃する手段を持っていたプライダル商店の反撃が始まったと仮定した方が……そうか、そういうことか、あの小娘。殆ど反論することなく中止願いを受け入れたのはこういうことか!?

 これでは儂らギルドとマルセス商店が結託して話題に昇り始めたプライダル商店を潰しに掛かったと見られてもおかしくない。


 マズい、非常にマズい状況ではないかこれは!?

 このままのらりくらりこの貴族の追及をかわすことは可能だ。

 しかし、後の民衆がどう思うかなど想像に難くない。


 下手をすれば、ギルドの信用すら失墜しかねない。

 どうする? このままマルセスを庇うか? 否。それは悪手。ギルドに一番被害が出ない方法など分かり切っている。


「それは本当なのか。見せて貰っても?」


「うむ。これが我らが調べた報告書だ」


 我ら……か誰が調べたとも取れる言い方だ。

 そして調べられた商店名などは、確かに連名書に書かれた店だ。扱っている内容にも鯛焼きと競合するような商品は取り扱われていない。

 つまり、完全にマルセス商店はプライダル商店を潰しに掛かったと言わざるを得ない。

 フォローをすれば、ギルドも纏めてプライダル商店の敵に回るだろう。それは……恐ろしい。

 何しろ既に、彼らは民衆を味方に付けた。これでプライダル商店の鯛焼きを中止のままにすれば、この書類が何よりの証拠、民衆が知ればギルドは悪逆の徒として祭り上げられる。

 今回は、それでも乗り切れるかもしれん。しかし、民衆に確かに刻まれてしまう。罪も何もない筈のプライダル商店の新商品を潰すようなギルドであると。


「ミ・ステラ、この書類に判を押したのは誰だったかの?」


「え? えぇと……」


 言いにくそうに視線を向けたのは、前々から一部店舗との繋がりが噂されてる男の受付係だ。一応彼でも受付嬢という役職になる。一部からは嬢と付いているからには男がやっちゃだめじゃね? とか言われているのだが昔からある受付嬢という役職に男女平等で男性職員も受け付けに就き始めただけの事。未だに上層部から役名変更は通達されていないので儂の一存で変えることは難しい。


 ただ、まぁ、生贄は決まったな。すまんの、ギルドのために、散っとくれ。

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