203話・ロゼッタ、罠に掛かった人がいるんだよ
「失礼します」
皆と話していたらいつの間にか数時間が過ぎていた。
そしてやって来る影の人。
多分だけどお父様のお付きの人だな。
「ん。用件を言え」
「先程追っていた男なのですが、マルセス商店に入って行きました。どうやらそこの用心棒の一人のようです。話を聞くに、もめごとを起こして相手の商店を潰す役割を担っているかと」
ありゃ、それって……はっはーん。
そうかそうか、ついに現れてしまったか。
私としても大繁盛し過ぎてるから何時かのタイミングでどっかの商店がちょっかい掛けて来るんだろうなーとは思ってたんだ。
とはいえ、商業ギルドのギルド長さんが大店には私が貴族だって告げておく、みたいなこと言ってたから来ないかなとも思ってた。
でも、マルセス商店、ねぇ。中型店舗だったっけ。
悪いけど、今回手を出して来たのは相手が先だし、今後の戒めも兼ねて公開処刑っちゃってもいいよね? 仕方ないよね? うふふふふん。悪役令嬢御降臨、なんだよ。
「うわぁ、ロゼが凄い顔してる」
「こうして侯爵様と一緒に見ると親子だなぁって納得するな」
「うわぁ。侯爵様も凄い悪役顔になってる……二人揃って何考えてんだろ」
煩いよケリーア。
にしても、マルセス商店ねぇ。
「影のおっちゃん。ちょっと影の人にお仕事お願いしたいんだよ」
「あいよー。なーんか嫌な予感がするが、聞きましょうお嬢様」
「マルセス商店に付いて探ってくださいまし。あと相手が打って来る手段を事前に知りたいわ」
「安心したまえロゼ。その辺りは既にこっちで動いている。そうだな?」
「はい。マルセス商店はどうやら子飼いの露天商人たちに血判状を書かせギルドに直訴するようですね。今は露天商を回っている最中です」
お父様付きの影が告げる。
さすがはお父様付きの影、良い仕事してるなぁ。
しかし、そういうことなら何をされるかは大体わかっちゃったな。
「では影のおっちゃん。部下の人でいいから血判に署名した露天商とかの名前と店名、それから取り扱っている商品を調べてほしいんだよ、可能?」
「了解、早速行かせる」
と視線で何かを指示するおっちゃん。
別の影の人がすっと動くのが見えた。
……この部屋、影の人何人居るんだろう?
「あの~……」
丁度休憩に入って来たらしいリックルとフライジャルが申し訳なさそうに入って来る。
うん、今の会話とか聞いてたな。
「どうしたのリックル?」
「えっと、聞いていいのか分かんないんだけど、その、さっきの話、なんで露天商の名前と店名だけじゃなく取り扱ってる商品、いるのかなって」
なぜそこに着目したのか。
いや、むしろ、そこに着目出来るのは凄いのでは?
「気になるのかしら? じゃあ折角だから影の人に付いてって貴方たちも調べて来なさいな。後で何のためか教えてあげるから、調べ物をするノウハウを習うと良いんだよ」
何事も経験だってことで、影の人に護衛頼んで二人に外回りを命令しておく。
分かってない顔してるけど、慈悲は無いんだよ。
体験してからの方が理由知って成る程ってなりそうだしね。
「いいの? あの子たち休憩したかったんじゃ?」
「あ、しまった」
まぁ外回りなら外で休憩出来るでしょ。
「それで? 実際何するつもりなんだロゼッタさん?」
「んっふっふ。ギリード君。今回向こうが使う手段は商人ギルドを巻き込んだ正規のクレームになるんだよ。御題目としては、おそらく今回の鯛焼き君を潰しに来たってことね。だったら御望み通りに潰されてあげるんだよ。まぁ、潰されたから終わり、だと思ったら間違いだけどねぇ」
「私、ロゼッタがやり過ぎるに100サクレ」
「賭ける意味があるのか? 私もそちらに100サクレだ」
全員がそっちに掛けたから全く賭けにならないんだよ。
というかなんで私がやり過ぎることが確定してるのかな? かな?
あんましイジめるようだと、ヒグラシが鳴いちゃう村並の壊れた笑顔になっちゃうかもしれないんだよ?
全く、皆何を勘違いしてるか知らないけど、今回私は被害者になるだけなんだよ?
なのにやり過ぎるってどーなのよ?
本当にもう、皆私の事危険人物だと勘違いしてない?
「さーって、それじゃあリックルとフラジャイルが抜けた穴でも埋めて来ますかー」
「あ、逃げる気だ」
「いやいや、僕らが来たことでもう数時間拘束してるから店の様子を見に行く上でもいい頃合いじゃないかな?」
「ああ、そう言えばもうこんな時間じゃないか。長らく話をしてしまったな」
「ロゼッタさん、今日は押しかけてしまい御免なさいね」
「いいのよデリー。楽しい一時だったわ」
「そう言ってもらえると、嬉しい」
ちょっと照れたフレデリカが可愛い。抱きしめていいかな?
「まぁ折角だし、帰りに何か買って帰ってあげるわ」
ケリーアはその上から目線の口調は止めた方が良いと思うよ。幾らツンデレでも目上の人を敬うことは忘れちゃ駄目だと思うの。そういうとこだぞ。